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16話 まるで別人
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研究塔を飛び出したわたしは、ノルンを探して学院中を駆け回った。
ところが、どこを探しても見つからない。
授業の合間をぬって、わざわざ一つ下の学年の彼女が所属するクラスにいっても居ない。さっきまでそこに居たのに、とクラスメイトたちが口を揃えて言う。
わたし達・代表生徒は、目立つ色付きローブを着用していて見つけやすいはずなのに。
わたしが探しているのを知って、逃げているんだろうか。そんな馬鹿な。
野生のウサギかユニコーンか。
結局、一日かけても見つからなかった。
“まあいつかは見つかるわ”と諦観しながら寮の自室に戻って数時間後ーー…。
わたしの目の前に、向こうから訪ねてきたのだった。
わたしは風呂上がりの濡れた髪をそのまま、夜着を着た姿で、取っ手に手をかけて固まった。
自室の浴室から出たタイミングで聞こえたノック音。
時間帯からして、わたしの自室をノックする相手は決まっている。最近、夜に眠れなくなると必ず訪ねてきてくれるようになったキアと付き添いで友人のアシュリーだ。
最初はわたしを前にすると小動物のように怯えていた二人も、少しずつ笑みを見せてくれるようになった。二人のことをレオンスは取り巻き令嬢なんて言うが、わたしにとって彼女達は可愛い妹のような存在だ。
「はーい、今開けまーす」
わたしは、嬉しくなって気味の悪い笑みを堪えきれないままドアを開きーー、そして固まった。
これ以上ないほどに驚いてしまう。
今日一日、必死になって探していた人物が突然目の前に現れたから。
「ノルン・レイカフ???」
動揺を隠すこともできずに名前を呼べば、彼女もまた目を丸くさせて珍しく戸惑っている様子が見えた。
そんなノルンの背後からひょっこり顔を覗かせたのは、キアとアシュリーだった。
キアは笑って告げる。
「今日は、前に話したルームメイトを連れて来たんですっ」
!!!
まさか、こんなところで繋がっていたなんて。
「とにかく入って……」
わたしは三人を部屋に招き入れることにした。
「いつもみたいに魔法で窓から抜け出そうとする前に、素早く捕まえてきたんです!」
ねーっ、と顔を見合わせながら声を弾ませるキアとアシュリー。
経緯を耳にしながら、三人分のホットミルクを用意してテーブルに運んだ。
ノルンは居心地悪そうにそわそわした様子で、きょろきょろと視線を巡らせている。目の前にカップを置くと、ぎこちなくお辞儀をして見せる彼女に動揺は続いていた。
なんだろう。
今までに見たことのない姿だ。
わたしに赤ワインをかけたときに浮かべた仄暗い笑みや、バラを踏みつけたときのような表情の無さはどこにもない。
眉を僅かに八の字に下げた、どこかあどけなく見えるような今のノルンはまるで別人だった。
せっかく会えたというのに。聞きたい事、言いたい事があるというのに。この状況。キアやアシュリーの前では、あの本についての話ができない。
わたしは、どうやってノルンと二人きりになるかで頭の中がいっぱいだった。
だからノルンが小さく「なんていい匂い……」なんて呟いたことなど耳半分で聞き流したのだった。
ところが、どこを探しても見つからない。
授業の合間をぬって、わざわざ一つ下の学年の彼女が所属するクラスにいっても居ない。さっきまでそこに居たのに、とクラスメイトたちが口を揃えて言う。
わたし達・代表生徒は、目立つ色付きローブを着用していて見つけやすいはずなのに。
わたしが探しているのを知って、逃げているんだろうか。そんな馬鹿な。
野生のウサギかユニコーンか。
結局、一日かけても見つからなかった。
“まあいつかは見つかるわ”と諦観しながら寮の自室に戻って数時間後ーー…。
わたしの目の前に、向こうから訪ねてきたのだった。
わたしは風呂上がりの濡れた髪をそのまま、夜着を着た姿で、取っ手に手をかけて固まった。
自室の浴室から出たタイミングで聞こえたノック音。
時間帯からして、わたしの自室をノックする相手は決まっている。最近、夜に眠れなくなると必ず訪ねてきてくれるようになったキアと付き添いで友人のアシュリーだ。
最初はわたしを前にすると小動物のように怯えていた二人も、少しずつ笑みを見せてくれるようになった。二人のことをレオンスは取り巻き令嬢なんて言うが、わたしにとって彼女達は可愛い妹のような存在だ。
「はーい、今開けまーす」
わたしは、嬉しくなって気味の悪い笑みを堪えきれないままドアを開きーー、そして固まった。
これ以上ないほどに驚いてしまう。
今日一日、必死になって探していた人物が突然目の前に現れたから。
「ノルン・レイカフ???」
動揺を隠すこともできずに名前を呼べば、彼女もまた目を丸くさせて珍しく戸惑っている様子が見えた。
そんなノルンの背後からひょっこり顔を覗かせたのは、キアとアシュリーだった。
キアは笑って告げる。
「今日は、前に話したルームメイトを連れて来たんですっ」
!!!
まさか、こんなところで繋がっていたなんて。
「とにかく入って……」
わたしは三人を部屋に招き入れることにした。
「いつもみたいに魔法で窓から抜け出そうとする前に、素早く捕まえてきたんです!」
ねーっ、と顔を見合わせながら声を弾ませるキアとアシュリー。
経緯を耳にしながら、三人分のホットミルクを用意してテーブルに運んだ。
ノルンは居心地悪そうにそわそわした様子で、きょろきょろと視線を巡らせている。目の前にカップを置くと、ぎこちなくお辞儀をして見せる彼女に動揺は続いていた。
なんだろう。
今までに見たことのない姿だ。
わたしに赤ワインをかけたときに浮かべた仄暗い笑みや、バラを踏みつけたときのような表情の無さはどこにもない。
眉を僅かに八の字に下げた、どこかあどけなく見えるような今のノルンはまるで別人だった。
せっかく会えたというのに。聞きたい事、言いたい事があるというのに。この状況。キアやアシュリーの前では、あの本についての話ができない。
わたしは、どうやってノルンと二人きりになるかで頭の中がいっぱいだった。
だからノルンが小さく「なんていい匂い……」なんて呟いたことなど耳半分で聞き流したのだった。
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