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2-2 王子よ、どこ行った…
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荷物はメイドたちの控室で預かってもらい……といっても全員出払っていて誰もいなかったのだが……。身軽になった身体で城内を歩き回る。
(それにしてもほんと無駄にでっけーな)
たった一人の主に十二名だけの使用人のために、この城があるのかと思うと無駄ではないか、とディークは呆れた。トルフの話ではこの無駄に広い城のおかげで、使用人たちも城のなかに自分の部屋を持っているのだそう。使用人棟があったところでわざわざそちらを管理せねばならなくなるため、無駄だろう、と以前はあったらしい使用人棟を取り壊したそうだ。
セルヴィの指示で使用人棟を取り壊し、使用人も城の一部を使い住み込みで働いている。
(まあセルヴィ殿下自体は、まともな考え方の人間そうだな)
貴族といえば無駄を好む。いや、好んでいるわけではないのかもしれないが、平民から見ると好んで浪費しているようにしか見えないのだ、とディークは苦笑する。
だからセルヴィの無駄を省く考え方はディークには好感が持てた。
うろうろと歩き回るうちに、窓から使用人の姿が見えた。服装からして雑用をこなす二人のうちの一人か。どこから外に出たものか、と辺りを見回すが、ひたすら長い廊下が続くだけで、部屋への扉は並ぶが、外へと繋がる扉はない。
「くそっ、めんどうだ」
きょろっと周りを見回し、誰もいないことを確認すると、ディークはおもむろに窓を開け、窓の縁に手を掛けると、そこから大きく脚を振り上げ飛び降りた。
突然空から見知らぬ男が目の前に降って来た。作業をしていた男はひぃと小さく悲鳴を上げる。
二階の高さから飛び降りたディークは難なく地面へと着地する。目の前には驚き唖然とした顔の男が立ち尽くしていた。
「だ、誰だ、お前!?」
咄嗟に身体は動かなかったが、男は慌てて不審者であるディークに身構えた。
「あー、すまん。今日から配属となったセルヴィ殿下の近衛騎士のディークだ。以後よろしく」
まだセルヴィの許可は得ていないから正式に着任ではないのだが、そこは割愛で良いだろう、としれっとしている。
「セルヴィ殿下の近衛騎士? そんなのが来る予定だったのか?」
男は不審そうにしたが、身分証を見せ、国の騎士団副団長であったことを証明すると、不審ながらも納得したようだった。
男は予想通りの雑用係で今から厩舎の掃除に行くところだったらしい。
「俺の名はダン。よろしく」
「よろしくな、ついでにセルヴィ殿下の行きそうな場所知らないか?」
「セルヴィ殿下の行きそうな場所? そんなの知る訳ないよ、あの方、ほとんど出歩かないし」
ハハハと笑いながら言われ、トルフの言っていた答えと一緒だな、と溜め息を吐いた。
厩舎へ行くというダンに付いて行き、馬を見せてもらうが……
「に、二頭だけなのか?」
「え? うん」
「え、馬車は……?」
「え? 馬車?」
「「え?」」
ダンと顔を見合わせ、しばし茫然。
「マジかよ!! 馬、二頭!? しかも馬車もないのか!?」
「え、あ、あぁ……殿下が乗る馬だけだしな。二頭で十分だろうって。馬車も出歩くことはないのだから必要ない、って殿下が処分したと聞いた。納屋のほうに荷馬車があるだけだな」
「な、なんだよそれ……」
(思っている以上の節約家だな! しかも殿下の馬が荷馬車と兼用って!)
