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37話
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俯いたまま随分と長い時間を過ごしていたルアは、キィ、と微かに窓が軋んだ音で顔を上げた。
『よぉ。わざわざ呼び出しやがって、なンの用だ?』
「・・・うるさい、ルークスが起きる」
部屋の窓が外側からひとりでに開いたと思えば、そこからふわりと顔を出したのはネブラだった。
ルアの語気の強い台詞を意に介さず、そのまま部屋の中にふわふわと入ってくる。
しばらく興味深そうに部屋を見渡していたが、ベッドに横たわるルークスに気付くと眉をはね上げてそれを覗き込んだ。
『あれま、阿呆面はおねむか』
「見るな」
『心の狭いこって・・・っイテテテテ』
ルークスの枕元から腰を上げたルアは、ネブラの襟首を掴んで窓際まで引っ張っていく。
十分ベッドから離れたところまでくると、情けない悲鳴をあげていたネブラを適当に放り出した。
『イテテ・・・お前から呼ばれて来たってのになんて仕打ちだ』
ネブラは胡座をかいた姿勢で宙に浮きながら、不満げに腕を組む。
ルアはそれをチラリとも見ることなく、目線をルークスの寝るベッドに固定したまま「教えて欲しいことがある」と話し出した。
かつて行動を共にしていた時でさえ頼られたことなどなかったネブラは、先程までの不満をすっかり忘れて身を乗り出す。
『なんだ?お前が俺に聞かないと分からないことなんてあるのか?』
「俺は森を離れてもう随分経つ。今のことは分からない。それに魔物のことならお前の方が詳しいだろう」
『魔物のこと?』
「ああ。魔物毒を消す方法を知ってるか?」
ルアとネブラの視線がようやく交わる。
ネブラはしばらく黙って首を傾げたあと、器用に片眉をあげて手を打った。
『ああ、ルークスは魔物の毒で寝込んでるわけか』
「・・・・・・」
『しかし、この距離で気配を感じなかったってことは大したモンじゃないだろ』
お前も分かってるだろ?とネブラが再び首を傾げる。
魔物が体から出す毒は魔物そのもの。魔物が残した毒からは、毒を残した魔物の気配がするものなのだ。当然魔物であればそれをお互いに感じ取れるし、毒が強ければ強いほどその気配は強くなる。
とっくに毒の気配を追えないことに気がついていたルアはバツの悪そうな顔をした。
「・・・ルークスが随分苦しんでいるから」
『は~人間ってのは全く弱っちいなァ。この程度のモンでくたばるとは』
くたばる、という言葉にピクリと肩を揺らしたルアだったが、ネブラはそれをチラリと見やるだけに留まった。
『・・・ま、この程度なら人間でも寝てれば治る』
「・・・痛めどめとかは」
『あるわけないだろ、馬鹿か。お前だって森にいた頃薬なんて使ったことないだろうが』
呆れた、と言わんばかりにネブラは大きなため息をつく。この男がルークスという人間に入れ込んでいることは何となく察していたが、こんな腑抜けになるほどとは。
脇目も振らず、己の怪我にも頓着せず、ひたすらに修行に打ち込んでいた姿しか知らない身としては、なんとも複雑な心持ちだ。
『俺に聞きたいことってのはそれだけか?』
ネブラは既に窓枠に手をかけながら言った。
しかしルアは首を振る。
「もうひとつ教えて欲しい」
『よぉ。わざわざ呼び出しやがって、なンの用だ?』
「・・・うるさい、ルークスが起きる」
部屋の窓が外側からひとりでに開いたと思えば、そこからふわりと顔を出したのはネブラだった。
ルアの語気の強い台詞を意に介さず、そのまま部屋の中にふわふわと入ってくる。
しばらく興味深そうに部屋を見渡していたが、ベッドに横たわるルークスに気付くと眉をはね上げてそれを覗き込んだ。
『あれま、阿呆面はおねむか』
「見るな」
『心の狭いこって・・・っイテテテテ』
ルークスの枕元から腰を上げたルアは、ネブラの襟首を掴んで窓際まで引っ張っていく。
十分ベッドから離れたところまでくると、情けない悲鳴をあげていたネブラを適当に放り出した。
『イテテ・・・お前から呼ばれて来たってのになんて仕打ちだ』
ネブラは胡座をかいた姿勢で宙に浮きながら、不満げに腕を組む。
ルアはそれをチラリとも見ることなく、目線をルークスの寝るベッドに固定したまま「教えて欲しいことがある」と話し出した。
かつて行動を共にしていた時でさえ頼られたことなどなかったネブラは、先程までの不満をすっかり忘れて身を乗り出す。
『なんだ?お前が俺に聞かないと分からないことなんてあるのか?』
「俺は森を離れてもう随分経つ。今のことは分からない。それに魔物のことならお前の方が詳しいだろう」
『魔物のこと?』
「ああ。魔物毒を消す方法を知ってるか?」
ルアとネブラの視線がようやく交わる。
ネブラはしばらく黙って首を傾げたあと、器用に片眉をあげて手を打った。
『ああ、ルークスは魔物の毒で寝込んでるわけか』
「・・・・・・」
『しかし、この距離で気配を感じなかったってことは大したモンじゃないだろ』
お前も分かってるだろ?とネブラが再び首を傾げる。
魔物が体から出す毒は魔物そのもの。魔物が残した毒からは、毒を残した魔物の気配がするものなのだ。当然魔物であればそれをお互いに感じ取れるし、毒が強ければ強いほどその気配は強くなる。
とっくに毒の気配を追えないことに気がついていたルアはバツの悪そうな顔をした。
「・・・ルークスが随分苦しんでいるから」
『は~人間ってのは全く弱っちいなァ。この程度のモンでくたばるとは』
くたばる、という言葉にピクリと肩を揺らしたルアだったが、ネブラはそれをチラリと見やるだけに留まった。
『・・・ま、この程度なら人間でも寝てれば治る』
「・・・痛めどめとかは」
『あるわけないだろ、馬鹿か。お前だって森にいた頃薬なんて使ったことないだろうが』
呆れた、と言わんばかりにネブラは大きなため息をつく。この男がルークスという人間に入れ込んでいることは何となく察していたが、こんな腑抜けになるほどとは。
脇目も振らず、己の怪我にも頓着せず、ひたすらに修行に打ち込んでいた姿しか知らない身としては、なんとも複雑な心持ちだ。
『俺に聞きたいことってのはそれだけか?』
ネブラは既に窓枠に手をかけながら言った。
しかしルアは首を振る。
「もうひとつ教えて欲しい」
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