魔力ゼロの落ちこぼれ貴族、神々のエラーメッセージが読めるようになる~「神罰」のシステム権限で学園無双しつつ、本人だけはただのデバッグ作業だと

蒼月よる

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第33話 飛竜馬車で空城突入

 数日後。
 俺たちは王都の空高く、時計塔の尖塔に引っかかっている『第六環境制御サテライト(黒い浮遊城)』の入り口に立っていた。

「すばらしい乗り心地でしたね、アッシュ様!」
 エレナが上機嫌で振り返る。
 俺たちがどうやって空の城まで来たかというと、セレスティア王女が騎士団のコネで引っ張ってきた『王室専用の飛竜(ワイバーン)の馬車』に乗ってきたのである。
 もはや俺一人の行動に、国家予算レベルの金と労力が湯水のように注ぎ込まれていた。

「……あまり下を見ないようにしよう」
 俺は高所恐怖症気味だったので、足元の時計塔の針と、ミニチュアのように小さくなった王都の街並みから目を逸らし、城の入り口(巨大な金属のハッチ)を開けた。

 城内は、外見の禍々しさとは裏腹に、旧文明の冷たい金属と無機質なバックライトに彩られた巨大な「通路」だった。
 どこか前世のデータセンターや工場を思わせる機能美がある。

【System:ローカルネットワーク[Satellite_06]に接続しました】
【System:警告。セキュリティレベル・クリティカル。内部に多数の非認可プロセス(魔獣)が存在します】

 視界の右上に流れるログ。
 俺がそれに目を通していると、前方を歩いていたレディスが「ひっ!?」と声を上げた。

「アッシュ様! 前方に……!!」

 通路の奥から、無数の赤い光の点(センサーアイ)がこちらを見つめていた。
 かつての教団が残した置き土産——いや、このサテライト自体が自己防衛のために生成した『機械と魔物のキメラ』たちだ。
 鉄の装甲を持った蜘蛛型の魔獣が、壁や天井を這いながら数百体という規模で押し寄せてくる。

「一斉に来ます!」
 セレスティア王女が魔剣を抜き放ち、エレナが杖を構える。

「いや、二人とも待ってくれ」
 俺は二人を制止して、前に出た。

 数百の魔獣。
 これまでの俺なら、視界のUIを使って【Target_All】→【Action_Delete】と一括削除のコマンドを叩き込んでいたところだ。
 だが、この城の内部は『旧文明の中枢サーバー』に直結している。
 ここで大規模な『Delete』コマンドを連発すれば、城のシステムそのものに負荷がかかり、俺の『質量書き換え(軽量化)』のバグが解けてしまう恐れがあった。

 質量が戻れば、この城は数千万トンの重さを取り戻し、時計塔ごと王都を押し潰してしまう。
「つまり、デリート(消去)はなるべく使いたくないってこった」

「アッシュ様……? では、どうやってあの群れを?」
 心配そうにエレナが聞く。

「簡単なことだ。敵じゃなくしてしまえばいい」
 俺はコンソール(脳内)を開き、『管理者権限レベル2』にのみ許された機能——【事象の書き換え(Rewrite)】の応用を構築した。

『Target:Spider_Chimera_All (蜘蛛型キメラ群)』
『Action:Rewrite_Attribute (属性情報の書き換え)』
『Value:Change_Faction [Enemy] -> [Ally] (敵対フラグを味方フラグへ変更)』

「……味方になれ」
 俺が【Enter】を押した瞬間。

 ピピッ、と全蜘蛛型魔獣の赤いセンサーアイが一瞬消灯し——直後に、穏やかな『緑色』のマイルドな光へと切り替わった。

「えっ……?」
 王女が剣を下ろす。

 こちらに向かって殺到してきていた数百の蜘蛛魔獣たちは、俺たちの数メートル手前でピタリと停止し、まるで訓練の行き届いた犬のように、前足をカシャカシャと動かしながら「おすわり」の姿勢を取ったのだ。

「キュイ、キュイッ♪」
 さらには、金属の体からは似つかわしくない、愛嬌のある鳴き声まで上げ始めた。
 そして、蜘蛛たちの群れは、モーセの十戒のようにスーーッと左右に分かれ、城の奥へと続く道を丁寧に空けてくれたのである。

「な……魔法を無効化したのではなく……完全に『調教(テイム)』したと!?」
 王女が目を震わせる。

「アッシュ様……!!」
 エレナが両手を組み、その場で祈りを捧げ始めた。
「凶悪な魔獣の大群を、一片の暴力も用いずに恭順させるとは……! 武力ではなく、ただそこに在るだけで森羅万象を平伏させる、真なる王の器!!」

 違う、ゲームの敵対フラグ(0か1か)を書き換えただけなんだが。

「さあ、案内しろお前ら」
 俺が適当に指示を出すと、緑の目をした蜘蛛魔獣たちが「キュイッ!」と返事をし、俺たちの前をパタパタと走り出して(道案内をして)くれた。

「……私の騎士団の兵士より、よほど統制が取れているな」
 王女がちょっとだけ寂しそうに呟く。
 俺たちは、かつての殺戮兵器を愛玩動物(ペット)に従えながら、この城の最奥——『バグの根源』が眠るコア・プラントへと悠々と進んでいくのだった。
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