それは非売品です!~残念イケメン兄弟と不思議な店~

白井銀歌

文字の大きさ
43 / 163
season1

43話:ジェル、キノコを枯らす

しおりを挟む
 その翌日。
 アレクの枕には昨日と同じ大きさのイケメンダケが1本生えていました。

「おい、ジェル! またキノコが生えたぞ!」

「――えぇ⁉ すぐジンに連絡して買い取ってもらいましょう!」

 ワタクシは大急ぎでジンに連絡してキノコを売りました。
 しかしそれでは終わらず、さらに次の日も同様に1本生えていて再びジンを呼ぶことになったのです。

「キノコ1本だけの為にわざわざ来ていただいてすみませんねぇ……」

「いいのよぉ~! こっちも商売になってるから気にしないで♪」

「もしかしたら、また明日も生えてきそうな気がするんですが……」

 ワタクシの予想にジンはうんうんと頷き、ある提案をしました。

「そうねぇ、そのペースだとたぶん明日以降も毎日生えるんじゃないかしら? ――ねぇねぇ、物は相談なんだけど、そのキノコって量産できないの?」

「量産……ですか?」

「えぇ。今って1本しか生えないでしょ。もしもっと収穫数を多くできるなら買取価格をさらにアップさせてもいいわよ? 仮に10本増えたとして……」

 そう言って、ジンは電卓を取り出して高級車が買えるような数字を提示してきました。

「――こ、これは。イケメンダケを売ったお金で美術品や宝石も買い放題じゃないですか……!」

 提示された数字の桁の大きさにワタクシの心は大きく揺れ動きました。なにせ元手は無料(タダ)です。売った分だけ丸儲け。これはビジネスチャンスに違いありません。

「け、検討してみます……!」

「あらよかった、頼んだわよ~! ――それじゃアタシまた明日来るわね。楽しみにしてるわぁ~!」

 笑顔で手を振るジンを見送った後、ワタクシはアレクの部屋のドアをノックしました。

「アレク、ちょっといいですか?」

「おう、いいぞ。あれ、ジンちゃんもう帰ったのか?」

「えぇ」

「残念だな~、パン男ロボ買ったからジンちゃんにも見せてやろうと思ったのに」

「また明日も来るそうですよ」

「そっか~……えへへ、パン男ロボはやっぱりいいなぁ!」

 アレクは売り上げで買ったロボットの玩具を箱から取り出してご満悦です。
 ワタクシは楽しそうな彼の様子に軽く目を細めると、視線をベッドに移しました。

「やはり何度見てもにわかには信じがたいです……」

 ベッドは薄い羽毛布団と白いシーツに白いカバーのかかった枕があるだけで清潔そのもので、とてもキノコが生えるような環境には見えませんし、そんな痕跡も一切ありません。

「――でもここにイケメンダケは生えるんですよねぇ。目には見えないけどおそらくアレクの枕に胞子がついてるということですよね……ふむ」
 
 少し思案したのち、ワタクシはハサミを持ってきて彼の枕カバーの生地を数センチほど切りとりました。

「――わ、おい! な、なにやってんだよジェル‼」

「見ればわかるでしょう、イケメンダケの胞子をいただいてるんですよ!」

「は? どういうこった?」

「量産するんですよ!」

「へ、量産?」

「イケメンの傍にしか生えないキノコなんでしょう? だったらワタクシの傍にだって生えていいはずです……!」

「おい、ジェル……オマエ、真剣すぎて顔怖いぞ。うわぁ、俺の枕カバーが……」

「あとは適当に縫っておいてください」

「いや、適当にってなぁ……おい、ジェル~!」

 ちょっと呆れ顔のアレクをよそに、ワタクシは胞子が付いたであろう枕カバーの切れ端を持って悠々と自室へと引き上げたのでした。

 その日の就寝前。
 自室でワタクシは枕をじーっと観察しておりました。先ほど切り取った枕カバーの切れ端を自分の枕に縫い付けたのです。

「たしかにアレクの顔は整ってますよ。でもワタクシだってイケメンなんです。だから絶対生えるはず……!」

 すると期待通り、ワタクシの枕の隅に薄茶色のキノコのカサらしき物が小さくこんもりと生えてきました。

「やった……! これで量産して大儲け……‼」

 ワタクシはガッツポーズをしました。
 キノコはものすごい早さでグングン成長しました。カサの部分にはピンクのハートマークがあります。間違いなくイケメンダケです。

 しかし……

 ――ワタクシがその光景を覗き込んだ瞬間、イケメンダケはシュウゥゥゥゥと音をたてて急激に萎れてしまいました。

「失敬な‼ ワタクシがイケメンじゃないとでも⁉ ワタクシの顔のどこに不満が‼」

 思わず文句を言っていると不思議なことにイケメンダケはさらに縮こまり、とうとう跡形もなく消えてしまいました。

「うぅ、かなりショックなんですが……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...