喧嘩するほどお前がいい

白河夜船

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もふもふは正義

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───将軍が屋敷の危機を救ったあと
 

 まさかあの勇姿をすっかり忘れ去られているとは知らない将軍と、最愛の弟にアレと呼ばれているとは知らない魔法師団長は今、

 騎士団にいた。

 いや、正しくは騎士団だった場所だ。

 強靱な足腰を駆使して、ギリッギリで騎士団についた将軍は、爆発寸前の魔法師団長爆弾魔法師団長を空中へ放り投げた。


「おめぇら伏せろ!!!!」


 将軍の怒号に反射的に騎士団員が伏せたその瞬間

 
「◎□×$◇#▲%■!!!」


 何かが空中て爆ぜた。

 いや、あれは確実に魔法師団長だが、あまりに受け入れ難い現実に脳がショートした結果、意味わからん言語を叫びながら突風が起こり、爆風が全方位に吹き荒れた。

 その瞬間、騎士団があった建物は半壊し、ボロボロの騎士団服を纏った屈強な男共の巣窟となった。
 騎士団員が屈強な故、けが人は0であったが、モヒカンがいれば、ここはもはや世紀末であった。

 しかし、騎士団を世紀末化させた元凶はまだ意味わからん言語を発しながら空中にいる。

 将軍は、金色の獅子に変化していた。
 空中に投げた師団長を受け止めるため、落下地点で待機する。


「危険ですよ将軍!!」

「将軍~!!気をつけください!!」

「単身でなんて死にますよ!」

「逃げてください!」


 もはや厄災級の魔物扱いである。
 団員達は必死に声がけするが、強風のため近づけない。
 というか台風の目にいる将軍だってもう出られないのだ。ここはもう腹を決めるしかない。

 トンッと軽やかに飛ぶと空中で落ちてくる師団長を口でキャッチする。
 そのまま華麗に着地し、腹の下に埋めた。


「◎□×$◇#▲%───フグッ」


 その瞬間、強風が吹き止んだ。



 「「「うおおおおおお!!!!」」」


「将軍がやったぞおお!」

「倒した!魔王を倒したぞ!!」

「将軍すげええ!!」

「まじかっけえっす!男の憧れっすわっ!」

 
「「「将軍っ!将軍っ!将軍っ!将軍っ!」」」


 屋敷とはうってかわり、騎士団では英雄だった。
 将軍といえば、騎士団中の憧れなのである。


『俺、すごい…かっこいい…男の憧れ…』


 屋敷で削られていく自信が、急速に回復していく。


『そうだ、俺は慕われてた…!』 


 将軍は盛大にドヤ顔をした。耳をピーンッと立たせ、目を細める。獅子なので分かりにくいが、キメ顔中であった。

 ふと下に視線を向けると、獅子の体から白い手が力なくはみ出ている。


『あっ、忘れてた』


 そういえば、師団長を生き埋めにしていたのだった。軽く体を起こし、様子を伺う。


 前足で軽く小突いても、ピクリともしない。
 完全に気絶していた。


『おい、まじかよ…』

 
 魔法師団長を生き埋めにして殺したとかマジで笑えねえぞ。
 将軍は、焦りながら前足で小突き回した。


『おい起きろ!おいまじでやめて!本当お願いだから!』
 

「これは何事じゃ!」

『おわっ!』

「───ガハッ」


 突然の声にびっくりして、師団長を思い切り踏んでしまう。しかし、それに功を奏したのか、師団長は息をぶり返した。


『じ、女王陛下!』


 将軍は急いで頭を伏せる。数人の近衛を連れた幼女、もとい女王陛下が怒り心頭でこちらへ向かっていた。


「アロイス!何じゃこの有様は!騎士団が跡形もないじゃろが!説明せい!」

『へ、陛下…その、ええと』


「もふもふが、もふもふで、もふもふの……あれ~?僕はさっきまでシヴァンに会───フガッ」
 

 急いで魔法師団長を体に押し付ける。


「ミラン…お前まで何をしとるんじゃ…あれ?わしはお主らの遠征を見送ったぞ、何でいるんじゃ」

「わ~もふもふパラダイスだ~もふもふもふもふ」

「こいつ大丈夫か?」

『陛下、これのことは一旦お忘れ下さい』

 
「う、うむ…じゃなくて!アロイス!この惨状を説明せい!」
 

「陛下、御御足おみあしが汚れております。」

「陛下、お御髪が…」


 傍に控えている近衛が、興奮冷めやらぬ陛下の若干汚れた靴や、若干乱れた髪を直している。

 このロリコン集団近衛騎士団が!!
 どう説明しろっていうんだよ。ブラコンという名の爆弾処理をしてましたなんて言って伝わんのか?


『へ、陛下…あまり興奮されますとご老体に』

「あ゛?!!」

『ご、ご幼体に触ります故…』

「ふんっ、誤魔化されんぞアロイス、わし納得する説明聞くまで帰らんから。ふんっ」


 ふんっ、じゃねえんだよロリババア!!幼女みたいな見た目して百歳超えてんだろうが!!


「おい、よく見たら裸だぞ!」

「おい、視界を隠せ!」

「陛下、あまり裸の男を見られては、陛下の教育上よろしくありません」

「陛下失礼致します」


 陛下の視界に裸の獅子アロイスが映らぬよう、サッと近衛達が遮るように横並びに整列する。


『おい、裸って!これはこういう仕様なの!』


「黙れ!それ以上陛下に野蛮な姿を見せるわけにはいかない!」

「くっ我々がもっと早く気がつけば!」

「私としたことがっ、陛下しか見てなかった!!」

「陛下、ご無事ですか!」


 絶対暑苦しい男達に囲まれた方が教育上悪いだろ…。


「お主ら…普通に邪魔だから…」


「そんなっ!陛下ああ!」


 膝から崩れ落ちた近衛達の白い近衛服が土まみれになって鬱陶しい。


「おいお前、もうちょい小さくなれ!なるべく視界に入らないようにしろ!」

『おい、小さくなったらマジで裸だぞ、これで我慢しろ』


「なっ、猥褻罪だぞ!変態め」

「処されないだけ感謝しなさい」

「金色の猥褻物が」

「近衛を見習え」


『俺マジでこいつら嫌い』


「お主ら本当にうるさいから」


 近衛らが静かに泣き出す。土まみれでみっともないが、正直清々する。


「とにかく!わしは忙しい!今日中に紙で提出してもらうぞ!!あと、ミランは隣国にいる魔法師団へ送り返せ!分かったな!」


『はっ』


「べ、べつに裸に照れてるわけじゃないからな!ふんっ!」


 陛下は、近衛を連れて早足で去っていく。


『はぁ、裸でよかった…』


「もふもふ~───フグッ」


 女王陛下を前にしても一身にもふり続けていた魔法師団長を、一旦体に埋め、現実逃避する。


『あぁ…こいつどうしよう』
 
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