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3-2 王子セルヴィ
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(ブッ。スゲー顔。慇懃無礼にもほどがあるな、俺)
自分で笑いそうになりながら、空をかいた両手をにぎにぎと握り締め、じりじりとセルヴィに詰め寄る。
「や、やめろ! 寄るな!! 自分で行く!!」
セルヴィはそう叫び、踵を返し歩き出した。
「殿下……そっちじゃありません」
「…………」
「逃げようったってそうはいきませんよ」
まだミルフェン城に来たばかりのディークがなぜ自身の部屋の位置を把握しているんだ、とセルヴィは怪訝な顔をする。
ディークは生まれ育った環境のせいか、洞察力に優れていた。人の考えていることをなんとなく察することが出来たり、どのような行動や発言をすれば周りから認められるか、他人が自分をどう思っているか、などを感じ取ることが出来た。
騎士団での暴行事件はディークにしてみれば、予測出来たことだった。それなのに怒りを抑えることが出来なかったのは、団長が暴言を吐いた内容のせいなのだが……。
それらの洞察力は見知らぬ土地へ行っても発揮されていた。遠征で行った先でも初めて訪れた街でも、ディークは道に迷ったことなど一度もない。
どこをどう通ったかを頭のなかに記憶していき、それらを繋ぎ合わせることによって、頭のなかに地図を作るのだ。そのため通ったことのない道ですら、その他の情報や距離感を計算し、その道がどこへ繋がるかを把握することが出来た。
ここミルフェン城へ着いてからも、トルフに案内された道と、今まで散策をした道、庭園までやってきた道を計算し、セルヴィの部屋がそちらの方向ではないと判断した。
全ての道をまだ把握しきれてはいないが、セルヴィの部屋はここからそう離れてはいない、という理由からもうすでに正確な位置を把握していたのだ。
「チッ」
セルヴィは小さく舌打ちをすると、ディークのほうへと再び踵を返し歩き出した。ディークは小さく頭を下げると一歩後ろに下がり、セルヴィが通り過ぎるのを待ってあとに続いた。
(王子が舌打ちするなよな……)
そうは思ったが、「人嫌い」と噂されていたセルヴィはもっと無表情で冷徹な雰囲気なのかと思っていたディークは、意外にも表情豊かなセルヴィに少し興味を持ったのだった。しかしまだ怒った顔しか見ていないな、とディークは苦笑した。
セルヴィの数歩後ろを歩きながら、部屋まで戻るとセルヴィは自身の机の上を確認しだした。ディークは山積みとなった書類を確認しているセルヴィを眺めていたが、チラリと周りに目をやると、部屋自体は広いのだが王子の部屋とは思えないような簡素な部屋だった。
今現在いる部屋は執務室となっているのか、本棚や机、応接椅子などが並んでいるが生活感はない。机などは一級品なのだろうが、貴族といえば豪華な調度品や美術品に囲まれている印象しかなかったディークにとっては驚きでしかなかった。
執務室から続き部屋なのだろう扉がいくつか見えるが、おそらくベッドルームやドレスルーム、シャワールームだろうか、とディークは考えを巡らせていると、セルヴィが一つの書簡に目をやった。
セルヴィの手にある書簡には国の紋章である封蝋が施されてあった。
「これか……」
セルヴィは面倒そうにその封蝋を切り、書簡を開いて読むと眉間に皺を寄せた。片目しか表情を読み取ることが出来なくとも、その不機嫌さは十分に伝わった。
「お分かりいただけましたか?」
ディークは両手を後ろ手に組み、騎士らしく直立していたが、言葉や態度は王子に対するそれではない。あからさまに嫌そうな顔をしたセルヴィは溜め息を吐いた。
「ここにいるのは別に構わないから好きにするといい」
そう言ったセルヴィの言葉を待ってましたとばかりに、ディークはニッと笑い……
「ありがとうございます! それでは今から部屋をいただきに行き、使用人たちに挨拶させていただきますね! 明日から殿下の護衛に参りますので、今日はこれにて失礼致します!」
「いや、私には……」
ディークは自分の言いたいことだけを捲し立て、セルヴィがなにか言おうとしたのを待つこともなく部屋をあとにした。
