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再び
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「咲太!!」
燃え盛る炎の中、聞こえてきたのはこれまで何度も聞いてきた、耳に染み付いた声であった。
「こっちだ!!」
急げ、とAは自分の右手を引っ張って外に連れ出した。
次々と焼け落ちていく階段を何とか降りきり、自分達はアスファルトの上に叩きつけられた。
気づけば周りには消防車や救急車、警察車両も少し見られた。
それよりも、だ。
「どうして…」
「いや、なんか帰る途中嫌な予感がしてな、ちょっと寄ってみるかなんて思ったら、お前ん家からめっちゃ火出てるし、来てよかったわ」
そんな偶然あるのかと思ったが、今は感謝の気持ちでいっぱいだった。
「ありがとう」
そう伝えるとAは微笑んで、
「まさに俺はお前の命の恩人てやつだな」
否定できないんだよなぁ。
その時だった。
「痛い…」
それは決して火事の際起こった怪我では無い。
痛みの正体は頭痛と耳鳴りだった。
「どうした、咲太」
そうは言われても答えることが出来ない。
徐々に視界がぐらつき、Aの顔も歪んで見える。
だんだん気分も悪くなってきたとき、視界が真っ黒に染まった。
自分は再び暗闇の中、球を置く動作を繰り返していた。
そして次に目を開けた時、自分の視界に写ったものは、
「またかよ」
やはり学校だった。
しかも多分ここは、高校。
明らか周りの人達が成長しており順番的にもある程度予想できた。
それにこの教室には冷房が効いていないのだろうか、すごく蒸し暑い。
それもそのはず、周りの人達が全員半袖の中、自分は長いシャツに膝下まである長いスカート、加えて黒いタイツまで履いていた。
到底夏とは思えない格好である。
「××、一緒に帰ろう」
そう座っている自分に声をかけたのは、背の高い男の子。
今回自分の名前は分からないことなんて、もうどうでもいい。
そんなことより重要なのは自分はこの人の名前を知っていることだ。
その名前とは、
溝口慧
この人とは何か特別な関係性を感じる。
確信はなく断片的ではあるがこの人との…慧との思い出があった。
「うん」
自分はそう答え、いざ立とうとするとなぜか思いもよらず躓いてしまった。
おっと危ない、と慧は抱きかかえるかのように体を支えたその時だった。不意に肩に当たった彼の手が痛くてたまらないのだ。そんなに勢いよくもたれかかったわけでもなく、ただ軽く触れただけ。しかし癒えていない火傷跡を触れているかのような、また打撲した箇所を踏みつけられるかのような様々な痛みが体を走った。
「痛…」
我慢しようと思ったが少し言葉が漏れてしまい、しかもそれが聞こえてしまったらしく、大丈夫かとまた肩を触ってくる。
再び痛みが体を走った。
自分は大丈夫と痩せ我慢をしつつそう答え、彼と一緒に学校を出た。
他愛もない話をしながら、というより彼の質問にずっと答える会話とも言えない会話をしながら自分達は帰路に着いた。
自分の厚着に加え身体がまるで焦げてしまうのではないかと思ってしまうほど、日差しは強く暑さに耐えながら帰っていた途中、なんだかすごく思うことがあった。
それは、
家に帰りたくないということ。
なぜだかは分からないが、だんだん家に近づくたび、足取りが重く感じる。
そして恐らく自宅であろうかなり古びた見た目をした二階建ての一軒家の前でまたねと別れる挨拶を交わし、彼は家へと帰って行った。
当たり前のように表札には何も書いていない。
それにやはり、この家のドアを開けたくない。
ここについてますます家に入りたくない気持ちが強くなってしまった。
しかし、他に行くとこもないので恐る恐るドアを開けて中へと入る。
