魔力ゼロの落ちこぼれ貴族、神々のエラーメッセージが読めるようになる~「神罰」のシステム権限で学園無双しつつ、本人だけはただのデバッグ作業だと

蒼月よる

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第29話 シャボン玉神話の余波

 地下大祭壇の「シャボン玉事件」から数日。
 王都には平和が戻った――俺以外にとってだけは。

「アッシュ卿! 先日の大魔力花吹雪、誠に美しゅうございました! 我が領地でも是非一度!」
「いや、あれはたまたまで……」

 学園の廊下を歩けば、他クラスの貴族生徒からも声をかけられる。
 俺の『絶魔』の力は、ついに「ただ消すだけ」から「事象すら美しく書き換える(創世の奇跡)」へと(完全に誤解されたまま)ステップアップしてしまったのだ。

「ああ、アッシュ様。本日も御御足が輝いておられますわ」
 エレナがうっとりとした目で俺の後ろをついてくる。
「……エレナ。お前、最近俺を見る目が、尊敬っていうか……その、なんだ?」

「なんだとお思いですか?」
 エレナがふわりと微笑み、俺の顔を覗き込んできた。
「私はアッシュ様の第一の盾であり、剣であり、靴底の泥を舐める忠実なる犬です。ですが……神(アッシュ様)とて、人の子としての一面はお持ちのはず。ならば、その『人としての一面』をお慰めする者が、一人くらいは必要ではないかと……」

 彼女の白い指先が、俺の制服の胸元にそっと触れた。
 ゾクッ、と背筋に冷たいものが走った。

【System:対象(エレナ)から、ユーザー(アッシュ)に対する生殖接続(リプロダクション)の要求レベルが極大値に達しています】
【System:強制排除(物理的距離の構築)を実行しますか? [YES/NO]】

「イエス! 超イエス!」

 俺は慌ててエレナから数歩距離を取った。
「あ、あのなエレナ。俺はまだ学生だし、そういうのは……その、公務員になって生活が安定してからだと思ってるから!」
「……まあ。アッシュ様は、私との将来設計まで真剣にお考えくださっているのですね! わかりました、このエレナ、どこまでもお待ちいたします……!」
 頬をバラ色に染めて嬉しそうにするエレナ。
 ダメだ、どう転んでも退路が断たれている。

「そこまでだ、泥棒猫!」
 背後から、白銀の鎧をカシャカシャ鳴らしながらセレスティア王女が割って入ってきた。
「アッシュ卿のご配偶は、王家の血を引く者こそがふさわしい! 卿の力は国家の至宝、平民上がりの小娘に独占させてなるものか!」
「おや、王女殿下ともあろうお方が、アッシュ様の御心を理解しておられないとは。アッシュ様は身分などというちっぽけな枠組みには囚われない、自由なる神風であらせられますのに」

 またしても始まるナンバーツー(そして正妻)争い。
 俺が天を仰いでいると、レディスが息を切らして走ってきた。

「アッ、アッシュ様! 一大事でございますぞ!」
「また魔法省からのお呼び出しなら断るぞ」
「いえ! 先ほど、王城の上空に……突如として『巨大なる黒い城』が姿を現したのです!」

「……は?」
 俺は窓から飛び出すように外を見た。
 レディスの言葉は真実だった。
 王都の高く澄んだ青空を覆い隠すように、巨大な「逆三角形の浮遊城」が浮かんでいるではないか。

『警告:不正な軌道要塞(旧文明・第六環境制御サテライト)の低高度への降下を検知』
『該当サテライトは、前回の異端教団によるDDoS攻撃に乗じて、偽のコマンドを受信。王都への物理的制圧モード(フォーリン・ダウン)に移行しています』

 視界のUIが、絶望的な文字を淡々と流していく。
 ……教団の連中め!
 あいつら、地下で捕まる直前に、最後の嫌がらせ(ハッキング)として、宇宙(軌道上)に浮かんでいたあの巨大なバグの塊を王都に落とすように設定しやがったんだ!!

「な……なんだあれは……太陽が……」
 窓の外を見上げた生徒たちが、絶望に顔を染めていく。
 浮遊城の底部から、不気味な赤黒い光が地上に向かって照射され始めていた。

「アッシュ様……」
 エレナが、震える手で俺の袖を掴んだ。
「あの巨大な影……尋常な魔力ではありません。私の全力の氷壁をもってしても、あの質量が落ちてくれば王都は……」
 セレスティア王女も、魔剣の柄を握りしめながら奥歯を噛んでいた。
「あれを防ぐ騎士団の『結界陣』を張る暇もない。……終わりなのか、この国は……」

「終わらせない」
 俺は、窓枠に足をかけた。
 地下空間の時とは違う。今度は隠れてコソコソ直せるようなバグじゃない。
 王都の空すべてを覆う、巨大な「エラー(破滅)」。

「俺の静かな公務員ライフと、エレナの美味いクッキーがかかってるんだ」

 俺は二人を振り返り、ニッと笑った。
「あんなバグの塊、俺が『管理者権限』で上空から叩き落としてやるよ」
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