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攻略目指してレッツゴー!

報告と新しい奴隷

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 町に着くと、係員が入街手続きを済ませ、二人を馬車とともに街の中に入れてくれた。

「では、お二人とも。町までの護衛ありがとうございました。」

「いえいえ、僕たちも道中楽でしたし、気にしないでください。」

 美湖は、係員に礼を言うと、探索の報告をするために、ユーナとともにクラン支部に向かった。

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 クラン支部は、ほとんど人がいなかった。いるのは、数人のクラン員と受付たちくらいだった。美湖とユーナは、だれも並んでいないアリアの受付にまっすぐに向かった。

「ただいま、アリアさん。塔の探索から帰ってきました。」

「おかえりなさい、美湖さん、ユーナさん。門が閉まってから時間がたっていたのでどうしたのかと思ってたんですよ?」

「ごめんなさい。塔の係員の方の馬車を護衛してました。あとは、最後の最後で、ミドルトレントがでてきたんですよ。それで時間かかっちゃいました。」

 美湖が封じ札を出しながら、アリアに説明した。封じ札には、今回の探索で手に入った素材の名前と数が表示されているため、一目でどれだけの成果があったかアリアも確認できる。

「これはまた、すごい量ですね。さすがは美湖さんといったところでしょうか。ですが、今日はもう時間が遅いので、明日の朝、こちらの素材の提出をお願いできますか?もちろん、買取希望の分だけでいいですよ。塔で回収された素材なら、こちらでの解体は必要ありませんからね。多少は時間をいただきますが、すぐにでもお金を用意できると思いますよ。」

 アリアの前に出された封じ札の枚数と、その中身の数を見て、アリアは時間がかかると判断しその時間を提案した。

「わかりました。明日は休みにする予定なので、時間になったら来ますね。」

 美湖とアリアの会話がひと段落付いたので、ユーナが、

「そういえば、アリア様。本日の探索にて、本来第1階層に現れるはずのない魔物、ミドルトレントが現れました。この件については前例はあるのでしょうか?」

 と、塔の係員に言われたことを質問した。それを聞いたアリアは、

「はい、あまり前例があるわけではないのですが、可能性としては、その階層の魔物が短期間で数多く討伐されると、強力な個体が現れることがあるようです。塔としては、回収した魔力で魔物を生み出しているので、その魔物を多く討伐されると都合が悪いのでは、というのが、研究者たちの意見ですが。」

 と、説明した。

「ふーん。それ、僕たちのせいじゃないですか?今日だけで、100体くらいは討伐しましたよ?」

「...そうですね。ですが、これまでの積み重ねもあります。それに、その強力な個体を討伐すると、より強い階層主が現れるそうです。その階層主を討伐すると、落ち着くようです。明日には、駆け出し探索者には、第1階層への入塔をしないよう呼びかけます。お二人もお気を付けくださいね。」

 アリアの言葉に二人はうなずき、明日の朝再び来ると伝えると宿に戻るためにクランを後にした。

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「さて、明日は1日休みにしたけど、どうしよっか?」

 宿に戻り、食事、風呂を済ませた二人は、ベッドに寝転がっていた。

「それよりもご主人様?どうして私たち、下着姿なんですか?」

 ユーナが頬を染めながら、美湖にジト目を向ける。二人は風呂を済ませ、部屋に戻ると服を脱いで下着姿になっていた。といっても、ユーナは美湖が脱ぐように言ったので脱いだのだが。

「だって、ユーナちゃんの吸血の時って、服着てると汚れちゃうじゃん。それに、ユーナちゃんの体温を直に感じたいからね。と、それより明日だけどさ。新しい仲間を探さない?」

 と、美湖が切り出したのをきいて、

「え!?ご主人様、もしかして、私ではご主人様の足を...」
 
 ユーナが思い切り動揺したので、

「あ、違う違う。ユーナちゃんはものすごく役に立ってくれてるよ。やっぱり、一人より、二人のほうが、物理的にも、精神的にも助かるし。だけど、これから先、塔に挑んだり、長距離の移動をしたりすることもあるだろうからね。さすがに二人じゃ、きついと思うんだ。塔なんか、全部攻略しようとしたら何日もかかっちゃうし。いちいち町に帰ってくるのも手間じゃん。だから、塔の中で野宿するのにもさ、交代で見張りしないといけないし。」

 と、ユーナをなだめつつ説明した。

「...なるほど。すみません、取り乱してしまいました。そうですね。確かに私もご主人様も、基本的には近接戦闘が得意なタイプですし。遠距離攻撃や、回復魔法の使い手がいると助かると思います。」

「でしょ。だけど、僕のスキルやステータス、ユーナちゃんの種族のことなんかを考えると、やっぱり奴隷を買うしかないんだよね。一般の人には、まだ打ち明けれるほど僕たち強くないしさ。」

 と、少し悲しそうな笑みを浮かべ、美湖は、自分のステータスを開く。

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 従 美湖
 年齢 17
 職業 探索者
 称号 女神と接吻せし者
 レベル 25
 HP  2000/2000
 ST  1700/1700
 MP  1900/1900
 AT  1200
 DF  1100
 MA  1150
 MD  1000
 SP  1300
 IN  980
 DX  1000
 MI  880
 LU  700

