記憶球

らい。

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ゆっくりと門を開け中に入り、ドアの前に立ち縦型のドアノブを引いてみるが、開かない。
鍵穴を探すが、どこにも見当たらない。
自分の思い過ごしだったのか、考えにくいことではあるが、偶然表札に何も書いていない家だったのか。果たしてそれは表札と言えるのか。
そんな馬鹿げたことを思っていたその時、自分で自分の感の良さに驚いた。
「もしかして…」
おもむろにランドセルを漁り、あるものを探す。
「あった」
 見つけたのは、灰色のカード。
そう、カードキータイプの家だった。
それを縦型のドアノブの上部分にかざすと、案の定ガチャっと音を立てて鍵が空いた。
「ただいま…」
何となくそんな言葉を発してみる。
しかし、返事は無い。
鍵も閉まってて、駐車場らしき場所に車もなかったため、きっと両親はまだ働きに出ているのだろう。
靴を脱ぎ室内へと入る。
「質素な家だな…」
それが最初に思ったことだった。
入ってすぐ左手に2階へと続く階段、右手にあるリビングに続くドアを開け、明かりをつけるとそこにはテレビに椅子や机、先に見えるキッチンには食器棚や冷蔵庫が並んでおり、特徴、と言ったらおかしな表現になるかもしれないが、どことなくその家は生活感が無いように感じてしまった。
2階に上がると、3つの扉があり、左の2つは窓とベッドに小さなタンスがあるだけだった。
右の部屋、入るとそこは目の前に小さな窓、学習机に椅子、ベッドにタンスと本棚には漫画がたくさんあった。
「寒い…」
図らずもそんな言葉が口から漏れ、気づけば窓の外にはまた空一面の雪模様が広がっていた。
2階の部屋は全てエアコンがついておらず、1階のリビングにのみ、エアコンはついていた。
だが、リモコンが壁に付いており、背伸びしても届かず、土台となるようなものも見当たらなかった。
その間にも、部屋はどんどん温もりを失っていき、いてもたってもいられなかったので、自分でもドン引きする程の厚着をして、自分の部屋のベッドへと潜り込んだ。

「おい…○○…起きろ…」
微かに自分のことを呼ぶ声が聞こえてきた。
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
ゆっくりと重い瞼を明け、明かりに慣れていないぼんやりとした視界でベッドの横で屈む目の前の人物に焦点を合わせる。
「お父…さん…?」
自然とそう口を開いていた。
縁のない眼鏡をかけたその人は、30代半ばくらいの見た目をしており、青のスーツがとてもよく似合っていた。
「お母さんは、まだ帰ってきていないのか?」
心配した口調でお父さんは尋ねてくる。
「うん…」
「そっか」
俯いてそう答えると、お父さんはどこか呆れたような表情を見せた。
それに気がつけば部屋の時計の針は10時を過ぎていた。
お腹すいたな。
「お腹すいただろ」
エスパーかよ。
ちょっと待ってな、とお父さんは続けて言うと、どこかへ行ってしまった。
そのまま10分ほど待っていると、
「○○、降りてこーい」
ふと下からそんな声が聞こえ、言われた通りリビングへ行くと、そこにはコンビニ袋を持ったお父さんの姿があった。
「○○、食べよう」
椅子に座った自分にそう呼びかけると、お父さんは袋の中から焼肉弁当とおにぎりやウインナーなどが入った子供向けの弁当を出す。
「どっち食べたい?」
「え…?」
それ聞く?と思ったが、迷った挙句、自分は焼肉弁当に手を伸ばしたが、
「どういう顔してんのさ」
お父さんのまるで宝物が奪われるかのような顔を見て、口から突っ込みが漏れてしまった。
「本当に、そっちを食べるのか?」
だからなんで焦ってんだよ。
「うそうそ、こっち」
そう言って自分はもうひとつの弁当に手を伸ばした。
「だよな、そうだとおもった」
じゃあ最初から聞いてくるな。
変わった人だな、と思いつつ弁当を平らげ、お風呂に入り再びベッドへと潜り込んだ。

「眠れない…」
ベッドの上でそんなことを呟く。
当然の事だった。
漫画でも読もうかと思い始めたその時、ガチャっと音を立てて家のドアが開いた。
「誰だろう…」
お母さんかな、と淡い期待を抱きつつ、どうせ眠れないので、いっそのこと脅かしてやろうとバレないようにひっそりと下に降り始めた。
「何時だと思っている?」
1階までもう半分というところで、僅かではあるが自分と会話した時とは考え難い程の低いお父さんの声が聞こえてきた。
それに、ここから見えるドアからは明かりが少し漏れており、日付はとっくに変わっていた。
「なにをしていた?」
「どこ行ってた?」
何も返答は無い。
「答えろよ!!!!」
バンっと机を叩く音とともに、お父さんの怒号が鳴り響く。
「あんたには関係ないでしょ」
他人事だと言わんばかりに、お母さんはそう突き放す。
「今日、雪降っていたよな」
「それがどうかしたの」
「凍える部屋の中、暖房がつけれない○○は、どうしていたと思う?」
「……」
「俺、今日残業で遅くなるって言ったよな?」
「……」
「晩飯、コンビニ弁当だったんだぞ」
「……」
「これで何回目だ?」
「……」
やっぱり返答は無い。
「何も、思わないのか?」
お父さんの声は、震えていた。
「なにがよ」
「冷たい部屋の中、腹を空かせた一人娘を放っておいて、何も思わないのかって聞いているんだ」
「ええ、だって、」
お母さんの返事に自然と自分の心拍数も上がっており、気づけば階段に座り込んでいた。

「そんなこと、あたしにとってどうでもいいことだから」

言葉が詰まることなくそう言えるのは、本心を話しているからだ。
終始呆れたような口調のお母さんに、多分自分もお父さんも思っていることは同じだったと思う。
「もういい、お前は、この家から出ていけ」
「言われなくてもそのつもりよ」
「金輪際、この家には帰ってくるな」
はいはい、分かりましたと、お母さんは続けてそう言うと、荷物をまとめているのだろうか、ガサゴソと物音が聞こえた。
「上の荷物も、全部持っていけよ」
まずい、上がってくる。
自分は物音を立てないよう、焦る気持ちを抑え、急いでベッドに戻った。
そして異様に足音を大きくしたお母さんが上がってきたが、体感にして5分ほどで再び下へ降りていった。
自分は精一杯部屋のドアに耳を近づけ、聞き耳を立てていると、

「二度と、あの娘の前に姿を現すな」

その言葉とともに、家のドアが開き、お母さんはこの家から出ていってしまった。

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