逆らえない恋人

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見ながらすると、大胆になるよね

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 スバルくんを見て、彼の年齢を正確に当てるのは、たぶん難しい。
 俺がそうであったように。
 初めてスバルくんを見た俺は、彼はてっきり同い年か、それよりも少し上くらいだろうと思ったけれど、きれいに予想を裏切って彼はまだ高校生だった。
 それから2年。
 スバルくんは大学生になって、俺は順調に年齢を重ね、26歳になった。
 童顔だと言われる俺と大人っぽいスバルくんが並ぶと、誰がどう見てもスバルくんのほうを年上だと思うだろう。
 待ち合わせは駅前のロータリー。
 花壇のふちに腰掛けて、俺はぼんやりと駅前を行きかう人を眺める。
 軽やかな色のスカートを翻して歩く女の子たちの向こうから、頭一つ突き抜けた長身が俺の方へとまっすぐに向かってくる姿が見えた。明るい色の髪の毛先が揺れて、スバルくんの顔を縁取っている。

「……いい男だなあ」

 ついそんなつぶやきがもれてしまった。
 出会ってから2年、彼を見るたびにいつもそう思うんだけど。
 やっぱり今日も、スバルくんは遠目に見たってやっぱりいい男だった。

「陽史さん、やっぱりその色合ってる」

 向かい合って座るオープンカフェのテラスで、スバルくんは俺を見てにっこりと笑った。
 俺が今日来ているトップスのシャツはスバルくんがプレゼントしてくれたもので、インポートブランドのけっこういいお値段がする一品だ。

「そうかな……ありがとう」

 照れて何となく首筋に触れると、そこには半年ほど前にスバルくんに贈られたシルバーチェーンのネックレスがぶら下がっている。広いテーブルの下、スバルくんの足が俺の足に触れた。ぶつかったのではなくて、わざとだ。
すり、とスバルくんが足を動かして俺の足に自分の足をこすりつける。

「……っ」

 テーブル越しにスバルくんを見ると、彼はコーヒーカップを片手に持って静かに微笑んでいた。そうしながらも、俺から目をそらさない。
 そのままで、足を数回擦り付け、足同士が触れ合う位置で動きを止めた。

「ねえ陽史さん、俺、見たいDVDがあるんだけど、そこで借りて、俺の家、行きません?」

 カフェの通りを挟んで向こう側はレンタルショップだ。
 触れ合ったままの足、布越しにスバルくんの体温を感じながら、俺はこくりとうなずいた。
 俺はスバルくんのどんな提案も絶対に断らないし、スバルくんもそれを知っている。

「決まり」

 にこっとスバルくんが笑って、カップに残っていたコーヒーを飲み干した。
 俺もスバルくんに倣うように、カップを口につけて少し冷めた液体を口の中に送り込んだ。


 レンタルショップに入ると、スバルくんはまっすぐに奥まったコーナーに入っていく。人気の少ないそこは年齢指定のあるコーナーで、スバルくんは恥ずかしがる風もなく、棚の間を歩いてお目当ての棚へと向かう。俺は少し遅れてスバルくんの後に続いた。
 ひと目は気になる。
 同じこの一角にいる人は、誰もが同じ目的で物色しに着ているわけだけれど、俺たちは少しわけが違う。
このコーナーの一番奥に少しだけ、ゲイもののDVDがある。
 スバルくんはその棚の前に立つと、振り返って俺を手招きした。

「ねえ陽史さん、今日はどれがいい?」

 まるっきりいつものトーンで、それはカフェで「今日は何を飲む?」というのと同じ調子で。
 スバルくんは俺に問いかけた。
 答えられるはずもない俺は、スバルくんの後ろで視線を落とし、棚を極力見ないようにする。
 スバルくんが今日履いているスニーカーは、限定色のレアもの。そして俺が履いているのは色違いの同じ形だ。スバルくんに今年の春、贈られたもの。

