魔力ゼロの落ちこぼれ貴族、神々のエラーメッセージが読めるようになる~「神罰」のシステム権限で学園無双しつつ、本人だけはただのデバッグ作業だと

蒼月よる

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第28話 光線を花火に書き換えろ

「な、なんだあれは……!」
 王女が、空中に浮かぶ紫のコアから発せられる絶望的なプレッシャーの前に、魔剣を持つ手を震わせた。
「あの魔力凝縮……あれが解き放たれれば、この地下空間どころか、上の王都の四分の一がクレーターと化します!」
 エレナも顔面を蒼白にして叫ぶ。天才たる彼女には、あのコアが放とうとしているエネルギーの「計算結果」が見えているのだ。

『対象:不正アクセス元(疑似神コア)』
『状態:オーバーロード。カプセル化状態にあるため、デリート不許可』

 俺の視界のUIにも、赤い文字がチカチカと点滅している。
 相手はシステムのコアの一部を物理的にハッキングし、強固なプロテクトをかけている。俺のYESボタンは効かない。
 だからといって、俺が直に殴りに行くわけにもいかない。魔力ゼロの腕では、あの紫の光に触れた瞬間に灰だ。

「アッシュ様……」
 エレナが、覚悟を決めたような声を出した。
「私が、全生命力を魔力に変換して『絶対零度』を放ちます。数秒……いえ、一瞬だけはあの光の暴走を止められるはず。その隙に、王女殿下がアッシュ様を連れてここから——」
「黙れ学生。王国の騎士が民の盾とならずして何が誇りか! 私が聖剣のリミッターを解除し、刺し違えてでもあの一撃を逸らす!」

 ダメだ。二人とも完全に「捨て身」のフラグを立てている。
 面倒な連中ではあるが、こんなバグ修正で失うわけにはいかない。

「二人とも、下がるんだ」
 俺は、彼女たちの前に進み出た。

「アッ、アッシュ様!?」
「アッシュ卿! いくら貴方でも、あの質量を持つ純粋な破壊のエネルギーを『削除』することは——」

「削除(ゼロ)じゃない」
 俺は呟いた。

 魔法を消すことはできない。物理的な破壊に変換されているからだ。
 ならどうする?
 俺は「デバッガー」だ。ただファイルをゴミ箱に入れるだけの存在じゃない。
 パラメーターを弄ればいい。
 あの致死のエネルギーを『無害なもの』に書き換えればいいんだ!

「Target:Mutant_Core_Energy (異常コアエネルギー)」
「Action:Parameter_Override (パラメーター上書き)」
「Value:Convert_to_Light_and_Sound (非殺傷の光と音へ変換)」

 俺は脳内の深層コンソールにアクセスし、猛烈な勢いでコマンドスクリプトを打ち込んだ。

『警告:高度なシステム上書きには、管理者権限レベル2が必要です』
『現在の権限では承認されません』

「ああっ、もう! さっきの緊急クエストの報酬で『レベル2へのアクセス許可』って出ただろ! 今すぐ承認しろ、クソAI!!」
 俺は頭の中でブチギレながら【強制承認(SUDO実行)】のコマンドを叩きつけた。

『……生体認証パス。管理者権限レベル2を解放(アンロック)』
『コマンドを承認。上書きを実行します』

 ——その瞬間だった。

「死ねェェェッ!! 偽神のごと消え去れェェェッ!!」
 教祖の絶叫と共に、紫のコアから極太の破壊光線が放たれた。
 地下空間の空気を焼き尽くし、轟音を轟かせながら俺たちを飲み込もうと迫り来る絶対の死。
 エレナと王女が悲鳴とともに目を瞑った。

 しかし。
 その光の奔流が俺の眼前に到達した瞬間。

 ピポパポパ……♪
 と、間抜けな電子音が鳴り響いた。

「え?」
 目を開けた王女が呆然と呟く。
「きゃっ!?」
 エレナが驚いて声を上げた。

 俺たちを焼き尽くすはずだった『極太の破壊光線』は、俺の数メートル手前で突如として『色とりどりのシャボン玉の群れ』と『花吹雪』に変換され、ぽふっ、ぽふっ、と心地よい音を立てながら地下空間に舞い散っていたのだ。

「「「「……は?」」」」
 教祖をはじめとする、教団員百人の顔が完全に「?」マークで埋まっていた。

「ば、馬鹿な!? 我らが神の、すべての魔力をつぎ込んだ一撃が……シャ、シャボン玉に……!?」
 教祖が震える手で杖を取り落とした。

「はぁっ……はぁっ……」
 俺はその場に膝をついた。
 ただ消すだけとは違う。相手の放った強大なエネルギーを、瞬時に別の現象へ書き換える処理だ。
 魔力は使っていないが、脳への負荷が尋常じゃない。鼻血が出そうだ。

「ア、アッシュ様……!!」
 唖然としていたエレナが、舞い散る花吹雪の中で、滂沱の涙を流しながら俺の足元に崩れ落ちた。
「ああ……あああっ!!」
「エレナ?」

「なんという……なんという圧倒的な、御力! ただ消しさるのではなく、あのような禍々しく呪われた破壊の魔力を『美しく無害な命(花)』へと昇華させるなど! これはもはや魔法ではない、世界に対する『創世(クリエイション)』の御業!!」
「違ッ……ただ俺の貧困なボキャブラリーで、無害なもののパラメータが『シャボン玉』しか思いつかなかっただけで……!」

 しかし、俺の言い訳は誰の耳にも届かない。
 セレスティア王女もまた、魔剣を放り出して俺の前に跪いていた。
「私の目は完全に節穴だった。アッシュ卿……貴方は神だ。この国の防衛などという下劣な枠組みに押し込めてよい存在ではなかった!」
 王女が額を冷たい石の床に擦り付ける。

「アッシュ神!! アッシュ神!!」

 俺のすぐ後ろで、王国最強の騎士と学園最高の天才が、完全に俺を新興宗教の教祖のように拝め始めた。

「……」
 そしてその光景を見た、本物の『異端教団の教祖』は。
「ふっ、ふふ……あははははっ!! シャボン玉……我らが神の怒りが、シャボン玉だと!?」
 自分の信じてきた絶対の力(システム)を、あっさりと根本からおちゃらけたファンシー現象に書き換えられた絶望で、完全に精神が崩壊して泡を吹いて倒れてしまった。

【System:クエスト目標『異端プロセスの完全粉砕(物理および精神の崩壊)』を確認】
【System:報酬として、管理者権限レベル2『ターミナル拡張・事象の書き換え(Rewrite)』の常時アクセス権が付与されました】

 こうして、王都全域を巻き込むはずだった未曾有の危機は、百人のテロリストが一斉に戦意喪失して警察(近衛兵)に自首するという、ひどく平和的な(そして俺にとっては最も不名誉な)結末を迎えたのであった。
 ……ただしこの時点で俺はまだ、Rewriteの副作用が王都上空に残っていることを知らなかった。
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