鍵はかかっておらず、入ってすぐ右側にあるドアを開けると、変に暗く散らかった部屋に、机には弁当やカップ麺の空いた容器、飲み終わったであろうお酒の缶や瓶が転がっていた。
そしてだらしない体で、メガネも外さず、缶酎ハイ片手に地べたに突っ伏している父と、肩ほどに伸びた髪と父とは対照的に意外にも痩せた体をした母はソファに頭を傾けて寝ていた。
この隙に、とでも言おうか汗をかいて不快だったので、自分はお風呂に入ることにした。
父と母を起こさないように慎重に2階へと上がり、着替えをタンスから見つけ出しゆっくりとお風呂場へ向かった。
そして脱衣場で服を脱ぎ自分の体を見た時、呆然としてしまった。
体のあちこちに青あざや傷、肩には火傷の痕のようなものが見受けられた。
傷に染みるのをなんとか耐えつつシャワーと着替えを済ませ背中が隠れるくらい伸びた髪を乾かし、諸々さっぱりした自分はスライド式のドアを恐る恐る開けるとそこには父が目の前に立っていた。
やけに酒臭く少し顔を見上げる自分の目と目が合っているのかも分からない。
それに母もタバコを吸いながらソファに座ってテレビを見ていた。
ドライヤーの音などで起こしてしまったのだろうか、謝ろうとしたその時だった。
左頬に鈍い痛みが走った。
何が起こったのかも分からず自分は左頬を触りながらその場に倒れ込んだ。
さっきの衝撃で口の中が切れたのだろうか、血の味がして気持ちが悪い。
そしてこちらを振り返ろうともしない母は口を開いた。
「あんまり見えるところに痕付けないでよねー、あとから消すの大変なんだから」
おう、と父はそれだけ言うと今度は自分のお腹を勢いよく何度も蹴ってきた。
恐らくさっきは右手で自分の左頬を殴ったのだろう。
父の暴力はしばらく続いた。
やっと終わったかと思えば母がタバコの火を自分の体に当ててきた。
火傷跡の正体はそれだった。
再びとも言うべきだろうか
この家は、いや、
この家も、狂っている。
燃え盛る炎の中、聞こえてきたのはこれまで何度も聞いてきた、耳に染み付いた声であった。
「こっちだ!!」
急げ、とAは自分の右手を引っ張って外に連れ出した。
次々と焼け落ちていく階段を何とか降りきり、自分達はアスファルトの上に叩きつけられた。
気づけば周りには消防車や救急車、警察車両も少し見られた。
それよりも、だ。
「どうして…」
「いや、なんか帰る途中嫌な予感がしてな、ちょっと寄ってみるかなんて思ったら、お前ん家からめっちゃ火出てるし、来てよかったわ」
そんな偶然あるのかと思ったが、今は感謝の気持ちでいっぱいだった。
「ありがとう」
そう伝えるとAは微笑んで、
「まさに俺はお前の命の恩人てやつだな」
否定できないんだよなぁ。
その時だった。
「痛い…」
それは決して火事の際起こった怪我では無い。
痛みの正体は頭痛と耳鳴りだった。
「どうした、咲太」
そうは言われても答えることが出来ない。
徐々に視界がぐらつき、Aの顔も歪んで見える。
だんだん気分も悪くなってきたとき、視界が真っ黒に染まった。
自分は再び暗闇の中、球を置く動作を繰り返していた。
そして次に目を開けた時、自分の視界に写ったものは、
「またかよ」
やはり学校だった。
しかも多分ここは、高校。
明らか周りの人達が成長しており順番的にもある程度予想できた。
それにこの教室には冷房が効いていないのだろうか、すごく蒸し暑い。
それもそのはず、周りの人達が全員半袖の中、自分は長いシャツに膝下まである長いスカート、加えて黒いタイツまで履いていた。
到底夏とは思えない格好である。
「××、一緒に帰ろう」
そう座っている自分に声をかけたのは、背の高い男の子。
今回自分の名前は分からないことなんて、もうどうでもいい。
そんなことより重要なのは自分はこの人の名前を知っていることだ。
