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7章:王子の依頼
20.ポチ探し
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悪夢のような授業参観から一ヵ月後。
師匠の家を急に訪ねてきたホワイティ王子の依頼から、その事件は始まった。
「いやぁ。ペットのポチがうっかり森に逃げてしまって困ってるんだ。それで捜索を依頼したい。親友の頼みなんだから、もちろんジュリィは助けてくれるよね?」
「……ジュリアスだ。いいかげん子どもの頃のあだ名で呼ぶのはやめろ。それに、俺に依頼ならギルドを通してくれ」
自家製のハーブティーを注ぎながら、師匠は不機嫌な顔で王子を睨む。
「それは困るなぁ。ポチはポルタ王国から譲り受けた珍しい生物なんだよ。逃がしたなんてギルドにばれたら国際問題だ、なぁジュリィ?」
「てめぇ、そんなこと言って爺さんに怒られるのが嫌なだけだろうが!」
「いやぁ、爺やにはもう怒られ済みだよ」
師匠が怒鳴っても、相変わらず王子は涼しい顔をしている。
「それにさぁ、このままだと森の生態系に影響がでてしまう。それはよくないだろ?」
王子がペットを譲り受けたポルタ王国は、私の出身国だ。
そんな遠いところからやってきた生き物を、この国の森の生き物と共存させるのには確かにいろいろと問題があるのかもしれない。
「師匠、手伝ってあげませんか? きっとポチちゃんも知らない森に放り出されて困ってると思うんです」
「うーん……」
師匠は親切だから、困っているのを見過ごすことはできないはず。
なぜかホワイティ王子には厳しいけど。
「ありがとう! やっぱりメイちゃんは優しいね。……そうだ、この依頼を達成してくれたら『珍しい標本』をプレゼントするよ」
「本当にくれるんだろうな?」
“珍しい標本”という響きに、私より先に師匠が反応した。
師匠は趣味でいろんな植物や生き物の標本を集めているから、興味があるんだろう。
「あぁ、もちろんさ」
王子が上機嫌で答えると師匠は頷いた。
「わかった。じゃあさっさと森に探しに行こうぜ」
「はい、師匠!」
こうして私達は、街外れの森へと出かけることになった。
目的の場所は、以前にホワイティ王子と初めて出会った森だ。
青々とした木々が茂り、小鳥のさえずりが聞こえる。
良い感じに木漏れ日が差し込んでいて、何もなければ散歩でもしたくなるような、素敵な光景だった。
「ホワイティ様!」
木の影から執事の格好をしたお爺さんが手に持っている細身の剣で草をなぎ払いながらやってきた。
「爺や! ポチは見つかったかい?」
「いえ。まったくどこへ行ったのやら……おお、ジュリアス様も来てくださったのですか。これは頼もしい」
「よう、爺さん。相変わらずこいつには苦労させられてるみたいだな」
師匠の軽口にお爺さんは、長く伸びたヒゲを撫でながら苦笑した。
「ははは、ホワイティ様は幼い頃からずっと自由でいらっしゃいますからねぇ。領主の自覚が足りなくて困っておりますよ」
「まぁそんだけこの国が平和だってことだ」
「左様でございますね。――ところでこちらのお嬢様は?」
お爺さんは穏やかな表情で私を見た。
「俺の弟子のメイだ。……メイ、こちらはホワイティの補佐をしているアガレス・ケリー将軍だ」
執事の服を着ているし、爺やなんて呼ばれてるからお世話係みたいな人なのかなと思ったら、偉い人なんだ。
「アガレス将軍。はじめまして、メイ・マリネールと申します」
「これはこれは。将軍と申しましても、この平和な世の中ではただの飾りでございますよ。どうぞ爺やと気軽に呼んでくださいませ」
爺やさんはニッコリ微笑んだ。ロマンスグレーの髪と上品に整えられたヒゲがとても素敵だ。
私達が来るまでの間、爺やさんは先に森でポチちゃんを探していたらしい。
