それは非売品です!~残念イケメン兄弟と不思議な店~

白井銀歌

文字の大きさ
75 / 163
season2

75話:SAN値直葬ドリンクと幽霊船

しおりを挟む
 その日ワタクシは、兄のアレクサンドルと一緒にオランダのアムステルダムに来ていました。
 目の前には美しい運河が流れていて、水上を小型の観光船が行き交い、綺麗に整備された石畳には自転車が並んでいます。

 今すれ違った若い女性は観光客なのでしょうか。地図を片手に笑顔でおしゃれなカフェに入って行きました。
 窓越しにカフェの中をちらりと覗くと、ショーケースにフルーツやクリームがたっぷり乗った美味しそうなケーキがずらりと並んでいます。

「あ、いいなぁ……。でも、また後にしますかね」

 ケーキは非常に魅力的でしたが、ワタクシが左手に持っている皮製のレトロなトランクがズシッと重さを主張していましたので、カフェで休憩するのはこの中身を片付けてからにしようと思いました。

 トランクの中に入っているのは30本の小さな栄養ドリンク。
 錬金術の研究の副産物でたまたまビタミンDをメインにした栄養剤ができてしまったので、それをドリンク化した物を商品として売り込もうと思ったのです。

 商談はアレクに任せてワタクシは家でのんびり読書をする予定だったのですが「開発者が立ち会った方がビジネスがスムーズ」だと彼が言うので、一緒にオランダへ行くことになったのでした。

「なぁ、ジェル。今更だけどなんでオランダなんだ? 栄養ドリンクならアメリカの方がいいんじゃねぇの?」

「いえ、今回の主要成分はビタミンDですからね。オランダは日照時間が少ないので、ビタミンDの欠乏症になりやすいから需要があると思うんですよ」

 ワタクシは胸を張って答えました。
 それにここ、アムステルダムは商業も盛んなヨーロッパ屈指の世界都市です。きっと上手くいくに違いありません。

 ――そう思っていたのですが。
 残念ながら商談は大失敗して、散々な結果となりました。

「まさかドリンクがあんなにクソ不味(まず)いとはなぁ……」

 そう、理想的な栄養バランスをとことん極めたまではよかったんですが、味のことはまったく考慮していなかったのです。
 アレクと営業先の人にドリンクを試飲してもらうと、急に彼らが苦しみ始めて水を求めて床にのた打ち回り始めたので相当不味かったのでしょう。

「成分的に美味しさは期待してませんでしたが、まさかそんな酷い味だったとは知りませんでした。まぁ良薬口に苦し、という言葉もあるくらいなんで不味くても別にいいかなと思ったんですがねぇ」

「いいわけあるかバカヤロー! お兄ちゃん舌もげるかと思ったわ‼ おかげでテロと疑われて警察呼ばれそうになったじゃねぇか。うぇぇぇぇ……」

 アレクは味を思い出したのか、顔をしかめながらトランクから水の入ったペットボトルを取り出してゴクゴクと飲んでいます。

「とりあえず用も済んだし、さっさと転送魔術で家に帰りましょう」

「えー、このまま帰るのかよ。それはもったいねぇだろ。せっかくジェルもここまで来たんだし観光して帰ろうぜ。カフェでケーキ食って運河をのんびりクルーズして、美術館巡りはどうだ? フェルメールやレンブラントの有名な作品もあるし、ピカソだってあるぞ! お土産はでっかいチーズを買ってさぁ……」

「すみませんが、あまりそういう気分では……」

 アレクの提案はありがたいのですが、商談が失敗して気分も落ち込んでましたし、あちこち観光して回ろうという気分では無かったのです。

 ワタクシがため息をついたのを見て、彼は慰めるように肩をぽんぽんと叩いてきました。

「おいおい、そんなしょんぼりするなって。じゃあお兄ちゃんがお金出すからさぁ、せめて船に乗ってゆっくり帰らねぇか? でっかい豪華な船で!」

「でっかい豪華な船……?」

「あぁ、そうだ。ジャグジー付きのプールとかカジノもあったりしてさ、オーシャンビューのオシャレなレストランで高級ディナーと極上スイーツってのはどうだ?」

「……まぁ、たまにはそういうのもいいかもですね」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。 魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。 人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。 そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。 物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。

処理中です...