「これはこのあいだ見たよね。こっちは? これはまだ見てないような気がするなあ」

 スバルくんは手を伸ばして、俺の指に触れた。そのまま指同士を絡めて軽く引き寄せる。抵抗できない俺は一歩進み、スバルくんの隣に並んだ。

「見て、この男優、陽史さんに似てない?」

 スバルくんがうれしそうに笑って俺の耳元にささやいた。
 スバルくんが手にしたパッケージをちらりと見ると、確かに俺と似た髪型の男が中央に写っていた。

「……それ、って」
「緊縛モノだって。面白そう。……ねえ、今日はこれでいいよね?」

スバルくんが俺の指をきゅっと握って、いたって普通の調子で問いかける。

「………」

 俺は黙ったままうなずき、スバルくんは俺の手を引いてそのゲイビデオを借りに行った。
 白昼のレンタルショップの中、手を繋いで歩く男2人。何人かの客が俺たちを見て目を丸くし、何人かはさっと目をそらし、何人かは二度見した。
 俺はずっと視線を床に落としたまま、スバルくんの半歩後ろを歩いた。


 スバルくんは実家が近いにも関わらず、マンションを借りて一人暮らししている。そのマンションだって、大学生が借りるにしては広すぎる部屋だった。
 南向きの14畳のリビングダイニングはいつもスッキリ片付けられていて、余計なものがほとんどない。
 広いソファにゆったりと座ったスバルくんに後ろから抱きしめられるようにして座り、俺たちは目の前の大画面で繰り広げられる痴態を鑑賞していた。
 麻縄で縛り上げられた色の白い男は切ない声を上げながら体を揺らし、体内でうごめく男性器をかたどった玩具に苛まれ続けていた。スバルくんは俺を抱っこしたまま、AVを鑑賞するのを好む。最初の頃はごく普通のハリウッド映画だったのに、それがいつの間にか年齢指定のあるものに変わって、今では2人で見るのはAVばかりだ。
 生々しい画面を見ていられなくて視線を落とせば、俺の腹の前で組まれたスバルくんの長い指が見える。いつもきれいに整えられている爪は、俺を傷つけないため。ふいに、スバルくんの指が俺の体内をかき回す感覚を思い出して、俺はわずかに身じろぎした。触られてもいないのに、腹の奥がうずき、後孔が切なくなって勝手に締め付ける。
 そんな俺の動きに気づいたのか、後ろでスバルくんがふっと笑った。

「……想像、しちゃいました?」

 唇を俺の耳に付けるようにして、低く艶のある声を流し込まれる。

「……っ」

 耳が弱い俺は首をすくめ、背中を丸めて反射的に逃れようとした。

「だめだよ、陽史さん。逃がさない」

 スバルくんがぎゅっと俺を抱く腕に力をこめる。そして外耳の輪郭を確かめるようにぐるりと舌で辿った。

「……あ、……っふ」

 耳を舐められただけなのに、力が抜けていく。スバルくんは耳の中に舌を差し込み、ぴちゃぴちゃと音を立ててその小さな穴を舐めた。

「んん、んッ……」

 気付けば完全に脱力した身体をスバルくんに預け、もうどうにでもしてくださいというように俺は彼に耳を差し出し、反対側の耳と頬をスバルくんの腕にこすりつけていた。

「ほんと、陽史さん耳弱いよな。気持ちよさそう。かわいい」

 スバルくんが低く笑い、耳たぶを口に含んで舌でねぶる。

「あっ……」

 スバルくんの腕にすがり付くようにして悶え、熱がこもった息を吐き出した。

「こっちも、好きだよな?」

 スバルくんの舌が、首筋を辿る。耳から続く性感帯に連続して施される愛撫に、俺は「あぁ」と甘ったれた声を上げて悶えた。ちり、とかすかな痛みを感じ、彼がそこに痕を残したことを知る。続けて柔らかく歯を立てられ、俺はたまらずに後頭部をスバルくんの胸に押し付けた。

「陽史さん、ちゃんと、画面見て」

 スバルくんがそう囁き、流れ続けるAVを見るように促す。画面の中ではネコ役の男が高い声を上げ、タチ役の男が相手を犯す黒いバイブの根元を掴んで激しく動かしていた。

「……っ」
「今度、あれ、してあげるから楽しみに待ってて。……一緒に買いに行こう」

 スバルくんが笑い混じりに言いながら、シャツの裾をまくり上げて裸の胸に手を滑らせてきた。

「う………ん、んっ」

 もうとっくに尖りきって触れられるのを待ち望んでいた胸の先端は、スバルくんの指が掠れだけでと痺れるような快楽を俺に伝えてくる。

「んんっ」

 スバルくんの指が優しくなだめるように俺の乳首を撫で、俺はたまらず、もっととねだるようにスバルくんの指に自分のそれを押し付けるよう、胸を反らした。

「もっとして欲しいの? やらしいな、陽史さん」
「あ、っ……、ん、」

 胸で感じるなんて知らなかった。ここを敏感な性感帯に変えたのは、紛れもない俺の後ろにいる男だ。

「ここ、すっかり大きくなったよな。女の子みたい」

 言葉通り、男の乳首にしては膨れているそこは、最初からそうだったわけじゃない。スバルくんとの行為を重ねるにつれ、いつのまにか摘まみやすそうな形になっていた。
 スバルくんのつま先が、彼に作り替えられたその部分をカリッとひっかく。

