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第17話 偽神教団、王宮襲来
王宮の大広間はパニックに陥っていた。
国の中枢たる魔法省の精鋭たちが放つ魔法が、異端教団の『神明の結界』に触れた瞬間、次々と消えていく。
「あ、あれはまさか……『絶魔(アンチ・マジック)』か!?」
「アッシュ卿と同じ奇跡を、奴らも使えるというのか……!?」
貴族たちが震え上がり、広間の隅へと逃げ惑う。
俺の隣に立つエレナも、信じられないものを見るような目で教団員たちを睨んでいた。
「……いえ、違います。アッシュ様の御業とは根本的に異なる、ひどく歪で……汚らわしい術式です」
エレナが不快そうに顔をしかめる。
「アッシュ様の『削除』が世界そのものをあるがままの姿に戻す【真理】であるとすれば……奴らの結界は、無理やり他の魔素を食いつぶして空洞を作っているような【冒涜】です!」
相変わらずの全肯定だが、彼女の魔法的な直感は驚くほど正確だ。
俺の視界に流れるログによれば、彼らは旧文明のAIネットワークに不正なローカルサーバーを立て、そこから限定的な管理者権限を引っ張っているらしい。
「アルマンド卿!」
魔法省長官のアルベルト公爵が、顔面を蒼白にしながら俺にすがりついてきた。
「こ、国家の危機だ! どうか貴方のその力で、あの不届き者を——」
「ふん」
教団の教祖が鼻で笑う。
「そのガキが我らと同じ『神の力』の欠片を持っていることは知っている。だが、彼は神に選ばれてなどいない。たまたま『システム』の穴に触れただけのバグにすぎん」
教祖が杖を俺に向けた。
「ゆえに神は我々に啓示を下された。『偽物の神(バグ)を駆除せよ』とな!」
【System:不正アクセス元からユーザー(アッシュ)への『デリート・コマンド』が実行されました】
「っ!?」
俺の視界が、一瞬バグったようにノイズに塗れた。
心臓が不自然に跳ね上がり、呼吸が詰まる。
彼らは俺を『魔法』で殺そうとしているのではない。俺が得ている『デバッガー権限へのアクセス権そのもの』を、システム側から物理的に切断(デリート)しようとしているのだ。
「アッシュ様!?」
エレナが俺の異変に気づき、悲痛な声を上げる。
『警告:不正な認証要求を受信。ローカルネットワークからのDDoS攻撃により、メインフレームへの接続が遅延しています』
くっ……! こいつら、教団員数十人がかりで同時にコマンドを連打し、俺の接続を妨害してきやがった!
手口は泥臭いが、魔法が使えない俺から権限を奪えば、ただの一般人に逆戻りだ。
「はーっはっはっは! どうした偽神(バグ)! 貴様が使っていた『神の力』が、神自身の意思によって剥奪される気分はどうだ!」
教祖が狂ったように笑う。
「……」
俺は冷や汗を流しながら、頭の中で必死にコンソールを叩いた。
YESボタンを押すだけじゃダメだ。
向こうは数十台の端末(杖)でネットワークに負荷をかけている。こっちのアラートの処理が追いつかない。
だが……俺は地下水路で、マニュアル操作のコツを掴みかけていた。
単に『削除(DELETE)』を選ぶな。
管理者権限(ルート)の強さを活かして、相手の接続元をダイレクトに叩き落とせ!
『実行コマンド:ipconfig /release』
『対象:Local_Network(疑似神アクセスポイント)』
俺は脳内で、かつて前世(?)の記憶の片隅にあったような文字列を引っ張り出し、システムに命令を下した。
——ピキィィィィンッ!!
大広間を覆っていた紫色の『神明の結界』が、ガラスが割れるような甲高い音を立てて粉々に砕け散った。
「なっ……!?」
教祖の笑い声が止まる。
教団員たちが持っていた杖の先端から、パシュッ、と間抜けな音を立てて魔力の紫光が消え去った。
「ば、馬鹿な! 神との接続が……切れた……!?」
「結界が維持できない! 術式が霧散していく!」
「今だ! 近衛兵、奴らをやれ!!」
アルベルト公爵の号令と共に、待機していた近衛兵たちの極大魔法が一斉に教団員たちへと降り注いだ。
自分たちの『魔法』に頼りきり、肉体的な防御を怠っていた教団員たちは、炎と雷の嵐に為す術もなく吹き飛ばされていく。
【System:不正なローカルネットワークの遮断を確認。メインフレームへの接続異常が回復しました】
「……ふぅっ」
俺は膝から崩れ落ちそうになるのを必死に堪え、深呼吸した。
危なかった。もしコマンドが通っていなかったら、俺は今日ここでただの村人Aとして死んでいたかもしれない。
「アッシュ様!!」
エレナが泣きそうな顔で俺に抱きついてきた。
「ああ……なんという恐ろしい……! あの不届き者ども、アッシュ様が『あえて』結界を維持させて泳がせておられる御心も知らずに、狂ったように力比べを挑んでくるだなんて!」
「……え?」
「私には見えました! アッシュ様は、奴らが自らの愚かさに気づいて悔い改めるのを、ただ黙って数秒間待って差し上げていたのですね! しかし奴らが改心しないと見るや、慈悲の心を捨て、一瞬で偽の神威を粉砕された! ああ……真なる神の御子よ!!」
大広間に響き渡るエレナの演説。
それを聞いた貴族たちが、次々とその場にひれ伏していく。
「見よ……あれが真の神の力……!」
「異端の結界すらも、まばたき一つで消し去ったぞ!」
「アッシュ卿……いや、アッシュ大佐!」
アルベルト公爵が、俺の手を両手で固く握りしめた。
「貴方は我が魔法省の、いや王国の守護神だ! どうか、どうか我が省の特別顧問として……!」
