【完結】呪われ王子は生意気な騎士に仮面を外される

りゆき

文字の大きさ
4 / 76

2-2 王子よ、どこ行った…

しおりを挟む
 荷物はメイドたちの控室で預かってもらい……といっても全員出払っていて誰もいなかったのだが……。身軽になった身体で城内を歩き回る。

(それにしてもほんと無駄にでっけーな)

 たった一人の主に十二名だけの使用人のために、この城があるのかと思うと無駄ではないか、とディークは呆れた。トルフの話ではこの無駄に広い城のおかげで、使用人たちも城のなかに自分の部屋を持っているのだそう。使用人棟があったところでわざわざそちらを管理せねばならなくなるため、無駄だろう、と以前はあったらしい使用人棟を取り壊したそうだ。
 セルヴィの指示で使用人棟を取り壊し、使用人も城の一部を使い住み込みで働いている。

(まあセルヴィ殿下自体は、まともな考え方の人間そうだな)

 貴族といえば無駄を好む。いや、好んでいるわけではないのかもしれないが、平民から見ると好んで浪費しているようにしか見えないのだ、とディークは苦笑する。
 だからセルヴィの無駄を省く考え方はディークには好感が持てた。

 うろうろと歩き回るうちに、窓から使用人の姿が見えた。服装からして雑用をこなす二人のうちの一人か。どこから外に出たものか、と辺りを見回すが、ひたすら長い廊下が続くだけで、部屋への扉は並ぶが、外へと繋がる扉はない。

「くそっ、めんどうだ」

 きょろっと周りを見回し、誰もいないことを確認すると、ディークはおもむろに窓を開け、窓の縁に手を掛けると、そこから大きく脚を振り上げ飛び降りた。

 突然空から見知らぬ男が目の前に降って来た。作業をしていた男はひぃと小さく悲鳴を上げる。

 二階の高さから飛び降りたディークは難なく地面へと着地する。目の前には驚き唖然とした顔の男が立ち尽くしていた。

「だ、誰だ、お前!?」

 咄嗟に身体は動かなかったが、男は慌てて不審者であるディークに身構えた。

「あー、すまん。今日から配属となったセルヴィ殿下の近衛騎士のディークだ。以後よろしく」

 まだセルヴィの許可は得ていないから正式に着任ではないのだが、そこは割愛で良いだろう、としれっとしている。

「セルヴィ殿下の近衛騎士? そんなのが来る予定だったのか?」

 男は不審そうにしたが、身分証を見せ、国の騎士団副団長であったことを証明すると、不審ながらも納得したようだった。

 男は予想通りの雑用係で今から厩舎の掃除に行くところだったらしい。

「俺の名はダン。よろしく」
「よろしくな、ついでにセルヴィ殿下の行きそうな場所知らないか?」
「セルヴィ殿下の行きそうな場所? そんなの知る訳ないよ、あの方、ほとんど出歩かないし」

 ハハハと笑いながら言われ、トルフの言っていた答えと一緒だな、と溜め息を吐いた。

 厩舎へ行くというダンに付いて行き、馬を見せてもらうが……

「に、二頭だけなのか?」
「え? うん」
「え、馬車は……?」
「え? 馬車?」
「「え?」」

 ダンと顔を見合わせ、しばし茫然。

「マジかよ!! 馬、二頭!? しかも馬車もないのか!?」
「え、あ、あぁ……殿下が乗る馬だけだしな。二頭で十分だろうって。馬車も出歩くことはないのだから必要ない、って殿下が処分したと聞いた。納屋のほうに荷馬車があるだけだな」
「な、なんだよそれ……」

(思っている以上の節約家だな! しかも殿下の馬が荷馬車と兼用って!)

