【完結】異世界転移で落ちて来たイケメンからいきなり嫁認定された件

りゆき

文字の大きさ
58 / 120

29-2 ジウシードの母

しおりを挟む
 ジウシードのその言葉にキュンとしてしまった。先程までのしょんぼりワンコとは思えぬ男らしい発言! かっこいい!

「それにアキラは世界で一番可愛い」
「は!?」

 俺に振り返り微笑んだジウシード。う、うん、その発言はちょっと……いや、かなり恥ずかしい……。

 おばさん以外の全員が「ブッ」と噴き出した。おい。

 しかしおばさんは顔を真っ赤にさせながら怒り心頭のようだった。頭から湯気が出そうだな。

「こんな男が可愛いはずがないでしょう!! 頭がおかしくなったの!?」
「貴女のほうがおかしくなったのではないですか?」
「なんですって!?」

 おばさんはキッと俺を睨み付けると、こちらに歩み寄ろうとした。咄嗟にリョウが俺の前へと立ち、ジウシードがおばさんの腕を掴んだ。

「離しなさい!! こんな奴放り出してやるわ!! 目を覚ましなさい!!」
「いい加減にしないと、母上とて容赦はしません」

 ギリッとおばさんの手首を絞め上げたジウシードは、凍り付くような冷たい視線を落とした。おばさんは蒼褪めながら後退る。

「母親にこんな態度を取っていいと思っているの? 領主になれるよう、私がどれだけ苦労したと思っているの!? この親不孝者!!」
「俺は……領主になりたいと言った覚えはありません」

 カッと怒りを露わにしたおばさんはジウシードに掴みかかろうとしたところでラウルに腕を掴まれた。

「ラウル!! 離しなさい!! 無礼者!!」
「はぁ……」

 あからさまにラウルは溜め息を吐き、そしてジウシードに視線をやると聞いた。

「強制退出させても良いでしょうか?」
「あぁ、頼む」
「かしこまりました」

 ラウルはそう返事をすると、おばさんの両手首を掴む。そして後ろ手に拘束したかと思うと、キーキーと金切り声を上げていたおばさんは急にぐったりと前のめりに倒れた。

「えっ!?」

 一体何事!? と思うとラウルはおばさんを抱き上げ、そのままスタスタと退出していった。

「な、なにが起こったんだ?」

 リョウと二人で唖然としていると、ジウシードが俺の前へと歩いて来た。そして、俺の両手を握り、ふぅぅっと大きく息を吐いた。

「ラウルが痺れさせて気絶させたんだ」
「し、痺れ……」

 な、なるほど? 魔法を使ったってことか?

「アキラ……すまなかった……」
「え?」

 ジウシードは顔を伏せたまま呟いた。その声は少し震えているようで、握る手も少し震えている気がした。

「母がお前に酷いことを言った。本当にすまない」

 俯いてしまい表情がよく分からないが、ジウシードが泣いているような気がした。

「お前のせいじゃないだろ。俺は大丈夫。こんな俺でもジウシードが愛してくれているのは分かってるし」

 そう言ってジウシードの頬に手を伸ばし、そっと包んだ。ジウシードはビクリとし、顔をこちらに向ける。その顔はやはり泣きそうな顔だった。

「大丈夫だよ。お母さんになにを言われようと、ジウシードが俺を嫌いにならない限りは、俺は絶対お前の傍にいるから」
「アキラ……」

 眉を下げ、涙が滲むジウシードの背中に腕を回し、ぎゅっと抱き締めた。ジウシードは「ひと前お触り禁止令」のおかげか、一瞬躊躇ったが、俺から抱き付いてきたのなら良いのだろうという判断をしたようで、同様にぎゅうっと抱き締めてきた。

「俺がお前を嫌いになることなど一生ない」
「うん」
「お前はどうだ」
「え、俺? ……俺もないよ」
「なにか一瞬躊躇しなかったか?」
「し、してない!!」
「そうか」
「そうだよ!!」

 いつもなら笑ってくれそうな会話なのに、ジウシードは俺をぎゅうっと抱き締め、首筋に顔を埋めたまま、しばらくなにも言葉にすることはなかった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。 路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。 「――僕を見てほしいんです」 奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。 愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。 金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら執着兄上たちの愛が重すぎました~

液体猫(299)
BL
毎日AM2時10分投稿 【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸に、末っ子クリスは過保護な兄たちに溺愛されながら、大好きな四男と幸せに暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスが目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。  巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過剰なまでにかわいがられて溺愛されていく──  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな軽い気持ちで始まった新たな人生はコミカル&シリアス。だけどほのぼのとしたハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。 ⚠️若干の謎解き要素を含んでいますが、オマケ程度です!

僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた

無月陸兎
BL
魔力も顔も平凡な僕には、多才で美形な幼馴染みのユーリがいる。昔は仲が良かったものの、今は嫌われていた。そんな彼が授業中の事故でここ十年分の記憶を失い、僕を好きだと言ってきて──。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

処理中です...