「だからならないって言ってるでしょおが!!」
俺の魂の叫びは、またしても歓喜の渦の中で無惨にかき消されたのだった。
国の中枢たる魔法省の精鋭たちが放つ魔法が、異端教団の『神明の結界』に触れた瞬間、次々と消えていく。
「あ、あれはまさか……『絶魔(アンチ・マジック)』か!?」
「アッシュ卿と同じ奇跡を、奴らも使えるというのか……!?」
貴族たちが震え上がり、広間の隅へと逃げ惑う。
俺の隣に立つエレナも、信じられないものを見るような目で教団員たちを睨んでいた。
「……いえ、違います。アッシュ様の御業とは根本的に異なる、ひどく歪で……汚らわしい術式です」
エレナが不快そうに顔をしかめる。
「アッシュ様の『削除』が世界そのものをあるがままの姿に戻す【真理】であるとすれば……奴らの結界は、無理やり他の魔素を食いつぶして空洞を作っているような【冒涜】です!」
相変わらずの全肯定だが、彼女の魔法的な直感は驚くほど正確だ。
俺の視界に流れるログによれば、彼らは旧文明のAIネットワークに不正なローカルサーバーを立て、そこから限定的な管理者権限を引っ張っているらしい。
「アルマンド卿!」
魔法省長官のアルベルト公爵が、顔面を蒼白にしながら俺にすがりついてきた。
「こ、国家の危機だ! どうか貴方のその力で、あの不届き者を——」
「ふん」
教団の教祖が鼻で笑う。
「そのガキが我らと同じ『神の力』の欠片を持っていることは知っている。だが、彼は神に選ばれてなどいない。たまたま『システム』の穴に触れただけのバグにすぎん」
教祖が杖を俺に向けた。
「ゆえに神は我々に啓示を下された。『偽物の神(バグ)を駆除せよ』とな!」
【System:不正アクセス元からユーザー(アッシュ)への『デリート・コマンド』が実行されました】
「っ!?」
俺の視界が、一瞬バグったようにノイズに塗れた。
心臓が不自然に跳ね上がり、呼吸が詰まる。
彼らは俺を『魔法』で殺そうとしているのではない。俺が得ている『デバッガー権限へのアクセス権そのもの』を、システム側から物理的に切断(デリート)しようとしているのだ。
「アッシュ様!?」
エレナが俺の異変に気づき、悲痛な声を上げる。
『警告:不正な認証要求を受信。ローカルネットワークからのDDoS攻撃により、メインフレームへの接続が遅延しています』
くっ……! こいつら、教団員数十人がかりで同時にコマンドを連打し、俺の接続を妨害してきやがった!
手口は泥臭いが、魔法が使えない俺から権限を奪えば、ただの一般人に逆戻りだ。
「はーっはっはっは! どうした偽神(バグ)! 貴様が使っていた『神の力』が、神自身の意思によって剥奪される気分はどうだ!」
教祖が狂ったように笑う。
「……」
俺は冷や汗を流しながら、頭の中で必死にコンソールを叩いた。
YESボタンを押すだけじゃダメだ。
向こうは数十台の端末(杖)でネットワークに負荷をかけている。こっちのアラートの処理が追いつかない。
だが……俺は地下水路で、マニュアル操作のコツを掴みかけていた。
単に『削除(DELETE)』を選ぶな。
管理者権限(ルート)の強さを活かして、相手の接続元をダイレクトに叩き落とせ!
『実行コマンド:ipconfig /release』
『対象:Local_Network(疑似神アクセスポイント)』
俺は脳内で、かつて前世(?)の記憶の片隅にあったような文字列を引っ張り出し、システムに命令を下した。
——ピキィィィィンッ!!
大広間を覆っていた紫色の『神明の結界』が、ガラスが割れるような甲高い音を立てて粉々に砕け散った。
「なっ……!?」
教祖の笑い声が止まる。
教団員たちが持っていた杖の先端から、パシュッ、と間抜けな音を立てて魔力の紫光が消え去った。
「ば、馬鹿な! 神との接続が……切れた……!?」
「結界が維持できない! 術式が霧散していく!」
「今だ! 近衛兵、奴らをやれ!!」
アルベルト公爵の号令と共に、待機していた近衛兵たちの極大魔法が一斉に教団員たちへと降り注いだ。
自分たちの『魔法』に頼りきり、肉体的な防御を怠っていた教団員たちは、炎と雷の嵐に為す術もなく吹き飛ばされていく。
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「……ふぅっ」
俺は膝から崩れ落ちそうになるのを必死に堪え、深呼吸した。
危なかった。もしコマンドが通っていなかったら、俺は今日ここでただの村人Aとして死んでいたかもしれない。
「アッシュ様!!」
エレナが泣きそうな顔で俺に抱きついてきた。
「ああ……なんという恐ろしい……! あの不届き者ども、アッシュ様が『あえて』結界を維持させて泳がせておられる御心も知らずに、狂ったように力比べを挑んでくるだなんて!」
「……え?」
「私には見えました! アッシュ様は、奴らが自らの愚かさに気づいて悔い改めるのを、ただ黙って数秒間待って差し上げていたのですね! しかし奴らが改心しないと見るや、慈悲の心を捨て、一瞬で偽の神威を粉砕された! ああ……真なる神の御子よ!!」
大広間に響き渡るエレナの演説。
それを聞いた貴族たちが、次々とその場にひれ伏していく。
「見よ……あれが真の神の力……!」
「異端の結界すらも、まばたき一つで消し去ったぞ!」
「アッシュ卿……いや、アッシュ大佐!」
アルベルト公爵が、俺の手を両手で固く握りしめた。
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