「じゃあ、俺達も探してみるか」
こうして、私達も一緒に森の中を捜索し始めることになった。
師匠の家を急に訪ねてきたホワイティ王子の依頼から、その事件は始まった。
「いやぁ。ペットのポチがうっかり森に逃げてしまって困ってるんだ。それで捜索を依頼したい。親友の頼みなんだから、もちろんジュリィは助けてくれるよね?」
「……ジュリアスだ。いいかげん子どもの頃のあだ名で呼ぶのはやめろ。それに、俺に依頼ならギルドを通してくれ」
自家製のハーブティーを注ぎながら、師匠は不機嫌な顔で王子を睨む。
「それは困るなぁ。ポチはポルタ王国から譲り受けた珍しい生物なんだよ。逃がしたなんてギルドにばれたら国際問題だ、なぁジュリィ?」
「てめぇ、そんなこと言って爺さんに怒られるのが嫌なだけだろうが!」
「いやぁ、爺やにはもう怒られ済みだよ」
師匠が怒鳴っても、相変わらず王子は涼しい顔をしている。
「それにさぁ、このままだと森の生態系に影響がでてしまう。それはよくないだろ?」
王子がペットを譲り受けたポルタ王国は、私の出身国だ。
そんな遠いところからやってきた生き物を、この国の森の生き物と共存させるのには確かにいろいろと問題があるのかもしれない。
「師匠、手伝ってあげませんか? きっとポチちゃんも知らない森に放り出されて困ってると思うんです」
「うーん……」
師匠は親切だから、困っているのを見過ごすことはできないはず。
なぜかホワイティ王子には厳しいけど。
「ありがとう! やっぱりメイちゃんは優しいね。……そうだ、この依頼を達成してくれたら『珍しい標本』をプレゼントするよ」
「本当にくれるんだろうな?」
“珍しい標本”という響きに、私より先に師匠が反応した。
師匠は趣味でいろんな植物や生き物の標本を集めているから、興味があるんだろう。
「あぁ、もちろんさ」
王子が上機嫌で答えると師匠は頷いた。
「わかった。じゃあさっさと森に探しに行こうぜ」
「はい、師匠!」
こうして私達は、街外れの森へと出かけることになった。
目的の場所は、以前にホワイティ王子と初めて出会った森だ。
青々とした木々が茂り、小鳥のさえずりが聞こえる。
良い感じに木漏れ日が差し込んでいて、何もなければ散歩でもしたくなるような、素敵な光景だった。
「ホワイティ様!」
木の影から執事の格好をしたお爺さんが手に持っている細身の剣で草をなぎ払いながらやってきた。
「爺や! ポチは見つかったかい?」
「いえ。まったくどこへ行ったのやら……おお、ジュリアス様も来てくださったのですか。これは頼もしい」
「よう、爺さん。相変わらずこいつには苦労させられてるみたいだな」
師匠の軽口にお爺さんは、長く伸びたヒゲを撫でながら苦笑した。
「ははは、ホワイティ様は幼い頃からずっと自由でいらっしゃいますからねぇ。領主の自覚が足りなくて困っておりますよ」
「まぁそんだけこの国が平和だってことだ」
「左様でございますね。――ところでこちらのお嬢様は?」
お爺さんは穏やかな表情で私を見た。
「俺の弟子のメイだ。……メイ、こちらはホワイティの補佐をしているアガレス・ケリー将軍だ」
執事の服を着ているし、爺やなんて呼ばれてるからお世話係みたいな人なのかなと思ったら、偉い人なんだ。
「アガレス将軍。はじめまして、メイ・マリネールと申します」
「これはこれは。将軍と申しましても、この平和な世の中ではただの飾りでございますよ。どうぞ爺やと気軽に呼んでくださいませ」
爺やさんはニッコリ微笑んだ。ロマンスグレーの髪と上品に整えられたヒゲがとても素敵だ。
私達が来るまでの間、爺やさんは先に森でポチちゃんを探していたらしい。
「じゃあ、俺達も探してみるか」
こうして、私達も一緒に森の中を捜索し始めることになった。
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