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「これは?」
「ん~かっこいいけど、ゆきにはちょっとゴツイかも?」
きらきらと輝く星がちりばめられたような店内。
ずらりと並ぶショーケースの中にも小さく色とりどりの星たちが並べられている。
おれと理央は約束通り、結婚指輪を選びにジュエリーショップに足を運んでいた。
プロポーズの翌日から理央はさっさと動き出し、役所から届けをもらってきた。ふたりでいすを並べて丁寧に記入して、それを提出する前に親たちに報告の電話をかけた。
挨拶に行った翌日の話だったから、洋子さんには笑われたけれどしっかり祝福してくれた。モデルとしての理央の結婚発表についてもタイミングと様式を話し合った。
正彦さんと雪子さんはひたすら大喜びしてくれた。きゃあきゃあはしゃぎ声をあげる雪子さんを正彦さんが笑いを含んだ声で宥めているのが微笑ましかった。
結局、仕事の関係各所への報告のための用意があり、その2週間後におれたちは入籍した。
ふたりで話し合って結婚式はやらないと決めた。雪子さんを筆頭に残念がっている人たちもいたけど、沢山の人からお祝いの言葉や贈り物をもらってしまった。
理央のマネージャーが言うには、理央のファンの子たちも祝福ムードだそうで、何気にそこを一番心配していたおれはほっと息を吐いた。
隼人もなぜか泣くほど喜んでくれて、おれもつられてしまい二人で手を握り合ったまま大泣きしてしまった。しかも事務所で。
そんなこんなでバタバタとしていた自分達も周りも落ち着き。
暦はとうとう9月に移り変わろうとしていた。
結婚式をしないならと後回しにしてしまっていた結婚指輪を買うべく、ここ最近の休みは理央に引きずりまわされている。
お高そうなショップにもズンズン入っていくから常におれだけ腰が引けるてい。
例外なく今見て回っているこの店もスーツを着こなした店員さんたちとショーケースに囲まれたいかにも、なところだ。
(いいかげんちょっと慣れてはきたけどね…)
格式高いお店で、しかもカップルでいるとあまり店員さんからは話しかけてこない、というのはここまでの経験から学習済みだ。
声をかけられるとパニクってしまうおれにはありがたい話だ。
遠慮なくショーケースをゆっくりとのぞき込んでいく。
(あ…。)
のぞき込んだちょうど目の前にあったのは、透き通った石を乗せたシンプルな指輪。
それほど大きくはない石を繊細な金の土台がが包み支えている。
(きれい…これ、なんて言うんだろう)
いままで見てきた豪華な指輪よりも心から引き付けられるような、そんな感覚がする。
「ん?…あ、これ?きれいだね」
すかさずおれの様子に気付いたらしい理央が背後からのぞき込み感嘆の声をもらす。
「ね、他の宝石より透き通っててさ、きれいだよね」
「うん。少し青みがかってる、かな?」
言われてみれば光を吸い取ってうっすら青く輝いているようにみえる。
「…そちら、お気に召しましたか?」
声をかけられて左を向くと、上品に髪を撫でつけた男の人が微笑んでいた。
「私、ここのオーナーで宮島と申します」
「あ、この指輪がとてもきれいだなと思いまして」
ショーケースの中を指さすと宮島さんは微笑みながら近づいてくる。
「こちらはアクアマリンという石を使用しております」
「アクアマリン…聞いたことあるような」
「ええ、パワーストーンとしても有名ですから耳にされたこともあるかと」
そう言うと少し離れたところから何かを取り出してまた戻ってきた。
「こちらをご覧くださいませ」
それはショーケースの中の指輪よりもずっと青く、透き通った海のような宝石だった。
「こちらもそちらの指輪に使われているものと同じ、アクアマリンでございます。大抵のアクアマリンとはこちらのように大変鮮やかな青色をしているのです」
そういって指し示される宝石より指輪のアクアマリンはずっと淡い。