その名前とは、
溝口慧
この人とは何か特別な関係性を感じる。
確信はなく断片的ではあるがこの人との…慧との思い出があった。
「うん」
自分はそう答え、いざ立とうとするとなぜか思いもよらず躓いてしまった。
おっと危ない、と慧は抱きかかえるかのように体を支えたその時だった。不意に肩に当たった彼の手が痛くてたまらないのだ。そんなに勢いよくもたれかかったわけでもなく、ただ軽く触れただけ。しかし癒えていない火傷跡を触れているかのような、また打撲した箇所を踏みつけられるかのような様々な痛みが体を走った。
「痛…」
我慢しようと思ったが少し言葉が漏れてしまい、しかもそれが聞こえてしまったらしく、大丈夫かとまた肩を触ってくる。
再び痛みが体を走った。
自分は大丈夫と痩せ我慢をしつつそう答え、彼と一緒に学校を出た。
他愛もない話をしながら、というより彼の質問にずっと答える会話とも言えない会話をしながら自分達は帰路に着いた。
自分の厚着に加え身体がまるで焦げてしまうのではないかと思ってしまうほど、日差しは強く暑さに耐えながら帰っていた途中、なんだかすごく思うことがあった。
それは、
家に帰りたくないということ。
なぜだかは分からないが、だんだん家に近づくたび、足取りが重く感じる。
そして恐らく自宅であろうかなり古びた見た目をした二階建ての一軒家の前でまたねと別れる挨拶を交わし、彼は家へと帰って行った。
当たり前のように表札には何も書いていない。
それにやはり、この家のドアを開けたくない。
ここについてますます家に入りたくない気持ちが強くなってしまった。
しかし、他に行くとこもないので恐る恐るドアを開けて中へと入る。
鍵はかかっておらず、入ってすぐ右側にあるドアを開けると、変に暗く散らかった部屋に、机には弁当やカップ麺の空いた容器、飲み終わったであろうお酒の缶や瓶が転がっていた。
そしてだらしない体で、メガネも外さず、缶酎ハイ片手に地べたに突っ伏している父と、肩ほどに伸びた髪と父とは対照的に意外にも痩せた体をした母はソファに頭を傾けて寝ていた。
この隙に、とでも言おうか汗をかいて不快だったので、自分はお風呂に入ることにした。
父と母を起こさないように慎重に2階へと上がり、着替えをタンスから見つけ出しゆっくりとお風呂場へ向かった。
そして脱衣場で服を脱ぎ自分の体を見た時、呆然としてしまった。
体のあちこちに青あざや傷、肩には火傷の痕のようなものが見受けられた。
傷に染みるのをなんとか耐えつつシャワーと着替えを済ませ背中が隠れるくらい伸びた髪を乾かし、諸々さっぱりした自分はスライド式のドアを恐る恐る開けるとそこには父が目の前に立っていた。
やけに酒臭く少し顔を見上げる自分の目と目が合っているのかも分からない。
それに母もタバコを吸いながらソファに座ってテレビを見ていた。
ドライヤーの音などで起こしてしまったのだろうか、謝ろうとしたその時だった。
左頬に鈍い痛みが走った。
何が起こったのかも分からず自分は左頬を触りながらその場に倒れ込んだ。
さっきの衝撃で口の中が切れたのだろうか、血の味がして気持ちが悪い。
そしてこちらを振り返ろうともしない母は口を開いた。
「あんまり見えるところに痕付けないでよねー、あとから消すの大変なんだから」
おう、と父はそれだけ言うと今度は自分のお腹を勢いよく何度も蹴ってきた。
恐らくさっきは右手で自分の左頬を殴ったのだろう。
父の暴力はしばらく続いた。
やっと終わったかと思えば母がタバコの火を自分の体に当ててきた。
火傷跡の正体はそれだった。
再びとも言うべきだろうか
この家は、いや、
この家も、狂っている。
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