 ディークはセルヴィのあまりの節約ぶりに唖然とした。いや、節約というよりも貧乏性にみえる……とか不敬なことを考えてしまう。

(貴族とは思えんな……しかも王族なのに……)

 あまりの茫然に乾いた笑いで遠い目をした。

 結局のところ、セルヴィの居場所は分からず、ダンとは別れそのまま再び散策をしていると、正門側とは違う、裏手の庭園へとたどり着く。

 多くの花が丁寧に手入れされてあり、様々な花が咲き誇り、ここだけは節約とは縁遠い美しさを放っていた。
 特に花に興味はないのだが、迷路のように続く通路に興味をそそられ、つい庭園内を歩いて行く。

 白い薔薇が多く咲き誇っていたが、なにやら一ヶ所だけ見たことがない色の花が咲いていた。そこには青い花弁の、薔薇と似た花が……

 それに見惚れていると温かな風が吹き、少しばかりの花弁を散らす。ざざっと風の音が耳を撫で一瞬風を避けるように目を閉じた。


 そして次に目を開けたとき、目の前には『天使』がいた……。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ヤンデレ王子と哀れなおっさん辺境伯 恋も人生も二度目なら

音無野ウサギ
BL
ある日おっさん辺境伯ゲオハルトは美貌の第三王子リヒトにぺろりと食べられてしまいました。 しかも貴族たちに濡れ場を聞かれてしまい…… ところが権力者による性的搾取かと思われた出来事には実はもう少し深いわけが…… だって第三王子には前世の記憶があったから! といった感じの話です。おっさんがグチョグチョにされていても許してくださる方どうぞ。 濡れ場回にはタイトルに※をいれています おっさん企画を知ってから自分なりのおっさん受けってどんな形かなって考えていて生まれた話です。 この作品はムーンライトノベルズでも公開しています。

異世界召喚型勇者と(自称)悪役令息

亜桜黄身
BL
異世界から召喚されたゾーイと悪役令息ルカ。 少しMっ気のある執着美形攻め×少し天然な強気受け (他サイトに2021年〜掲載済)

【完結】白豚王子に転生したら、前世の恋人が敵国の皇帝となって病んでました

志麻友紀
BL
「聖女アンジェラよ。お前との婚約は破棄だ!」 そう叫んだとたん、白豚王子ことリシェリード・オ・ルラ・ラルランドの前世の記憶とそして聖女の仮面を被った“魔女”によって破滅する未来が視えた。 その三ヶ月後、民の怒声のなか、リシェリードは処刑台に引き出されていた。 罪人をあらわす顔を覆うずた袋が取り払われたとき、人々は大きくどよめいた。 無様に太っていた白豚王子は、ほっそりとした白鳥のような美少年になっていたのだ。 そして、リシェリードは宣言する。 「この死刑執行は中止だ!」 その瞬間、空に雷鳴がとどろき、処刑台は粉々となった。 白豚王子様が前世の記憶を思い出した上に、白鳥王子へと転身して無双するお話です。ざまぁエンドはなしよwハッピーエンドです。  ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ
BL
 神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。  硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!  設定はふんわりしております。 少し痛々しい。

みにくい凶王は帝王の鳥籠【ハレム】で溺愛される

志麻友紀
BL
帝国の美しい銀獅子と呼ばれる若き帝王×呪いにより醜く生まれた不死の凶王。 帝国の属国であったウラキュアの凶王ラドゥが叛逆の罪によって、帝国に囚われた。帝都を引き回され、その包帯で顔をおおわれた醜い姿に人々は血濡れの不死の凶王と顔をしかめるのだった。 だが、宮殿の奥の地下牢に幽閉されるはずだった身は、帝国に伝わる呪われたドマの鏡によって、なぜか美姫と見まごうばかりの美しい姿にされ、そのうえハレムにて若き帝王アジーズの唯一の寵愛を受けることになる。 なぜアジーズがこんなことをするのかわからず混乱するラドゥだったが、ときおり見る過去の夢に忘れているなにかがあることに気づく。 そして陰謀うずくまくハレムでは前母后サフィエの魔の手がラドゥへと迫り……。 かな~り殺伐としてますが、主人公達は幸せになりますのでご安心ください。絶対ハッピーエンドです。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

処理中です...