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やって来ました、異世界に!

探索者登録

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「それでは、まず最初に、クランについてご説明いたします。
 クランとは、各町、村に支部を持つ、互助組織です。
 職業しては、商いをする商人。
 武器や、防具、薬や、日用品など生活物資を作る、生産職。
 支部のおかれている町や、村を守る騎士。
 魔物の討伐、素材の採取、塔の探索など、報酬次第で何でもする探索者。
 以上の4つがあります。そして、商人クラン、生産クラン、騎士クラン、探索者クランと分けられます。商人、生産職には、さらに、取り扱う物品、生産する物品によって細分化されますが、各クランがまとめております。
 商人クランは、露天商、行商、個人店と、販売方法は様々ですが、販売するには、商人クランに登録し無ければなりません。そして、クランランクに応じて、1か月ごとに会員費を支払っていただきます。相談もなく支払われない場合、クラン証のはく奪、および罰金制度があります。クランに所属することによって、ほかの探索者クランや、生産クランから、商品を仕入れる際割引をしてもらえます。また、自身の個人店舗を持つ際、クランランクに応じて支援金が支払われます。」

「その、クランに所属せずに、商売をしたらどうなるんですか?」

 美湖が、質問をする。

「特に、罰則などはございませんが、クランに入っているといないとでは、信用において大きな差が出てきます。クランに所属している商人であれば、その店を利用した客からの感想をもとに、商人に対して指導したり、改善提案などをしたりします。また、抜き打ちでチェックしていますので、品質、接客対応、仕入れ先などにおいて、ある程度安心することができます。しかし、クランに所属していないと、それらが行われないため、利用者の視点でかなり怪しい店となります。また、クランに所属していない商人に対して、クランに所属している生産者や、探索者などは、もともとの交友関係などがない限り、よほどの物好きでもなければ、ものを売ることもありません。」

「それはどうしてですか?」

「商人というのは、大量注文の、後払いが基本です。もちろん、その場で支払えるのなら支払う者もいるでしょうが。そして、クランに所属していれば、その契約をクランの管理の下で行えますが、所属していなければ、口約束のみとなる場合もあります。であれば、商品だけもらって、別の町に逃げられる危険もあるということになります。だから、クランに所属していない商人には、ほとんどの人が近寄らないので、結局、儲けられずに終わることになります。」

「なるほど、よくわかりました。」

 美湖の反応に、クラン員はうなずき説明を続ける。

「次に、生産クランは、様々な物品を製作する方たちが所属するクランです。こちらも、商人クランと同様に、クランランクに応じての会員費用が掛かりますが、制作する物品に応じて、商人や、騎士、探索者に店舗の利用の斡旋や、必要な素材の格安提供などの特典がございます。」

「こちらも、クランに属さずに活動することは可能なのですか?」

「はい、可能でございます。しかし、商人と同様、いえ、それ以上に苦しい状態になるでしょう。生産クランに属するクラン員は、自身が生産する物品のサンプルをクランに、提出しなければなりませんし、ランクに対して、程度の低いものでは販売を認められません。また、クラン員が抜き打ちチェックも行いますから、ある程度の品質は約束されております。しかし、クランに属さない生産者は、品質の保障や、顧客の斡旋等がありませんので、クランに属さないかたは、趣味や道楽の方がほとんどですね。」

「なるほど、趣味なら楽しくできますものね。素材を買うのは、所属していなくてもできるのですか?所属していない人に、素材を売っても罰則はないのですか?」

「特にございません。双方が納得している金額であればクランが口をはさむことはありません。」

 クラン員は、そこでいったん区切り、続けて説明を開始した。

「次に、騎士について説明します。騎士は、町や村などの自治組織ごとに駐屯所があり、それぞれ配属された騎士が詰めております。騎士の仕事は、自治組織を害するものを、捕縛、討伐することで、ランクにより、毎月の給金が決められておりますが、魔物を討伐すればその素材が、盗賊を討伐、捕縛した際は、彼らがため込んでいた物資のうち、所有者が明確にわからない者であれば、その騎士たちの臨時報酬となります。」

「騎士の説明は短いですね。所有者がわかっているものは、返却の義務があるんですか?」

「はい。しかし、その自治区にて2週間保管して、所有者が現れない場合は、騎士たちの物となります。
 では最後になりましたが、探索者の説明をいたします。探索者の仕事は、いわゆる何でも屋となります。報酬次第で、素材の採集や、旅人の護衛、魔物の討伐、塔の攻略など仕事内容は多岐にわたります。また、仕事の難易度にはランク付けされており、自分のランクと同一以下の仕事しか受けることができません。これは、個人的に実力があってもです。仕事はクランを通してしていただきますが、クランを通さずに仕事をしてもかまいません。その際は、ランクの加算や、仲介などは行わず、問題があっても自己責任となります。以上で、各仕事の大まかな説明となります。」