「お、おい!」
部屋にはセルヴィの溜め息だけが響き渡った。
自分で笑いそうになりながら、空をかいた両手をにぎにぎと握り締め、じりじりとセルヴィに詰め寄る。
「や、やめろ! 寄るな!! 自分で行く!!」
セルヴィはそう叫び、踵を返し歩き出した。
「殿下……そっちじゃありません」
「…………」
「逃げようったってそうはいきませんよ」
まだミルフェン城に来たばかりのディークがなぜ自身の部屋の位置を把握しているんだ、とセルヴィは怪訝な顔をする。
ディークは生まれ育った環境のせいか、洞察力に優れていた。人の考えていることをなんとなく察することが出来たり、どのような行動や発言をすれば周りから認められるか、他人が自分をどう思っているか、などを感じ取ることが出来た。
騎士団での暴行事件はディークにしてみれば、予測出来たことだった。それなのに怒りを抑えることが出来なかったのは、団長が暴言を吐いた内容のせいなのだが……。
それらの洞察力は見知らぬ土地へ行っても発揮されていた。遠征で行った先でも初めて訪れた街でも、ディークは道に迷ったことなど一度もない。
どこをどう通ったかを頭のなかに記憶していき、それらを繋ぎ合わせることによって、頭のなかに地図を作るのだ。そのため通ったことのない道ですら、その他の情報や距離感を計算し、その道がどこへ繋がるかを把握することが出来た。
ここミルフェン城へ着いてからも、トルフに案内された道と、今まで散策をした道、庭園までやってきた道を計算し、セルヴィの部屋がそちらの方向ではないと判断した。
全ての道をまだ把握しきれてはいないが、セルヴィの部屋はここからそう離れてはいない、という理由からもうすでに正確な位置を把握していたのだ。
「チッ」
セルヴィは小さく舌打ちをすると、ディークのほうへと再び踵を返し歩き出した。ディークは小さく頭を下げると一歩後ろに下がり、セルヴィが通り過ぎるのを待ってあとに続いた。
(王子が舌打ちするなよな……)
そうは思ったが、「人嫌い」と噂されていたセルヴィはもっと無表情で冷徹な雰囲気なのかと思っていたディークは、意外にも表情豊かなセルヴィに少し興味を持ったのだった。しかしまだ怒った顔しか見ていないな、とディークは苦笑した。
セルヴィの数歩後ろを歩きながら、部屋まで戻るとセルヴィは自身の机の上を確認しだした。ディークは山積みとなった書類を確認しているセルヴィを眺めていたが、チラリと周りに目をやると、部屋自体は広いのだが王子の部屋とは思えないような簡素な部屋だった。
今現在いる部屋は執務室となっているのか、本棚や机、応接椅子などが並んでいるが生活感はない。机などは一級品なのだろうが、貴族といえば豪華な調度品や美術品に囲まれている印象しかなかったディークにとっては驚きでしかなかった。
執務室から続き部屋なのだろう扉がいくつか見えるが、おそらくベッドルームやドレスルーム、シャワールームだろうか、とディークは考えを巡らせていると、セルヴィが一つの書簡に目をやった。
セルヴィの手にある書簡には国の紋章である封蝋が施されてあった。
「これか……」
セルヴィは面倒そうにその封蝋を切り、書簡を開いて読むと眉間に皺を寄せた。片目しか表情を読み取ることが出来なくとも、その不機嫌さは十分に伝わった。
「お分かりいただけましたか?」
ディークは両手を後ろ手に組み、騎士らしく直立していたが、言葉や態度は王子に対するそれではない。あからさまに嫌そうな顔をしたセルヴィは溜め息を吐いた。
「ここにいるのは別に構わないから好きにするといい」
そう言ったセルヴィの言葉を待ってましたとばかりに、ディークはニッと笑い……
「ありがとうございます! それでは今から部屋をいただきに行き、使用人たちに挨拶させていただきますね! 明日から殿下の護衛に参りますので、今日はこれにて失礼致します!」
「いや、私には……」
ディークは自分の言いたいことだけを捲し立て、セルヴィがなにか言おうとしたのを待つこともなく部屋をあとにした。
「お、おい!」
部屋にはセルヴィの溜め息だけが響き渡った。
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