「アクアマリンはブルーの色あいが鮮やかなほど高価とされます。しかしお客様が見つけてくださったそちらのアクアマリンは言われてみれば青みがかってる、ぐらいのものでございましょう。実を申しますと宝石としての価値はそれほど高くないのです」
「ほんとだ…値段もそこまで高くない」
ゴールドのパネルに彫られた金額は決して安いとは言えないが、周りに並ぶ豪華絢爛な宝石たちに比べればそれほど高いとも感じなかった。
「私共がお世話になっております宝石職人の方がどうしてもこの石を使いたいのだとおっしゃって丁寧にお作りになったのです。淡いアクアマリンは下手をすれば観光地のお土産店に並ぶような品に見えてしまいますけれど、そんなことございませんでしょう?私も大のお気に入りなのですがなかなか見つけてくださるお客様はすくないのですよ」
微笑む宮島さんに、ずっと黙っていた理央が声をかける。
「アクアマリンに石言葉、みたいな意味ってあるんですか」
「ええ、ございますよ。
アクアマリンは夫婦や友人、家族などの対人関係に潤いをもたらすと言われております。コミュニケーションがうまくいかないときにアクアマリンに触れますと心が落ち着き優しい関係を築いていけるそうです。古くから結婚祝いにも贈られる石でございます」
思わず二人で顔を見合わせる。
「なにより、石に惹かれるというのは特別なことでございます。お客様が目立たないこの美しい指輪を見つけ出し心惹かれたのでございましたら、差し出がましい事ではございますがこの指輪をお迎えになることをお勧めいたしますよ」
宮島さんはそれだけ言うと綺麗な一礼を残して下がっていった。
カランカラン。。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
涼しい店内から一歩外に出るとまだむわっとした暑さを感じる。
「買っちゃったね」
「んね」
おれと繋いだ理央の反対側の手には中央に箔押しのある上品な小さい紙袋。
中には重厚なケースに包まれて、淡いアクアマリンが眠っている。
「帰ったらもう一回、かっこよくプロポーズさせて」
「ふふ、…わかった」
「ん~かっこいいけど、ゆきにはちょっとゴツイかも?」
きらきらと輝く星がちりばめられたような店内。
ずらりと並ぶショーケースの中にも小さく色とりどりの星たちが並べられている。
おれと理央は約束通り、結婚指輪を選びにジュエリーショップに足を運んでいた。
プロポーズの翌日から理央はさっさと動き出し、役所から届けをもらってきた。ふたりでいすを並べて丁寧に記入して、それを提出する前に親たちに報告の電話をかけた。
挨拶に行った翌日の話だったから、洋子さんには笑われたけれどしっかり祝福してくれた。モデルとしての理央の結婚発表についてもタイミングと様式を話し合った。
正彦さんと雪子さんはひたすら大喜びしてくれた。きゃあきゃあはしゃぎ声をあげる雪子さんを正彦さんが笑いを含んだ声で宥めているのが微笑ましかった。
結局、仕事の関係各所への報告のための用意があり、その2週間後におれたちは入籍した。
ふたりで話し合って結婚式はやらないと決めた。雪子さんを筆頭に残念がっている人たちもいたけど、沢山の人からお祝いの言葉や贈り物をもらってしまった。
理央のマネージャーが言うには、理央のファンの子たちも祝福ムードだそうで、何気にそこを一番心配していたおれはほっと息を吐いた。
隼人もなぜか泣くほど喜んでくれて、おれもつられてしまい二人で手を握り合ったまま大泣きしてしまった。しかも事務所で。
そんなこんなでバタバタとしていた自分達も周りも落ち着き。
暦はとうとう9月に移り変わろうとしていた。
結婚式をしないならと後回しにしてしまっていた結婚指輪を買うべく、ここ最近の休みは理央に引きずりまわされている。
お高そうなショップにもズンズン入っていくから常におれだけ腰が引けるてい。
例外なく今見て回っているこの店もスーツを着こなした店員さんたちとショーケースに囲まれたいかにも、なところだ。
(いいかげんちょっと慣れてはきたけどね…)
格式高いお店で、しかもカップルでいるとあまり店員さんからは話しかけてこない、というのはここまでの経験から学習済みだ。