 スキル
  言語理解   (MAX)
  鑑定     (MAX)
  片手剣術   (MAX)
  片手剣術Ⅱ  (25/50)
  氷魔法    (MAX)
  氷結魔法   (30/60)
  封札     (―――)
  生活魔法   (―――)
  気配察知   (10/30)
  投擲     (8/30)
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 となっていた。数値がとんでもないことになっている。
 続いて、美湖はユーナのステータスを確認する。

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 ユーナ・ヴラドニル
 年齢 15
 職業 奴隷(主・ミコ・シタガイ)、探索者
 称号 吸血鬼・淫魔の血を継ぎ者
 レベル 24
 HP  900/900
 ST  700/700
 MP  800/800
 AT  330
 DF  300
 MA  370  
 MD  360
 SP  300
 IN  240
 DX  320
 MI  330
 LU  180
 VP  200/600
 EP  700/800
 スキル
 吸血      (MAX)
 吸精      (MAX)
 双剣術    (MAX)
 双剣術Ⅱ  (10/60)
 血力開放  (―-―)
 闇魔法   (MAX)
 暗黒魔法  (8/60)
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 となっている。二人とも、ゴブリンキングとの戦いからかなりステータスが上がっており、新しいスキル、魔法も会得している。

「うん、やっぱりかなり上がってるね。僕もそれなりに上がってるし、戦闘自体は問題ないんだけどね。」

「そうですね。塔を攻略するためには、やはり人員は欠かせませんね。わかりました。明日はよい出会いがあるといいですね。」

 ユーナも、美湖の提案には賛成のようだった。

「よし、それじゃ、明日の予定も決まったし。さぁ!ユーナちゃん。お待ちかねの吸血の時間だよ。」

「どうして、吸血される側の方が盛り上がっているんでしょう。」
 ユーナは、美湖の以上にわくわくした表情に多少引きながらも、美湖の首筋に牙を突き立てるのだった。

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  翌朝、美湖とユーナはいつもよりゆっくり起床した。二人の朝は、休日にしている日は遅めになる。それでも、現代で言うところの8時には起きている。まぁ、食堂の食事が割引で食べられなくなるからだが。

 二人は食事をとった後、クラン支部に向かい、アリアに素材を提出した。

「えっと、何ですか?この量は。
 塔ゴブリンの魔石50個
 塔ゴブリンソードマンの魔石30個
 塔ゴブリンソードマンの牙20個
 塔ジャイアントビーの魔石20個
 塔ジャイアントビーの毒針15本
 塔コボルトの魔石30個
 塔コボルトの牙20個
 塔ミドルトレントの魔石1個
 塔ミドルトレントの枝2個
 塔ミドルトレントの葉2枚
 塔マナミント20株
 塔ライフミント30株
 塔ポイズミール10株
 
 はぁ。わかっていたことですが、言わせてください。」

 アリアは、あまりに多量の素材の量に一度息を整え、

「もう少し自重してください!!」

 と、二人を叱るのだった。

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「はぁ、とりあえず、それぞれが塔での素材なのが助かりました。このまま買い取ればいいだけですからね。とにかく、査定をしてきます。お二人はしばらくロビーでお待ちください。」

 アリアはそう言うと、書類を持って奥のほうに下がっていった。美湖とユーナは、言われたとおり、ロビーでお茶を飲みながらゆっくりしていた。今日は探索に行く予定はないため、ラフな格好に、それぞれ武器を持っているだけだった。

