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season2
80話:ノッカー
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ワタクシはきょとんとしている彼に背を向け、急いで書庫から鉱山関係の本を持ってきて調べました。
「うーん……時間はかかりますが黒字にできそうですねぇ。ねぇ、アレク。あなたのツテを辿って、いくらまでなら借金できますか?」
「そうだなぁ……3億ぐらいまでなら何とか」と答えました。
「とりあえず1億借りてさっさと税金を払ってしまいましょうか」
「わかった、なんとかする」
後はどうやって大金を稼ぐかですが……。
翌日、ワタクシとアレクは転送魔術でイングランドのコーンウォールのとある鉱山に来ていました。
「外は寒いですが、坑道の中は意外と暖かいですね。これなら問題なさそうです」
「しかし急に錫鉱山を買えだなんてどういうことだ。政府の人が錫はもう採れないから買ってもしょうがないって言ってたぞ」
「えぇ。そこでノッカーの力を借りるんです」
「ノッカー?」
「ノッカーはこの地方に住んでいる妖精の一種で、昔はノッカーが鉱夫達に良質の鉱脈を知らせていたのです。しかし文明の発達と共に、その信仰は徐々に失われて姿を消してしまったのですよ」
「それで……ジェルはその妖精に何をするつもりなんだ?」
事情が飲み込めないでいるアレクに、ワタクシはさらに説明を追加しました。
「今からノッカーを召喚して、鉱脈を教えてもらおうと思うんです。人間が知らないだけできっとまだ良い鉱脈があるはずですから」
「じゃあこの美味そうな飯はなんだ? パーティでもするのか?」
目の前にはワタクシが制作した魔法陣があり、その隣にはまるでピクニックのようにビニールシートが敷かれていて、アウトドア用のテーブルの上にたくさんの料理が入った大きなバスケットとピッチャーに入ったミルクが置かれています。
「えぇ、そういうことですね」
鉱脈を教えてもらうには、まずノッカーをもてなして友好的な関係を築かないといけません。
ご馳走やミルクはその為の準備なのでした。
「なるほどなぁ……」
「友好的な関係を築けるようにアレクも協力してくださいね。よろしくお願いしますよ」
「よし、お兄ちゃんに任せろ!」
アレクは大きく胸を張りました。
文献で調べて出来る限りの準備はしましたし、後はノッカーを召喚するだけです。
ワタクシは呪文を唱え、魔力を魔法陣へ注ぎ込みました。
「――善意の土の民。親切な優しき妖精よ。どうか今ここに再び姿を現したまえ……!」
輝く魔法陣から現れたのは背丈が50cm程度の小さな男性でした。鉱夫の服装をして小さなつるはしと布袋を持っています。
「なんだ。オマエら、ここに何しにきた!」
ノッカーはつるはしを振りかざし威嚇(いかく)してきました。しかしここで応戦してはいけません。
ワタクシは彼の目の前に跪きました。
「急にお呼び出ししたご無礼、どうかお許しくださいませ。ワタクシはジェルマン。しがない錬金術師でございます」
そう名乗ってじっとノッカーを見つめると、彼は頬を赤らめ構えを解いてつるはしを下ろしました。
「ふん、近頃にしては珍しく礼儀のわかる娘じゃないか。まぁ、話くらいは聞いてやらなくもない」
娘、と言われたのは引っかかりましたが、話の腰を折るのもなんでしたしワタクシが女性に間違われるのはよくあることなので、訂正せずにそのまま返しました。
「ありがとうございます。こちらは兄のアレクサンドル。ワタクシ達は伝説の鉱山の妖精であるあなた様にどうしてもお会いしたく参上したのです」
アレクも慌てて同じように跪いてノッカーに挨拶しました。
「えーっと、なんだっけ、あの。そうだ、俺。ノッカーさんのファンなんだ。だからどうしても会いたくて」
ファンと聞いて怪訝な顔をするノッカーに、ワタクシ達は食事とミルクを勧めました。
「お、これはフムス(豆のペースト)じゃないか! そっちはナスのフライ、そのケバブも美味そうだな」
「えぇ、上質のラム肉を使いました。ピタパンと一緒にどうぞ。よろしければ温かいスープもございますよ」
