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第26話 権限レベル2アンロック
大森林から戻っても、俺の日常は一ミリも静かにならなかった。
エレナ、レディス、セレスティア王女が、今日も文字通り這いつくばって付いてくる。
「アッシュ卿。本日の学食のメニューですが、私自らが毒見をして安全を確認して参りました!」
王国の筆頭騎士であるセレスティア王女が、俺のランチトレイを恭しく掲げながら報告してくる。
「王女殿下の舌など信用なりません。アッシュ様の御前にお出しするには、私がこの手で『万能解毒(キュア・オール)』の極大魔法をかけるのが筋というものです!」
エレナが対抗心を燃やして杖を構える。
「昼飯くらい普通に食わせてくれよ……」
俺は心底からため息をつき、冷めたスープをすすった。
学園での生活は完全に「神(俺)と愉快な教団員たち」という構図になり果てていた。
俺が少し指を動かせば「おお、魔力の流れを調整されているのだな!」と叫ばれ、あくびをすれば「神の吐息……!」と拝まれる。
完全に異常な空間だが、慣れというのは恐ろしいもので、俺はこの異常な日常の中になんとか「静かな公務員」になるための勉強時間を捻り出していた。
「まあ、魔法省の試験さえ通れば、こんな騒動も落ち着くはずだ……」
と、希望的観測を胸に抱いていた俺の甘い考えは、その夜、あっさりと打ち砕かれることになる。
【System:アラート。王都全域のローカルネットワークにて、不正な『管理者権限のエミュレート』が複数実行されました】
【System:警告。王都地下の魔素導管群(レイライン)に対する、大規模なDDoS攻撃を検知】
「……ん?」
寮の自室で寝ようとしていた俺の視界が、にわかに赤く染め上げられた。
『現在、気候管理AI、生態系管理AIへのアクセスが一時的に遮断されています』
『王都内の魔素濃度が危険域(レベル5)を突破。都市機能の崩壊まで、残り:約72時間』
「嘘だろ。おい、なんだよこれ……」
俺は跳ね起きた。
窓の外を見ると、王都の夜空が不気味な紫色に濁っている。そして、学園から見える王城のさらに奥……王都の地下から、凄まじいまでの淀んだ魔力が噴き出しているのが見えた。
いや、俺には魔力が見えないはずだ。俺が『視ている』のは、魔力ではなく【異常なデータトラフィックの光(視覚化されたログ)】だ。
「この紫色の光……王宮の時に襲ってきた、あの『教団』か!」
そういえばあの時、教祖は「偽物の神(アッシュ)を駆除せよ」と言っていた。
俺のもてなした『コマンド切断』で一度は撤退したはずだが、奴らは諦めていなかったのだ。むしろ、俺を排除するために、王都の地下に眠るAIのネットワーク(神)そのものに大規模なサイバーテロ(儀式)を仕掛けているらしい。
【System:中枢AIより、権限ユーザー(アッシュ)へ緊急クエストの発行】
【目的:王都地下・旧中枢サーバー(現:大祭壇)へ赴き、異端プロセスを強制終了(パージ)すること】
【報酬:セキュリティレベルの上昇。および管理者権限(レベル2)へのアクセス許可】
「……またパシリかよ」
俺は頭を抱えた。
しかも今回は、エラーのスケールが大きすぎる。「都市機能の崩壊」って、要するに王都ごと吹っ飛ぶ(魔力暴走で壊滅する)ということではないのか。
「クソッ。俺の静かな公務員ライフが、王都もろとも消え去るなんて冗談じゃない……!」
俺は学園の制服(エレナ特製の防御力カンスト仕様)を急いで羽織り、窓からこっそりと抜け出そうとした。
またエレナたちに見つかれば「聖戦だ!」と大騒ぎになる。俺ひとりでこっそり直して、こっそり帰ってこよう。
そう思って窓を開けた、その時だった。
「……アッシュ卿。こんな夜更けに、どちらへ向かわれるおつもりかな?」
「げっ」
寮の裏庭、暗がりの中に、白銀の鎧が月光を反射して青白く光っていた。
王国第一王女・セレスティア卿。
彼女は静かに剣の柄に手を当てながら、夜の闇に浮かび上がる「王都の異変」を鋭い目で見据えていた。
「この異常な魔力の波乱……ただ事ではない。だが、私は学園長の命により、ここから動くことはできん。王国の騎士団も、すでに対応に奔走しているはずだ」
王女は俺を見上げ、深く頭を下げた。
「アッシュ卿。我々のような俗世の剣や魔法では、あの『災厄の根源(紫の淀み)』には届かない。……どうか、貴方様の力で……この国を救ってはいただけないだろうか」
「……」
俺はため息をついた。
「救うとか、そういう大層なもんじゃない。ただ俺の……静かな生活を守るために、うるさい警告音(バグ)を消しに行くだけだ」
俺がそう言うと、王女は感極まったように目を潤ませた。
「おお……なんという慈悲深さ。その一念のために、王国の命運すらも軽々と背負ってくださるとは……!」
また勘違いのゲージが上がった音がした。