声をかけられるとパニクってしまうおれにはありがたい話だ。
遠慮なくショーケースをゆっくりとのぞき込んでいく。
(あ…。)
のぞき込んだちょうど目の前にあったのは、透き通った石を乗せたシンプルな指輪。
それほど大きくはない石を繊細な金の土台がが包み支えている。
(きれい…これ、なんて言うんだろう)
いままで見てきた豪華な指輪よりも心から引き付けられるような、そんな感覚がする。
「ん?…あ、これ?きれいだね」
すかさずおれの様子に気付いたらしい理央が背後からのぞき込み感嘆の声をもらす。
「ね、他の宝石より透き通っててさ、きれいだよね」
「うん。少し青みがかってる、かな?」
言われてみれば光を吸い取ってうっすら青く輝いているようにみえる。
「…そちら、お気に召しましたか?」
声をかけられて左を向くと、上品に髪を撫でつけた男の人が微笑んでいた。
「私、ここのオーナーで宮島と申します」
「あ、この指輪がとてもきれいだなと思いまして」
ショーケースの中を指さすと宮島さんは微笑みながら近づいてくる。
「こちらはアクアマリンという石を使用しております」
「アクアマリン…聞いたことあるような」
「ええ、パワーストーンとしても有名ですから耳にされたこともあるかと」
そう言うと少し離れたところから何かを取り出してまた戻ってきた。
「こちらをご覧くださいませ」
それはショーケースの中の指輪よりもずっと青く、透き通った海のような宝石だった。
「こちらもそちらの指輪に使われているものと同じ、アクアマリンでございます。大抵のアクアマリンとはこちらのように大変鮮やかな青色をしているのです」
そういって指し示される宝石より指輪のアクアマリンはずっと淡い。
「アクアマリンはブルーの色あいが鮮やかなほど高価とされます。しかしお客様が見つけてくださったそちらのアクアマリンは言われてみれば青みがかってる、ぐらいのものでございましょう。実を申しますと宝石としての価値はそれほど高くないのです」
「ほんとだ…値段もそこまで高くない」
ゴールドのパネルに彫られた金額は決して安いとは言えないが、周りに並ぶ豪華絢爛な宝石たちに比べればそれほど高いとも感じなかった。
「私共がお世話になっております宝石職人の方がどうしてもこの石を使いたいのだとおっしゃって丁寧にお作りになったのです。淡いアクアマリンは下手をすれば観光地のお土産店に並ぶような品に見えてしまいますけれど、そんなことございませんでしょう?私も大のお気に入りなのですがなかなか見つけてくださるお客様はすくないのですよ」
微笑む宮島さんに、ずっと黙っていた理央が声をかける。
「アクアマリンに石言葉、みたいな意味ってあるんですか」
「ええ、ございますよ。
アクアマリンは夫婦や友人、家族などの対人関係に潤いをもたらすと言われております。コミュニケーションがうまくいかないときにアクアマリンに触れますと心が落ち着き優しい関係を築いていけるそうです。古くから結婚祝いにも贈られる石でございます」
思わず二人で顔を見合わせる。
「なにより、石に惹かれるというのは特別なことでございます。お客様が目立たないこの美しい指輪を見つけ出し心惹かれたのでございましたら、差し出がましい事ではございますがこの指輪をお迎えになることをお勧めいたしますよ」
宮島さんはそれだけ言うと綺麗な一礼を残して下がっていった。
カランカラン。。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
涼しい店内から一歩外に出るとまだむわっとした暑さを感じる。
「買っちゃったね」
「んね」
おれと繋いだ理央の反対側の手には中央に箔押しのある上品な小さい紙袋。
中には重厚なケースに包まれて、淡いアクアマリンが眠っている。
「帰ったらもう一回、かっこよくプロポーズさせて」
「ふふ、…わかった」
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