記憶喪失ですが、夫に溺愛されています。

もちえなが

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13.思い出した

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――すべて思い出した。
 
「っ!、、はっ、ぁっ、ぁっ」
「リーヴェ!」

全部、全部思い出した。

アステリア第三王子であったことも、心から愛している人のことも、この身体がひどく穢れていることも。

「リーヴェ!ゆっくり息をして、大丈夫だから、大丈夫だ」
「は、、、げほげほっ、げほっ、」

オルフェが私を抱きしめながら、大丈夫だ、大丈夫。と背中をトントンと叩いてくれる。

やめて、優しくしないで。
お前に優しくされるような人じゃない。

ガラムーンで私はすべての誇りを失った。

そんな姿を見られた。
オルフェウスにだけは知られたくなかった。
はしたなく発情した姿を絶対に見られたくなかった!

「やだ!離せ!離して!いやだ!!」
「リーヴェ!大丈夫だ!大丈夫だから!」

オルフェウスが暴れる私を押さえて強く抱き込む。
 
何も大丈夫じゃない。
大丈夫なわけがない!

思い出したくなかった!
消えてしまいたい。

「うううううっ、殺して、殺してよ…もう生きていたくない!これ以上、耐えられない!」

ガラムーンに渡って1年間。
私はずっと地下牢に繋がれて、人の尊厳を踏み躙られて、薬漬けにされて、思考を奪われて、誰とも構わず咥えて跨って、日夜問わず快楽に溺れていた。

オルフェに抱かれた夜のことをすっかり忘れて、私は他の男たちに獣のように腰を振って、浅ましく媚びて、啼いていた。

思考を奪われたままの方が良かった。
記憶を失っていたままが良かった。

誰よりも愛している人に知られるくらいなら、死んだ方がマシだった。

「そんなこと、言わないで……お願いですから、リーヴェ」
「うううっううっうあああっ」

オルフェウスが涙を落とす。
逞しい身体に強くかき抱かれて、それだけでこの浅ましい身体は喜んでしまう。
身体に散々刻み込まれた快楽に、簡単に逃げようとしてしまう。
深い絶望に意識が呑み込まれていく。

「死にたい、死にたい、死なせてーー」
「過去なんてどうでもいい!俺はあんたを愛してんだよ!」

愛の言葉に心が震えあがるほど嬉しいのに、目の前は真っ暗闇で、光が届かない。

どうしたらここから抜け出せるのかもわからない。
 
「記憶なんて上書きしたらいいだろ!抱かせろよ、リーヴェ」
「あぁっ、オルフェ」

眼鏡を外したオルフェウスに押し倒される。
初めて聞く乱暴な口調だった。

「全部忘れるまで離さねえから」
 

海の中で揺蕩う海月のような心地だった。

真っ暗闇の中で、水の中のようにひどく体が重く、息苦しい。

全ての輪郭がはっきりとしない体の内側から、広がる熱く痺れるような快感だけは確かなものとして感じ取ることができた。

「あぁんっ、んぁあっやあああっ、こわぁぃぃっ」
「はっ、は、ん、、、リー、ヴェ」

だからこそ、目の前にある大きな身体にしがみついていないと、荒波に飲まれて消えてしまいそうで怖かった。

「リーヴェ、大丈夫だ、俺を見て、俺だけを感じて」
「っ、はっ、、ぁっ、、、オ、ルフェ、、、オルフェ、オルフェ!」

やだ、見失いたくない。怖い。
快感も、オルフェを愛している心さえも何もわからなくなるのが怖い。

消えてしまわないように、確かなもので刻み付けて上書きしてほしい。

「リーヴェ、はっ、絶対離さない、愛してる!」
「あぁぁっ、オルフェ、オルフェ、~~~~っ!」

オルフェ。私の命。
貴方に愛されていないと、私は息もできない。
貴方に愛されていないと、私は人の形を保てない。

貴方に愛されていないと――、いや、
貴方の愛を失ったら、その時私は迷いなく死を選ぶ。

ああ、想像しただけで、四肢が切り裂かれるほど痛くて苦しい。

「リーヴェ、愛してる、愛してる」
「あぁっ、オルフェ、私も、愛してる」

注がれ続ける揺るぎない愛が、私をこの世に繋ぎ止めていた。
 



 
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