それは非売品です!~残念イケメン兄弟と不思議な店~

白井銀歌

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season1

24話:お別れ

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 いよいよ、幼いアレクともお別れの時が近づいています。

「淋しいですが、仕方ないですよね……」

 ワタクシはアレクにおなかいっぱいご飯を食べさせ、お風呂で丁寧に身体を洗ってやり、彼が眠ってしまうまで隣で話をしました。
 ワタクシの腕の中ですやすやと眠っている幸せそうな顔を見ると、つい決心が揺らぎそうになります。
 起こさないようにそっと指先で彼の柔らかな黒髪を撫で、寝顔を眺め、そのままろくに眠れないまま朝がきて。

 ――ついに呪いを解くと決めた日になってしまいました。

 アレクをリビングに描いた魔法陣の上に立たせて準備を始めると、彼は不思議そうにこっちを見ていました。

「そこで、じっとしててくださいね」

「ママン?」

「よし、腕輪も設置したし……」

 ――これでいよいよ、お別れです。
 ワタクシは魔法陣の中に立っているアレクに近づき、かがみこんで小さな身体を抱きしめました。

「えへへ、ママンの抱っこだ」

 彼は無邪気に喜んでいます。こうやって抱きしめられた記憶も、一緒に過ごした日々も、きっと元に戻ったらすべて記憶の奥底に沈んで忘れられてしまうのでしょうね……

「ねぇ、アレク」

「ん?」

「ママンのこと、好きですか?」

「あぁ! 俺、ママンが大好きだぞ!」

 彼は満面の笑みで答えます。
 
 ――よかった。

「ママンもアレクのことが大好きですよ」

 それじゃ、さよなら。ワタクシの可愛いアレク。
 
 そっと身体を離し、呪いを解くための呪文を詠唱しました。
 解析は無事成功していたようで、魔法陣から放たれた光は彼の身体を包み込み、その姿を本来あるべき形へと戻していきます。

 光が収まった時には、アレクはよく見知った兄の姿に戻っていました。

「アレク……」

「あ、え……えっと、ジェル」

「すみませんでした、ワタクシのせいで……」

「え? いや、別に何も……」

「とりあえず服、着ましょうか」

「え、あ、あぁ」

 服を着たまま元の姿に戻すわけにいかなかったので、アレクをバスタオルを巻いた状態で魔法陣に立たせていたのです。
 服を着た彼は、うーんと唸りながら背伸びをしています。

「あー、腹減ったな~。飯にしようぜ」

「あっ、はい。すぐ作ります」

 そしてアレクは何の迷いもなく絵本を手にとり、ソファに寝転がりました。

 ――何の迷いもなく?

 今のリビングは、積み木やパン男のぬいぐるみが置かれ、テーブルの上には幼児向けの絵本がたくさん置かれています。
 それに今のワタクシは全身ジャージ姿です。髪もまとめていますし、今の状況はつっこみどころ満載のはずなのです。それを気にも留めないなんて。

「アレク。あなたもしかして……」

「へっ……?」

 ワタクシの表情から何かを悟ったのか、彼は慌てて手に持っていた絵本を放り出して座り直しました。

「いつから元のアレクに戻ってたんですか⁉」

「えーっと……昨日かなぁ……」

 アレクはちょっと視線をそらしながら答えます。これは明らかに嘘をついている顔です。

「――本当は?」

「えー、あー、うん。ごめん……ちょっとずつ記憶が戻っていって1週間くらい前には完全に今の俺になってた。なんていうか、見た目は子ども、頭脳は大人ってやつ?」

「なんで言わないんですか!」

「いやー、なんか言い出せなくてさぁ。それにちっちゃい俺だとジェルちゃんいっぱい優しくしてくれるからさぁ。つい……ね?」

 えへへとアレクは笑いました。

 1週間ということはお風呂に一緒に入ったのも、添い寝をしたのも、パン男ごっこで遊んだのも、全部覚えてるってことですか!

 ワタクシはあまりの恥ずかしさに、叫びながら彼の頭をポカポカと叩きました。

「アレク! 今すぐ全部忘れて! 全部っ!!!!」

「ちょっ、バカ、やめろ!」

「忘れてくれるまでやめません!」

「痛い痛い! やめてママン!」

「ワタクシをママンと呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 リビングにワタクシの絶叫が響き渡り「ジェルをママンと呼ぶの禁止令」が即座に発令されたのでした。
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