「あぁ……」

 気持ちいい、でもまだ足りない。

「やだ、もっと……っ!」

 普段は鎧のように俺を厚く覆っている理性が、霧みたいに薄くなって散っていく。

「こう?」

 スバルくんの指が、充血して敏感になった乳首をキュッと掴んでひねり上げた。

「ああ……っ」

 甘い痛みが、乳首から脳髄までを一気に貫いていく。俺は腰を反らせて荒くなった息を吐いた。スバルくんの指から解放された乳首がジンジンと熱を持って熱い。熱くて熱くて、でも熱いのはそこだけじゃない。

「陽史さん。もっと気持ちよくなりたい?」

 スバルくんが甘く問う。
 俺は夢中で頷き、ずる、とソファから床へと滑り落ちるようにして座り込んだ。
 気持ちよくしてもらうためには、スバルくんを気持ちよくさせなければいけない。この2年かけて、スバルくんが俺に教えたことを、俺はいつでも忠実に守る。
 スバルくんの足の間にうずくまるようにして座ると、すでにスバルくんのベニスは硬くなって、ボトムの布地を押し上げていた。
 俺の身体に触れて、俺でこうなってくれているのがうれしくて、俺は布越しにスバルくん自身に頬を寄せ、そして何度もキスをした。「いい?」と上目にうかがうと、スバルくんは優しい目をして頷き、俺の髪を撫でてくれる。
手を使わず、歯だけでジッパーを下ろすのも、最近はずいぶん慣れた。ジッパーの奥の下着ごしにもう一度スバルくんにキスをして、歯と舌で彼を外へと誘い出す。すっかり育ったそれを完全に外に出すと、根本から先端へと丁寧に何度もキスをして、それからゆっくりと口に含んだ。硬くなった肉の塊をしゃぶり、舌をこすりつける。先端から滲むしょっぱい雫をすすり、舌に、頬の内側に、上顎にスバルくんを感じて恍惚とした幸せを感じた。
 唇をすぼめて、吸い上げながら頭をゆっくり上下させると、スバルくんの指が俺の髪を梳き、そのまま耳に触れてくる。

「……ふ、……っん」

 やだって。それされたら、俺、ちゃんと口でできない。
 すこしだけ頭を振って抵抗したけれど、スバルくんはそれを無視して耳を撫で、俺の首に指の背を滑らせた。

「……っ」

 ぞくぞくしたものが背中を駆け抜ける。スバルくんのペニスを口いっぱいに頬張ったまま溢れそうな唾液と一緒にスバルくんを吸い上げると、頭上で吐息を漏らすのが聞こえた。俺の口の中でグンと硬さを増したそれが愛しくて、苦しいのを我慢して喉の奥まで入れてみる。喉に、スバルくんの先端が当たる。
 えずきそうになりながら、でも、スバルくんが俺の口のなかでいっぱいになっているのがうれしいから、吐き出さないし、舌で愛撫するのもやめない。
 頭をゆっくりと上下に動かすと、スバルくんが「上手だよ」と囁いてくれた。
 嬉しくて、根本に手を添え、ボトムの上から玉のあたりをそっと撫でる。スバルくんにもっと気持ちよくなってほしい。
 夢中でスバルくんのを舐めて、しゃぶっていると、「あとちょっとでいきそう」とスバルくんが言った。

「飲むのと、顔にかけるのと、中で味わうの、どれがいい?」

 頭に手を触れ、動くのを止めさせてスバルくんが頭上から問いかける。俺はスバルくんのを咥えたまま上目に彼を見て、少しだけ考えた。
 全部いい、して欲しい。でも一番は、中に欲しい。俺の中の良い部分は、さっきっからずっと刺激をほしがってひくついている。もう我慢できない。

