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魔王と聖女
4話:魔王ガルトマーシュとの出会い
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だが、その思いは長くは続かなかった。
城に居たときよりは軽装とはいえ、今の私は裾の長いドレスで荷物を持った状態だ。走るのにはまったく適していない。
しかも、あっという間に日が落ちて辺りが真っ暗になってしまった。
夜の森は想像以上に何も見えず、恐ろしい。
唯一の抜け出す手がかりであった車輪の跡も今はまったくわからない。
月明かりを頼りに出口を探そうにも、自分がどこを歩いているのかもよくわからないので難しそうだ。
遠くで狼の遠吠えのような声が聴こえるし、風でガサガサと木々が揺れるたびに心細さが増していく。
私は為すすべもなく、その場に立ち尽くした。
ついさっきまで絶対抜け出してやると意気込んでいたはずなのに、今はもう、ここから二度と出られないのではないかという恐怖で頭がいっぱいだ。
「助けて…………」
気が付けば、自然と言葉が口から漏れていた。
しばらく立ち止まっている間に、いつの間にか視界がぼやけて見えることに気付いた。
雨が降る前のような湿った匂いがして、ひんやりとした空気が体にまとわり付いてくる。
どうやら霧がでてきたらしい。
その時、霧の向こうにかすかに灯りが見えた。
少し距離があるのかぼんやりとした感じだが、間違いなく何かが光っている。
「誰か居るかもしれない……!」
もしかしたら馬車が戻って来てくれたのかも、そんな淡い期待をしながら私は夢中で光に向かって早足で進んだ。
光が近づくにつれ、だんだん周囲の霧が晴れていく。
すると不思議なことに、そこは森の中では無かった。急にふわっと薔薇の花の甘い香りに包まれる。
「えっ、どういうこと? なんでこんな森の中に……」
目の前に広がるのは立派なお城と、灯りで照らされた無数の薔薇の咲く美しい庭園だったのだ。
あまりにも予想外の光景に言葉を失っていると、庭園の中央に男が背を向けて立っていることに気付いた。
男はすらりと背が高く、足元まである長いマントを羽織っている。
近づいて助けを求めようとして、私は思わず息をのんだ。
彼の頭には左右に山羊のような角があった。
――人間では無い。
緊張でごくりと喉が鳴る。
まるでその音が聞こえたかのようなタイミングで、男がこちらを振り返った。
「誰だ?」
「えっ……」
角があるからどんな恐ろしい顔をしているのかと思ったのに、彼はとても端整な顔をしていた。
凛々しさと甘さが絶妙に混ざり合った、単に綺麗なだけではない魅力的な顔だ。
王宮にもこれほどの美形は居なかったと思う。
こんな状況でなければ、神秘的なその姿にきっと見惚れていただろう。
「あ、あの私は、ノイシュタール家の――」
名乗り終える前に、彼が近づいて来て言葉を遮った。
「その指輪は……聖女め、また俺を封印しに来たのか!」
彼は私の右手を凝視している。
「え、聖女って、どういうこと? 私はノイシュタール家の――」
「黙れ! その指輪は吸引力の変わらないただひとつの指輪、ダ・イソンではないか! 指輪で俺を封印するつもりであろう⁉」
いや、私は聖女なんかじゃないし、これはただの母の形見の指輪だし、完全に誤解だ。
慌てて両手を振って、必死で違うと訴えようとした。
――しかし、指輪がそれに反応するかのように光を放ち始める。今までそんなこと無かったのにどうして。
「おい、待て。貴様、指輪を止めろ! ……いや、ちょっと待ってくれ! 待てって!」
さっきまで強気に出ていた男は、急に情けない声色になった。
指輪はさらに激しく輝いて、逃げようとする彼のマントの裾が指輪から放たれた光に吸い込まれて消えている。
「くそっ、おい! これ止めてくれよ! 頼む! やめろってば! おい、聖女! 話を、俺の話を聞け!」
「そんなこと言われても――」
いったいどうすれば止まるんだろうか。まったくわからない。
彼は必死に踏ん張って、マントが引っ張られるのに耐えているがこのままだと、彼も吸い込まれてしまうのだろうか。
どうすることもできなくて、私は心の中で止まれ、止まれと念じるしかなかった。
「もうあんなところに封印されるのは嫌だ! 何でもするから助けてくれ~~~~!!!!」