「おいおい、嬢ちゃんたち。そんな装備で大丈夫か?何なら、俺たちが少し恵んでやろうか?」

 と、美湖たちを駆け出しの探索者だと思った男探索者たちが、下卑た笑みを浮かべて近寄ってきた。美湖はあからさまに顔をしかめて、

「いえ、間に合ってますので結構です。どうぞお引き取りください。」

 と、心底いやそうな声で言った。ユーナは隣で笑いをこらえるのに必死だった。
 そんな態度が気に入らなかったのか、男たちは逆上し、

「おいおい、そんな口をきいてもいいのか?俺たちゃ、Eランクだぞ。お前らより...」

「うるさいなぁ。僕たちもEランクです。ほら、クラン証だよ。これで文句ない?」

 美湖は、男たちの言葉を斬り、自分のクラン証を見せつける。すると、男たちは若干怯み、

「っけ。そんな身なりしてるから間違ったじゃねぇか。次からはもっとましな格好しやがれ。」

 と、捨て台詞をはいてクラン支部を出ていった。

「...なにあれ?」

「さぁ?新手のナンパでは?」

「やめてよ、気持ち悪い。あんな男たちなんて願い下げ。やっぱり女の子のほうがいいね。話しやすいし、いい匂いだし、可愛いし。」

「ご主人様、途中から欲望になってますよ。」

 二人は、男たちが去った後、再び、お茶を飲みながらまったりとするのだった。

「お待たせしました。美湖さん、ユーナさん。査定が終わりました。カウンタ一に来て下さい。」

 アリアに呼ばれ、二人は彼女のいるカウンターに向かう。そのカウンターの上には大量の貨幣が積まれていた。

「えっとアリアさん?このお金は何ですか?」

 と、美湖が尋ねると、アリアは大きくため息をついて、

「...美湖さん。自分の胸に手を当てて考えてください。」

 と、一言だけ言った。美湖は、いたずらっぽく笑うと、

「わかってますよ。僕たちが提出した素材の代金ですよね。」

「そうですよ。まったく、いつもですけど、もっとこちらのことも考えて持ってきてくださいよ。
 塔ゴブリンの魔石50個で、5000ルクス。
 塔ゴブリンソードマンの魔石30個で、4500ルクス。
 塔ゴブリンソードマンの牙20個で、2000ルクス。
 塔ジャイアントビーの魔石20個で、3000ルクス。
 塔ジャイアントビーの毒針15本で、1500ルクス
 塔コボルトの魔石30個で、3000ルクス。
 塔コボルトの牙20個で、2400ルクス。
 塔ミドルトレントの魔石1個で、500ルクス。
 塔ミドルトレントの枝2個で、400ルクス
 塔ミドルトレントの葉2枚で、400ルクス
 塔マナミント20株で、1000ルクス。
 塔ライフミント30株で、1500ルクス。
 塔ポイズミール10株で、1000ルクス。
 となります。
 合計で、26200ルクスで、金貨2枚と銀貨6枚、銅貨2枚ですね。すごいですね。一日でこれだけの素材が集められるなら、何日間か潜るといくらになるかわからないですね。クランの金庫、空にしないでくださいね。」

 アリアは、お金を差し出しながら、いたずらっぽく言う。美湖もお金を受け取りながら、

「大丈夫ですよ。あ、今日はこれから新しい仲間を探しに行こうと思ってます。それからは、しばらく塔に潜ろうかなと思いますよ。僕のスキルなら、いくらでも食事持ち込み放題ですからね。」

 と、意趣返しのように笑顔で言う。それを聞いたアリアは、笑顔のまま固まってしまった。

「ふふ、アリアさん、固まってますよ。大丈夫ですよ。ちゃんと節度は守ります。いろいろ試したいこともあるし。というわけで、スレイブに行ってきます。」

「美湖さ~ん!今度美味しいものおごってください!」

 おこるアリアに手を振りながら、美湖とユーナはクラン支部を出て、裏手にある奴隷商『スレイブ』にやってきた。

「カルアさん、いますか?」

 スレイブの入り口で、美湖はカルアを呼び出す。すぐにカルアがやってきて美湖たちを応接室に通した。

「お久しぶりですね、美湖さん。ユーナも元気そうで何より。彼女は役に立っていますかな?」

「ええ、とっても。もう、僕のパートナーといっても過言ではありませんね。」

「ちょ、ご主人様!?恥ずかしいです...」

 カルアと美湖が普通に話す中、ユーナだけ顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

「ははは、このような主人と奴隷の関係はなかなか見れませんな。それで、本日はどのようなご用向きで?」

 カルアは、挨拶もほどほどに本題を切り出した。美湖もやぶさかではないのか、

「はい、今日は新しい奴隷を買いに来ました。僕たちは昨日、塔に挑戦してみて、実力的には十分なのですが、人数的な問題で二日以上連続で塔にいることができないんですよ。いや、無理したらいけますが、そんなことはしたくないですし。なので、パーティーメンバーを増やそうと思いまして。」

 美湖の話を聞いたカルアは、顎に手を置き、しばらく考えた後、

「では、美湖さんにぴったりな奴隷が二人おります。今から連れてきますので、少々お待ちください。」

 そう言って、応接室を出ていった。

「僕にぴったりな奴隷...。どんな子だろうね、ユーナちゃん。」

「うれしそうですね、ご主人様。私のことは遊びだったのですか?」

 美湖があまりにも嬉しそうに言うので、ユーナはわざと拗ねて見せた。すると、美湖は慌てて否定し、

「そんなことないよ!ユーナちゃんは最高のパートナーだよ。ただ、これからずっと一緒に住む相手だもん。しっかり隙になれる子じゃないと、お互いにつらいじゃん。」

 そう言って、ユーナの手を握る。ユーナも笑顔を見せて、

「わかっています。ご主人様は素晴らしい方です。その素晴らしい方を私一人が独占するのは、もったいないことです。それに新しい仲間、私も楽しみです。」

 と、美湖の手を握り返すのだった。

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「お待たせしました。おや、仲良くされるのは構いませんが、場所を考えてしてくださいね。」

 応接室に戻ってきたカルアは、美湖とユーナが二人の世界に入っていたので、わざとらしく大きな声で、二人を戒める。二人は、何かにはじかれたように離れると、カルアに向かってぎこちない笑顔を向ける。

「はぁ、ほどほどにお願いしますよ。さて、この子たちが美湖さんにお勧めしたい奴隷たちです。入ってきなさい。」

 カルアが部屋の外にいる奴隷に声をかけると、恐る恐るといった感じで、二人の奴隷が入ってきた。
 美湖はその二人を見て、心底驚いた表情をしたのだった。


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