「……な、か。なかに、ちょうだい」

 スバルくんのものを名残惜しく感じながらそう告げると、スバルくんはにっこり笑った。

「分かった」

 ソファの上に抱き上げられ、お互いの服を脱がしあう。互いに全裸になったところで、スバルくんが俺の顎をすくって唇を合わせてきた。

「……ん」

 ちゅ、ちゅと何度も唇を合わせ、やがてそれは深いキスに変わる。違いの舌を絡ませながら腰を寄せると、唾液で濡れたままのスバルくんのペニスと、刺激を待ち焦がれて先端から蜜をこぼしている俺のペニスが触れ合った。
 わざと押し付けるようにしてその部分を触れ合わせ、こすりつけ、そうしている間にもキスは深くなる。スバルくんの手は俺の腰に回り、尻を撫でまわしたあと、左右に尻肉を開くようにしてその部分に指先で触れた。

「……っ」

 触って欲しくてたまらなかったところを撫でる指に、俺はつい腰を指に寄せるようにして押し付けてしまう。指先がつぷんと中に入り、その感覚だけで声が漏れた。

「あっ……」
「まだだよ。ローション取ってこないと」

 スバルくんがあまく囁き、入れたばかりの指を抜き取る。待っててと告げて、ベッドルームに向かった。
 1人取り残された俺は、火照って疼く体のままソファの上にうずくまる。何気なく横に向けた視線の先では。AVのシーンが変わっていた。全身に縄を掛けられた青年が恥ずかしい場所をさらけ出し、タチ役の男の前でそこを指で掻き混ぜられて悶えている。
 それを見ながら、俺はおずおずと手を伸ばして自分で自分の孔に触れた。
 スバルくんとそういう関係になってから、スバルくんによってそこが感じる場所だということを教えられた。スバルくんとのセックスに慣れ、後ろで刺激を毎回強い快感としてとらえられるようになると、今度は1人でするときも、中の刺激がないといけなくなってしまった。
 熱に浮かされた頭で、指を舐めて濡らし、そっと孔にあてがうと、そこは欲しがるようにひくひくと蠢く。

「……んっ」

 そっと押し入れれば、すでに柔らかくほころんだそこは俺の指を難なく飲み込んだ。
 ゆっくりと中を開くように指を回し、出し入れしてみる。指を包む粘膜は熱く、そして細い指の感覚だけでも俺の身体は興奮して、性器が硬くなるのが分かった。
 奥の、いいところ。
 深く差し込んだ中指であの場所を探るように動かしているとぎしりとソファが軋み、俺はビクリと身体をこわばらせた。

「やめないで、そのまま続けて」

 ここがどこだか、すっかり忘れていた。ローションを手に戻ってきていたスバルくんが、俺の後ろに座って俺が一人でしているのを見ていた。

「ほら、ローション足すから。自分で、広げて」

 尻の穴の縁に指を掛けるようにしてぐっとスバルくんが押し開く。

「アッ……」

 広げられた場所に、冷たいものが触れた。たぶん、ローションのボトルの口だ。

「もっと広げて、陽史さん」

 スバルくんに促され、俺は差し込んだままの指を、スバルくんが指で開いたほうと反対側に開く。
 口を開けたそこをスバルくんが見ていると思うと、背徳感に顔が火照った。
 ひんやりした液体が少しずつ注ぎ込まれる。
 ぞくりとした感覚に背筋を震わせ、俺はくちびるを噛んで漏れそうになる声を抑えた。

「たっぷり入った」

 嬉しそうな声音でスバルくんが言って、すでに入っている俺の指に沿わせるようにして自分の指を差し込んでくる。

「んっ……あ、やだ……」

 体内で感じる、スバルくんの指。

「やだじゃない、動かして広げないと」

 そう言いながら、スバルくんがゆっくりと指を抜き差しする。入れたまま動かせずにいた自分の指に、ローションが絡んだスバルくんの指がこすれて、それにすら感じた。

「……あれ、だいぶ柔らかいな。陽史さん、家でひとりでしたの?」

 問いかけるスバルくんの声が笑っていて、俺は額をソファに押し付けて沈黙した。
 恥ずかしい。恥ずかしいのに、でも俺の中をかき回すスバルくんの指が愛しくて気持ちいい。
 スバルくんが指を動かすたびに、そこからヌプヌプといやらしい音がした。恥ずかしいと思うと自然とスバルくんの指を受け入れている後孔がひくついて、きゅっとスバルくんの指と入ったままになっている俺の指を締め付ける。