男が絶叫した。
それと同時に、指輪から光が消えた。
そして急に引っ張られる感覚が途切れたせいか、彼は盛大にこけて前方に倒れこんだのだった。
城に居たときよりは軽装とはいえ、今の私は裾の長いドレスで荷物を持った状態だ。走るのにはまったく適していない。
しかも、あっという間に日が落ちて辺りが真っ暗になってしまった。
夜の森は想像以上に何も見えず、恐ろしい。
唯一の抜け出す手がかりであった車輪の跡も今はまったくわからない。
月明かりを頼りに出口を探そうにも、自分がどこを歩いているのかもよくわからないので難しそうだ。
遠くで狼の遠吠えのような声が聴こえるし、風でガサガサと木々が揺れるたびに心細さが増していく。
私は為すすべもなく、その場に立ち尽くした。
ついさっきまで絶対抜け出してやると意気込んでいたはずなのに、今はもう、ここから二度と出られないのではないかという恐怖で頭がいっぱいだ。
「助けて…………」
気が付けば、自然と言葉が口から漏れていた。
しばらく立ち止まっている間に、いつの間にか視界がぼやけて見えることに気付いた。
雨が降る前のような湿った匂いがして、ひんやりとした空気が体にまとわり付いてくる。
どうやら霧がでてきたらしい。
その時、霧の向こうにかすかに灯りが見えた。
少し距離があるのかぼんやりとした感じだが、間違いなく何かが光っている。
「誰か居るかもしれない……!」
もしかしたら馬車が戻って来てくれたのかも、そんな淡い期待をしながら私は夢中で光に向かって早足で進んだ。
光が近づくにつれ、だんだん周囲の霧が晴れていく。
すると不思議なことに、そこは森の中では無かった。急にふわっと薔薇の花の甘い香りに包まれる。
「えっ、どういうこと? なんでこんな森の中に……」
目の前に広がるのは立派なお城と、灯りで照らされた無数の薔薇の咲く美しい庭園だったのだ。
あまりにも予想外の光景に言葉を失っていると、庭園の中央に男が背を向けて立っていることに気付いた。
男はすらりと背が高く、足元まである長いマントを羽織っている。
近づいて助けを求めようとして、私は思わず息をのんだ。
彼の頭には左右に山羊のような角があった。
――人間では無い。
緊張でごくりと喉が鳴る。
まるでその音が聞こえたかのようなタイミングで、男がこちらを振り返った。
「誰だ?」
「えっ……」
角があるからどんな恐ろしい顔をしているのかと思ったのに、彼はとても端整な顔をしていた。
凛々しさと甘さが絶妙に混ざり合った、単に綺麗なだけではない魅力的な顔だ。
王宮にもこれほどの美形は居なかったと思う。
こんな状況でなければ、神秘的なその姿にきっと見惚れていただろう。
「あ、あの私は、ノイシュタール家の――」
名乗り終える前に、彼が近づいて来て言葉を遮った。
「その指輪は……聖女め、また俺を封印しに来たのか!」
彼は私の右手を凝視している。
「え、聖女って、どういうこと? 私はノイシュタール家の――」
「黙れ! その指輪は吸引力の変わらないただひとつの指輪、ダ・イソンではないか! 指輪で俺を封印するつもりであろう⁉」
いや、私は聖女なんかじゃないし、これはただの母の形見の指輪だし、完全に誤解だ。
慌てて両手を振って、必死で違うと訴えようとした。
――しかし、指輪がそれに反応するかのように光を放ち始める。今までそんなこと無かったのにどうして。
「おい、待て。貴様、指輪を止めろ! ……いや、ちょっと待ってくれ! 待てって!」
さっきまで強気に出ていた男は、急に情けない声色になった。
指輪はさらに激しく輝いて、逃げようとする彼のマントの裾が指輪から放たれた光に吸い込まれて消えている。
「くそっ、おい! これ止めてくれよ! 頼む! やめろってば! おい、聖女! 話を、俺の話を聞け!」
「そんなこと言われても――」
いったいどうすれば止まるんだろうか。まったくわからない。
彼は必死に踏ん張って、マントが引っ張られるのに耐えているがこのままだと、彼も吸い込まれてしまうのだろうか。
どうすることもできなくて、私は心の中で止まれ、止まれと念じるしかなかった。
「もうあんなところに封印されるのは嫌だ! 何でもするから助けてくれ~~~~!!!!」
男が絶叫した。
それと同時に、指輪から光が消えた。
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