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10.約束 オルフェside
しおりを挟む「ぅっ、うぅっ、、」
「……ん、リーヴェ?」
リーヴェがうなされている。
とても苦しそうで、起こそうと肩に触れたとき、リーヴェが口を開いた。
「ぅっ、オル、フェウス……」
「……え」
ばっとリーヴェを覗き込むが、硬く瞼は閉ざされている。
リーヴェには、『オルフェ』としか名前を伝えていない。
つまり、夢の中で過去の記憶を見ているのだろうか。
ああ、ついにこの日が来てしまったのだな…。
最初は、記憶喪失と聞いてショックだった。
リーヴェの運命はあまりにも残酷で、不幸にするだけの神を恨んだ。
でも少しして、思い出さない方が都合が良いんじゃないか、そう思った。
辛くなるだけの記憶なんてない方が良い。
だから、夫だと嘘をついた。
名前も全て教えなかった。
そうやって、意図的に情報を制限して、リーヴェのためだなんて自分に言い訳をした。
本当は、これが俺のただのエゴだってわかっていて、リーヴェ様と夫婦生活を送るだなんていう夢のような生活を楽しんでいた。
俺の親は、代々王家へ仕える影だった。
影は主に暗殺や諜報活動を行うが、勿論幼少から影になるための教育を受けていた俺は、どうやら抜きん出て優秀だったようで、妃殿下が第三王子を孕んだと同時に、その従者に選ばれた。
第三王子は、王家でもっとも命を散らす可能性が高い。俺はその盾となり、殿下のために命を散らすのが役目だった。
その役目に疑問を持ったことは一度もない。
だが本当の意味で忠誠を誓った瞬間は、忘れもしないリーヴェンハルト殿下が3歳の時だ。
きっかけはあまり覚えていない。
ただ落ち込んでいる俺をなぐさめようと、雪の魔法を見せてくれたのだ。
「みて、オルフェ、とってもきれいでしょ?」
魔法より、そう健気に笑う殿下の方がとても綺麗で、あぁ、俺はこの方の幸せを守るのだと心に誓った。
王族の中で誰よりも美しく、誰よりも気高く、心根が優しく、そして戦の才能がずば抜けている。
殿下は群を抜いた魔法の天才で、魔法が得意でない俺が使えるような魔法を教えてくれた。
そんな美しく成長していく殿下に下心を抱くようになったのはいつからだろう。
7歳も年下の主人に、あろうことか俺は、従者にあるまじき感情を抱いていた。
懐いて甘えてくれる殿下が可愛くて、2人きりの時は不敬ながら愛称で呼ばせてもらった。
そんな淡い関係が崩れたのは、殿下と戦場に立って3年。殿下が18、俺が25の時だ。
手紙で敗戦を知ったその日、俺は結局殿下を説得できず、欲に溺れるまま身体を繋げていた。
ずっとリーヴェ様をこの腕に抱きたかった。
何も考えず、誰にも邪魔されず、永遠に2人だけの楽園で生きていけたらと思ったことは1度や2度じゃない。
「あぁんっ、あぁっ、おるふぇ、もっと、もっと、強く抱いてっ、あああっ、あぁっ」
「はぁ、はぁ、リーヴェ様、リーヴェ、愛してます、リーヴェ」
目の前にある果実にひたすら齧り付き、獣のように激しく交わる。
死ぬほど恋い焦がれてきた相手から求められて、止まれるわけがなかった。
ガラムーンの皇帝も、アステリアの王子も殺してやりたくて仕方がない。
「なぜだ、何であなたは、俺と逃げて、くれないんだっ、こんなに愛しているのに、リーヴェ!」
「んぁっ、はぁぁっ、オルフェ、オルフェ、あぁっ、私も愛してる、愛してる」
視界が滲む。
俺は本当に、リーヴェ様以外どうなったっていいのに。
リーヴェ様がそれを許さない。
主人の命令には背けないけれど、自分を犠牲にしようとする命令を聞くのは、身が裂かれるほど苦しい。
俺が代わりになれたらどれほど良かったか。
情けなく縋ってるのは俺の方だ。
俺の方が、リーヴェ様がいないと生きていけないのだ。
結局、俺がどうなろうとこの国には関係ないが、
リーヴェ様には高貴な血が流れていて、紛れもなくこの国の王族で、民を守る責務があった。
すべては、リーヴェ様のためだ。
このままさらって逃げても、リーヴェ様は民を思って苦しんでしまう。
あの皇帝とはいえ、王族であるリーヴェ様をそう無下には扱えない。
だからこれが最適解なんだ。
最初からきっとこうするしかなかったんだ。
そうやって言い訳を吐いて飲み込まないと、気が触れてしまいそうだった。
きっとリーヴェ様を腕に抱いたこの日を一生忘れない。
一度味わってしまった極上の果実の味を、決して忘れることはできない。
俺はこの日の思い出を胸に、残りの余生を抜け殻のように生きていくのだ。
だから今は後先何も考えず、ただ目の前にある幸せと快楽に溺れる。
それでいい。
それでいいんだ。
そのことを死ぬほど後悔することになるのは、1年半後のことだった。
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