「ほら、陽史さんも動かして」

 スバルくんが、体内に埋め込まれたままの俺の指に自分の指を絡め、一緒にゆっくりと動かし始める。

「あ、やぁ……、うっ……」

 新たな刺激に、括約筋がきゅっと締まって、同時に下腹部の筋肉も緊張するように動き、体内で絡む俺たちの指を締め付けた。

「ほら、ここでしょ。陽史さんのいいところ」

 ふっくらと腫れたようにわずかに盛り上がる前立腺に、俺の指をわざと押し付けるように動かした。

「ひぁ……っ」

 自分で自分のいいところを押し付けてしまい、そこから送られるダイレクトな刺激に震えて身を丸める。うっすらと目を開いくと、俺の足の間で、今日はまだ一度も触れられていないペニスがたちあがり、臍につきそなほどに反り返っていた。その先端からは、あふれた蜜が糸を引いてソファに落ち、淡い色の布を汚す。

「気持ちいところ、もっとしていいんですよ」

 スバルくんが甘く囁いて、俺の指に自分の指を絡めたまま抜き差ししてみせる。強制的に動かされる自分の指に、俺はくぐもった声を上げて手を抜き取ろうとした。けれどそれを許さないとばかりに、スバルくんはもう片方の手で俺の腕を掴んで固定し「もう一本」と言い放つ。

「指、増やして。これじゃ俺の、入らない」
「や、やだ……っ」
「俺の、中にほしいって言ったのは洋史さんでしょ。もっと広げて柔らかくしないと、洋史さんだけじゃなくて俺もキツいんすけど」

 突き放すような言い方をするのはわざとだ。
 そう言われてしまえば、俺はスバルくんのために、彼を受け入れる準備をせざるを得ない。

「……っ、うっ……」

 おずおずと人差し指も添えて、その狭い穴に差し込む。俺が自分の指を2本咥えこませるのを見届けてから、スバルくんも自分の指をさらに1本押し込めた。2人合わせて4本の指を含んだそこは、もうかなり開いていて、強引に開かされている感覚に俺は浅く息をつく。

「中、すごいな。絡みつくみたいで」

 スバルくんがそういって、中をゆっくりかき回した。
 スバルくんの指の動きに誘われるように、俺も自分の指を少し動かす。予想のできない動きに俺の中はヒクヒクと蠢いてスバルくんの指を食み、俺は自分の体内で動くスバルくんの指を追うように、いつの間にか前立腺の際にそっと触れていた。

「あぁ……っ、あ……」

 一番感じる部分に触れるのは、気持ちいいけれど怖い。いつも怖さが勝って、俺が自分でするときは、際の部分をそっと撫でるだけで終わらせていた。
 けれどスバルくんがそれで終わらせてくれるはずはなく、際を触れる俺の指に自分の指を添え、いちばん敏感なところをそっと撫でてる。

「あ……っ、やだ、そこ、やだ……っ」

 分かりやすい刺激に、けれど俺の身体は逃れようとするより、スバルくんの指に自分のいいところを押し付けるように腰を動かしていた。

「やらしいな、欲しがって」

 スバルくんが笑って、指の腹で何度も何度もその部分を押して刺激を送ってくる。たまらなくて、いきたくて、俺は尻に入れていないほうの手を自分の下肢に伸ばして、さっきから切なく雫をこぼし続ける性器を握った。

「あっ、あっ……あん……っ」

 先端を包んで扱き、絶頂に向かおうとすると、スバルくんがさっと中をいじっていた指の動きを止め、掴んでいた俺の手も引いて一緒に指を抜き取る。急に中を埋めていたものを失ったそこは、すぐには口を閉じずにヒクヒクと動いた。

「や、どうして……っ」

 取り上げられた快楽に、肩越しにスバルくんを振り返ると、スバルくんが俺の肩を掴んで仰向けにひっくり返し、太腿に手をかけて足を開かせた。

「先に一人だけいくのはだめでしょ。いきたいなら、一緒」

 そう言って熱く滾る先端を、俺の孔に押し付ける。

「スバルくん……っ」

 名を呼ぶと、一気につき上げるように、スバルくんは腰を勧めて彼自身で俺の中を深く貫いた。

「あぁぁ……っ」

 待ち望んだ刺激とその衝撃で、一瞬頭の中が真っ白になる。電流のようなものが背筋を走り抜け、つま先が何かに耐えるようにきゅっと丸また。

「すげ……入れただけでイッちゃったの?」

 は、と息をつきながらスバルくんが俺の腰を抱え直し、ゆっくりと腰を回して、中に埋まった彼の性器で俺の体内をかき回した。

「ああああ……っ」

 その刺激に耐え切れない声が漏れ、俺はスバルくんの背中に腕を回してしがみついた。
 いつものよりも数段敏感に体内のスバルくんを感じる。恐る恐る自分の下腹部を見ると、射精はしていなかったけれど、性器の先端はぐっしょりと濡れて震えていた。