俺はもう何も説明する気力をなくし、視界のUIログ【目的:王都地下・旧中枢サーバー】が示す方向へと、暗い王都の街を駆け出していった。
エレナ、レディス、セレスティア王女が、今日も文字通り這いつくばって付いてくる。
「アッシュ卿。本日の学食のメニューですが、私自らが毒見をして安全を確認して参りました!」
王国の筆頭騎士であるセレスティア王女が、俺のランチトレイを恭しく掲げながら報告してくる。
「王女殿下の舌など信用なりません。アッシュ様の御前にお出しするには、私がこの手で『万能解毒(キュア・オール)』の極大魔法をかけるのが筋というものです!」
エレナが対抗心を燃やして杖を構える。
「昼飯くらい普通に食わせてくれよ……」
俺は心底からため息をつき、冷めたスープをすすった。
学園での生活は完全に「神(俺)と愉快な教団員たち」という構図になり果てていた。
俺が少し指を動かせば「おお、魔力の流れを調整されているのだな!」と叫ばれ、あくびをすれば「神の吐息……!」と拝まれる。
完全に異常な空間だが、慣れというのは恐ろしいもので、俺はこの異常な日常の中になんとか「静かな公務員」になるための勉強時間を捻り出していた。
「まあ、魔法省の試験さえ通れば、こんな騒動も落ち着くはずだ……」
と、希望的観測を胸に抱いていた俺の甘い考えは、その夜、あっさりと打ち砕かれることになる。
【System:アラート。王都全域のローカルネットワークにて、不正な『管理者権限のエミュレート』が複数実行されました】
【System:警告。王都地下の魔素導管群(レイライン)に対する、大規模なDDoS攻撃を検知】
「……ん?」
寮の自室で寝ようとしていた俺の視界が、にわかに赤く染め上げられた。
『現在、気候管理AI、生態系管理AIへのアクセスが一時的に遮断されています』
『王都内の魔素濃度が危険域(レベル5)を突破。都市機能の崩壊まで、残り:約72時間』
「嘘だろ。おい、なんだよこれ……」
俺は跳ね起きた。
窓の外を見ると、王都の夜空が不気味な紫色に濁っている。そして、学園から見える王城のさらに奥……王都の地下から、凄まじいまでの淀んだ魔力が噴き出しているのが見えた。
いや、俺には魔力が見えないはずだ。俺が『視ている』のは、魔力ではなく【異常なデータトラフィックの光(視覚化されたログ)】だ。
「この紫色の光……王宮の時に襲ってきた、あの『教団』か!」
そういえばあの時、教祖は「偽物の神(アッシュ)を駆除せよ」と言っていた。
俺のもてなした『コマンド切断』で一度は撤退したはずだが、奴らは諦めていなかったのだ。むしろ、俺を排除するために、王都の地下に眠るAIのネットワーク(神)そのものに大規模なサイバーテロ(儀式)を仕掛けているらしい。
【System:中枢AIより、権限ユーザー(アッシュ)へ緊急クエストの発行】
【目的:王都地下・旧中枢サーバー(現:大祭壇)へ赴き、異端プロセスを強制終了(パージ)すること】
【報酬:セキュリティレベルの上昇。および管理者権限(レベル2)へのアクセス許可】
「……またパシリかよ」
俺は頭を抱えた。
しかも今回は、エラーのスケールが大きすぎる。「都市機能の崩壊」って、要するに王都ごと吹っ飛ぶ(魔力暴走で壊滅する)ということではないのか。
「クソッ。俺の静かな公務員ライフが、王都もろとも消え去るなんて冗談じゃない……!」
俺は学園の制服(エレナ特製の防御力カンスト仕様)を急いで羽織り、窓からこっそりと抜け出そうとした。
またエレナたちに見つかれば「聖戦だ!」と大騒ぎになる。俺ひとりでこっそり直して、こっそり帰ってこよう。
そう思って窓を開けた、その時だった。
「……アッシュ卿。こんな夜更けに、どちらへ向かわれるおつもりかな?」
「げっ」
寮の裏庭、暗がりの中に、白銀の鎧が月光を反射して青白く光っていた。
王国第一王女・セレスティア卿。
彼女は静かに剣の柄に手を当てながら、夜の闇に浮かび上がる「王都の異変」を鋭い目で見据えていた。
「この異常な魔力の波乱……ただ事ではない。だが、私は学園長の命により、ここから動くことはできん。王国の騎士団も、すでに対応に奔走しているはずだ」
王女は俺を見上げ、深く頭を下げた。
「アッシュ卿。我々のような俗世の剣や魔法では、あの『災厄の根源(紫の淀み)』には届かない。……どうか、貴方様の力で……この国を救ってはいただけないだろうか」
「……」
俺はため息をついた。
「救うとか、そういう大層なもんじゃない。ただ俺の……静かな生活を守るために、うるさい警告音(バグ)を消しに行くだけだ」
俺がそう言うと、王女は感極まったように目を潤ませた。
「おお……なんという慈悲深さ。その一念のために、王国の命運すらも軽々と背負ってくださるとは……!」
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