ディークはセルヴィのあまりの節約ぶりに唖然とした。いや、節約というよりも貧乏性にみえる……とか不敬なことを考えてしまう。
(貴族とは思えんな……しかも王族なのに……)
あまりの茫然に乾いた笑いで遠い目をした。
結局のところ、セルヴィの居場所は分からず、ダンとは別れそのまま再び散策をしていると、正門側とは違う、裏手の庭園へとたどり着く。
多くの花が丁寧に手入れされてあり、様々な花が咲き誇り、ここだけは節約とは縁遠い美しさを放っていた。
特に花に興味はないのだが、迷路のように続く通路に興味をそそられ、つい庭園内を歩いて行く。
白い薔薇が多く咲き誇っていたが、なにやら一ヶ所だけ見たことがない色の花が咲いていた。そこには青い花弁の、薔薇と似た花が……
それに見惚れていると温かな風が吹き、少しばかりの花弁を散らす。ざざっと風の音が耳を撫で一瞬風を避けるように目を閉じた。
そして次に目を開けたとき、目の前には『天使』がいた……。
(それにしてもほんと無駄にでっけーな)
たった一人の主に十二名だけの使用人のために、この城があるのかと思うと無駄ではないか、とディークは呆れた。トルフの話ではこの無駄に広い城のおかげで、使用人たちも城のなかに自分の部屋を持っているのだそう。使用人棟があったところでわざわざそちらを管理せねばならなくなるため、無駄だろう、と以前はあったらしい使用人棟を取り壊したそうだ。
セルヴィの指示で使用人棟を取り壊し、使用人も城の一部を使い住み込みで働いている。
(まあセルヴィ殿下自体は、まともな考え方の人間そうだな)
貴族といえば無駄を好む。いや、好んでいるわけではないのかもしれないが、平民から見ると好んで浪費しているようにしか見えないのだ、とディークは苦笑する。
だからセルヴィの無駄を省く考え方はディークには好感が持てた。
うろうろと歩き回るうちに、窓から使用人の姿が見えた。服装からして雑用をこなす二人のうちの一人か。どこから外に出たものか、と辺りを見回すが、ひたすら長い廊下が続くだけで、部屋への扉は並ぶが、外へと繋がる扉はない。
「くそっ、めんどうだ」
きょろっと周りを見回し、誰もいないことを確認すると、ディークはおもむろに窓を開け、窓の縁に手を掛けると、そこから大きく脚を振り上げ飛び降りた。
突然空から見知らぬ男が目の前に降って来た。作業をしていた男はひぃと小さく悲鳴を上げる。
二階の高さから飛び降りたディークは難なく地面へと着地する。目の前には驚き唖然とした顔の男が立ち尽くしていた。
「だ、誰だ、お前!?」
咄嗟に身体は動かなかったが、男は慌てて不審者であるディークに身構えた。
「あー、すまん。今日から配属となったセルヴィ殿下の近衛騎士のディークだ。以後よろしく」
まだセルヴィの許可は得ていないから正式に着任ではないのだが、そこは割愛で良いだろう、としれっとしている。
「セルヴィ殿下の近衛騎士? そんなのが来る予定だったのか?」
男は不審そうにしたが、身分証を見せ、国の騎士団副団長であったことを証明すると、不審ながらも納得したようだった。
男は予想通りの雑用係で今から厩舎の掃除に行くところだったらしい。
「俺の名はダン。よろしく」
「よろしくな、ついでにセルヴィ殿下の行きそうな場所知らないか?」
「セルヴィ殿下の行きそうな場所? そんなの知る訳ないよ、あの方、ほとんど出歩かないし」
ハハハと笑いながら言われ、トルフの言っていた答えと一緒だな、と溜め息を吐いた。
厩舎へ行くというダンに付いて行き、馬を見せてもらうが……
「に、二頭だけなのか?」
「え? うん」
「え、馬車は……?」
「え? 馬車?」
「「え?」」
ダンと顔を見合わせ、しばし茫然。
「マジかよ!! 馬、二頭!? しかも馬車もないのか!?」
「え、あ、あぁ……殿下が乗る馬だけだしな。二頭で十分だろうって。馬車も出歩くことはないのだから必要ない、って殿下が処分したと聞いた。納屋のほうに荷馬車があるだけだな」
「な、なんだよそれ……」
(思っている以上の節約家だな! しかも殿下の馬が荷馬車と兼用って!)
ディークはセルヴィのあまりの節約ぶりに唖然とした。いや、節約というよりも貧乏性にみえる……とか不敬なことを考えてしまう。
(貴族とは思えんな……しかも王族なのに……)
あまりの茫然に乾いた笑いで遠い目をした。
結局のところ、セルヴィの居場所は分からず、ダンとは別れそのまま再び散策をしていると、正門側とは違う、裏手の庭園へとたどり着く。
多くの花が丁寧に手入れされてあり、様々な花が咲き誇り、ここだけは節約とは縁遠い美しさを放っていた。
特に花に興味はないのだが、迷路のように続く通路に興味をそそられ、つい庭園内を歩いて行く。
白い薔薇が多く咲き誇っていたが、なにやら一ヶ所だけ見たことがない色の花が咲いていた。そこには青い花弁の、薔薇と似た花が……
それに見惚れていると温かな風が吹き、少しばかりの花弁を散らす。ざざっと風の音が耳を撫で一瞬風を避けるように目を閉じた。
そして次に目を開けたとき、目の前には『天使』がいた……。
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