「空イキってやつ? ……中、すごい締まって……めっちゃ気持ちいい……」

 上ずった声でスバルくんが言って、ぐ、とさらに奥を抉るように腰を押し付けてくる。その動きにすら強く感じ、俺はヒンヒンと甘い声を上げた。

「やだ、やだスバルくん、もう動かさないで」
「陽史さんの身体はヤダって言ってない、すごく喜んでる」

 感じすぎるのが怖くてそう訴えたのに、スバルくんはあっさり却下してぐり、と硬く反った彼自身の先端で俺の前立腺を抉るように動かした。

「やぁ、っ、それ、やっ………ああ、あっ」

 体が反射的に逃げようとするが、がっちり腰を掴まれ貫かれたままでは逃げることもかなわず、俺はその強い刺激でまた目の裏に火花が散るような強い快感に震えた。
 もう、声も動きも全然コントロールできない。
 スバルくんが動くたびに甘えたような高い声が勝手に漏れて、性器の先端からは精液ではない透明な液体がタラタラと流れ続けた。
 全身が驚くほど過敏になって、スバルくんのどんな動きにも甘い痺れが走る。

「すごい、陽史さん、今日こんなに感じまくって……どうしたの、なんで?」

 問いかけながら、スバルくんが腰を使ってピストンする。
 どうしてなんて分からない。ただ、身体の中が沸騰しそうなほど熱くて、スバルくんが触れるそこかしこが震えるほど気持ちいい。

「あ、ああっ、あん……、あ……っ!」

 返事なんかできなくて、喘ぎ声しかでなくて、必死でスバルくんにしがみついた。
 だんだんスバルくんのピストンが早くなって、彼が絶頂に向かうのが分かる。
 キスしてほしい。
 唐突にそう思い、頭を上げてスバルくんの唇に自分のそれを合わせようとした。
 そんな俺の動きに気づいたのか、スバルくんはピストンしながらも上体を倒して俺に口づけてくれた。噛みつくような深いキスをした瞬間、俺の中のスバルくんが熱く膨れ上がり、そして熱を放出したのが分かった。俺を強く抱きしめるスバルくんの背中を抱き返しながら、俺はまたスバルくんにつられるかのように、性器の先端から透明な雫を溢れさせた。
 射精はしていないのに何度もオーガズムを迎えたからか、全身が過敏になっていて、俺はスバルくんの腕の中でしばらく悶えていた。
 やがて熱と興奮が冷めると、スバルくんが俺の頬にキスをしてちらりとテレビ画面に目を向ける。

「あー、終わってる……」
「スバルくん、そもそも最初から見る気、なかったでしょ」

 ちらりと睨むと、スバルくんはしれっとした顔で言った。

「恥ずかしがってる陽史さんを見る方が楽しいから」
「もうやめようよ、ああいうの。レンタル屋さんに行くのも、俺はすごく恥ずかしい……」
「やめないよ。だって、AV見ながらすると、陽史さんいつもより大胆だし」
「そんなことない」
「そんなことあるよ。一人にしたとたん、オナニーしたり。自分の家ならともかく、俺の家で、普段ならぜったいしないでしょ」
「……」

 言い訳できなくて唇を噛むと、スバルくんがふふっと笑って俺の目元にキスを落とす。

「フェラもいつもより積極的ですげぇよかったし」
「……っ」
「でも、陽史さんまだ出してないから、……今度は俺がサービスしてあげるね」
「えっ」

 そういうと、スバルくんは俺の性器を撫で、そのまま身体をずらして、俺のそれにキスをする。

「もういい、もういいよ、スバルくん!」
「だーめ。陽史さんがもっと気持ちよくなっているところ、俺に見せて」

 そう言って俺のそれをぱくりと口に含む。
 俺は絶対に逆らえない恋人の頭を抱えて、彼から送られる甘い刺激にまたくぐもった声を上げた。
 俺たちの休日は、まだ終わらない。


 Fin
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