 と、クラン員ははなしをおえる。

「あの、話の途中で出てた、ランクというのは何なのですか?」

「はい、ランクというのは、すべてのクラン員に与えられているもので、働きに応じて上がっていきます。
 どのクランも、H、G、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSS、となっており、最初はHからスタートになります。探索者に関しては、依頼の達成数や、魔物の素材や魔石の納品などによって、計算されて既定の数値になればランクアップとなります。実力が十分な方は、依頼よりも魔物の素材の納品により、適正ランクまで、駆け足で登っていく人もいますがね。」

「へぇ、例えば、ほかの人からもらった素材などでランクアップした人とかは、どうなんですか?」

 美湖は、説明で疑問に思ったことを聞いてみる。素材の納品なら、金銭に物を言わせれば簡単にランクアップすることができるからだ。

「それなら問題ありません。素材の納品によりランクを上げても、高ランクになればなるほど、魔物の素材も高額になります。しかも、素材の納品は、依頼の達成に比べて必要な数が多いので、高ランクになればなるほど、素材を集めることは大変になってきます。そして、ランクに応じて、依頼の達成や、素材の納品が既定の期間無い場合、ランクダウンや、除名もあり得ますので、結局自分の首を絞めることになります。」

「なるほど。わかりました。あと、クランの規則みたいなものはあるんですか?」

「はい、各クラン全体のルールとして、
・一般市民など、クラン員以外の者に危害を加えない。
・犯罪を行った場合、罪によってはクラン証の剥奪がある。
・クラン員同士のいざこざには、クランは介入しない。
 次に、探索者としてのルールとして、
・依頼を一定期間達成しない場合、魔物の素材を一定量、一定期間内に納品しなかった場合、ランクダウンする。ランクダウンするのがHランクの場合、病気、けがなどの理由がない場合、クラン証を剥奪する。
・探索者は、商品の購入以外に税金が発生しない。依頼の達成量から天引きされている。ただし、税金の金額に達していない場合、年が変わる前に支払わなければ、借金奴隷に落とされる。
・依頼は、依頼者と内容を詰めておいてください。依頼者と内容を詰めた時点でキャンセルは可能ですが、そこで受託した場合、もし失敗したら、ペナルティとして、達成報酬の半額を依頼者に、もう半額をクランに支払う。

 と、こんな感じですね。あとは、どの職業のクラン証でも、各町や村、王都へ入る際審査が簡略化されます。これは、クラン証にプログラムされている魔方陣の一つに、登録者が犯罪を犯していないかどうかの判断機能が付いており、犯罪を犯してしまうと、クラン証が赤くなり、そのときの映像を補完する機能があります。その映像は、登録者の記憶、視界を写し取るので書き換えることはできず、一度発動してしまうとクラン証自体がロックされてしまうため、どんなに魔法にたけているものでも、書換えは不可能とのことです。そして、その発動が、第三者から見ても、弁明の余地がなければ犯罪者として捕縛されるか、永久追放となります。
 説明はこれで終わりですが、ご質問はありますか?」

 クラン員は、話を終え、美湖に質問はないか尋ねる。しかし、美湖も質問は特にないので、首を横に振り応える。

「わかりました。では、探索者に登録ということですので、こちらの書類に必要事項をご記入ください。」

 クラン員は、美湖にいちまいの書類を差し出す。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 氏名

 年齢

 出身

 スキル

 魔法
 
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 と書かれていた。美湖は、ペンを受け取り、記入していく。

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 氏名 シタガイ ミコ

 年齢 17

 出身 ニホン

 スキル 剣術、鑑定、封札
 
 魔法 氷魔法、生活魔法
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「はい、書けました。」

 美湖は、書類をクラン員に返す。クラン員はその書類を確認する。

「おお、スキルが3つに、魔法が2つ。しかも、鑑定と生活魔法ですか。便利なスキル持ってますね。しかし、封札スキルというのは聞いたことがないですね。どのようなスキルなんですか?」

「やっぱり珍しいんですね。こんなスキルなんですが...」

 美湖は、腰のカードケースから銅の封じ札を取り出し、スキルを発動する。今回の的は、先ほど個人情報を記入した書類だった。一瞬、封じ札が光ると、クラン員の手から書類が消え、封じ札に封じられる。

「とまぁ、こんな感じのスキルです。」

 と言いながら、美湖は書類を解放して、クラン員に返す。しかし、クラン員は、開いた口が塞がらない状態だった。

「な、な、な、何ですか!?そのスキルは!!」

「ひゃ!?」

 クラン員がいきなり大声を出したので、美湖は可愛い悲鳴を上げてしまった。

「っと、失礼しました。しかし、そのスキルは何ですか?いえ、ここでの説明はやめましょう。個室を準備しますので、そちらで説明をお願いします。」

 クラン員は、書類を持って裏のほうに下がっていった。


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