「おうおう、ありがとう。これは美味いなぁ」
反応はなかなかいい感じです。とある文献にノッカーの素性についてユダヤ人の亡霊であるという説があったのでイスラエル料理なら喜ぶのではと思ったのですが、どうやら上手くいったようです。
「うーん……時間はかかりますが黒字にできそうですねぇ。ねぇ、アレク。あなたのツテを辿って、いくらまでなら借金できますか?」
「そうだなぁ……3億ぐらいまでなら何とか」と答えました。
「とりあえず1億借りてさっさと税金を払ってしまいましょうか」
「わかった、なんとかする」
後はどうやって大金を稼ぐかですが……。
翌日、ワタクシとアレクは転送魔術でイングランドのコーンウォールのとある鉱山に来ていました。
「外は寒いですが、坑道の中は意外と暖かいですね。これなら問題なさそうです」
「しかし急に錫鉱山を買えだなんてどういうことだ。政府の人が錫はもう採れないから買ってもしょうがないって言ってたぞ」
「えぇ。そこでノッカーの力を借りるんです」
「ノッカー?」
「ノッカーはこの地方に住んでいる妖精の一種で、昔はノッカーが鉱夫達に良質の鉱脈を知らせていたのです。しかし文明の発達と共に、その信仰は徐々に失われて姿を消してしまったのですよ」
「それで……ジェルはその妖精に何をするつもりなんだ?」
事情が飲み込めないでいるアレクに、ワタクシはさらに説明を追加しました。
「今からノッカーを召喚して、鉱脈を教えてもらおうと思うんです。人間が知らないだけできっとまだ良い鉱脈があるはずですから」
「じゃあこの美味そうな飯はなんだ? パーティでもするのか?」
目の前にはワタクシが制作した魔法陣があり、その隣にはまるでピクニックのようにビニールシートが敷かれていて、アウトドア用のテーブルの上にたくさんの料理が入った大きなバスケットとピッチャーに入ったミルクが置かれています。
「えぇ、そういうことですね」
鉱脈を教えてもらうには、まずノッカーをもてなして友好的な関係を築かないといけません。
ご馳走やミルクはその為の準備なのでした。
「なるほどなぁ……」
「友好的な関係を築けるようにアレクも協力してくださいね。よろしくお願いしますよ」
「よし、お兄ちゃんに任せろ!」
アレクは大きく胸を張りました。
文献で調べて出来る限りの準備はしましたし、後はノッカーを召喚するだけです。
ワタクシは呪文を唱え、魔力を魔法陣へ注ぎ込みました。
「――善意の土の民。親切な優しき妖精よ。どうか今ここに再び姿を現したまえ……!」
輝く魔法陣から現れたのは背丈が50cm程度の小さな男性でした。鉱夫の服装をして小さなつるはしと布袋を持っています。
「なんだ。オマエら、ここに何しにきた!」
ノッカーはつるはしを振りかざし威嚇(いかく)してきました。しかしここで応戦してはいけません。
ワタクシは彼の目の前に跪きました。
「急にお呼び出ししたご無礼、どうかお許しくださいませ。ワタクシはジェルマン。しがない錬金術師でございます」
そう名乗ってじっとノッカーを見つめると、彼は頬を赤らめ構えを解いてつるはしを下ろしました。
「ふん、近頃にしては珍しく礼儀のわかる娘じゃないか。まぁ、話くらいは聞いてやらなくもない」
娘、と言われたのは引っかかりましたが、話の腰を折るのもなんでしたしワタクシが女性に間違われるのはよくあることなので、訂正せずにそのまま返しました。
「ありがとうございます。こちらは兄のアレクサンドル。ワタクシ達は伝説の鉱山の妖精であるあなた様にどうしてもお会いしたく参上したのです」
アレクも慌てて同じように跪いてノッカーに挨拶しました。
「えーっと、なんだっけ、あの。そうだ、俺。ノッカーさんのファンなんだ。だからどうしても会いたくて」
ファンと聞いて怪訝な顔をするノッカーに、ワタクシ達は食事とミルクを勧めました。
「お、これはフムス(豆のペースト)じゃないか! そっちはナスのフライ、そのケバブも美味そうだな」
「えぇ、上質のラム肉を使いました。ピタパンと一緒にどうぞ。よろしければ温かいスープもございますよ」
「おうおう、ありがとう。これは美味いなぁ」
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