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恋の忘れ形見
あの笑顔は偽りだったんですか
しおりを挟む「‥‥偽りだったんですか。」
「え‥‥?」
千鶴が突然口を開いた。
「実習中の、あの笑顔は偽りだったんですか?
‥‥少なくとも僕には、祖母に向けられたあの笑顔が嘘のものとは思えませんでしたよ。」
「そ、それは‥‥。」
私は思わず口をつぐむ。
確かに‥‥藤堂さんや他の利用者さんに向けていた笑顔や思い遣りは、嘘なんかじゃない。
千鶴の言う通りだ。
だけどそんなの後付けでしかない、と顔を曇らせる。
好きで介護を選んだワケじゃない。
だけど不真面目だとは思われたくない。
『だけど』という言葉の後に延々と続く言い訳が、頭をいっぱいにした。
「澪は、真面目なんですね。」
「‥‥‥‥。」
いつの間にか、千鶴は私の隣に座っていた。
まただ‥‥。
また、コイツの前で泣きそう。
何でなの?
「私‥‥小さい頃から凪と比べられるのが、イヤだった‥‥。」
不意に目頭にジンワリと溜まる涙。
胸に熱いモノが込み上げて、勝手に本音がボロボロと出てくる。
「はい‥‥。」
千鶴がやんわりと微笑みながら優しく相槌すると、ますます胸が熱くなるのを感じた。
「だって、私は私だよ‥‥?
顔が同じで、一緒に産まれたからって、何で比較されなきゃいけないのよ‥‥。」
「‥‥‥‥。」
「凪は昔から愛想が良くて、可愛がられて‥‥。
‥‥でも私は‥‥っ。」
駄目だ、言葉があふれてくる。
「‥‥私は、ひたすら凪とは別の道を目指した。
比較されないように別の高校に入学したりね。
それなのに結局は、一緒に住むことになってさぁ‥‥。
最後は‥‥自分の進みたい道が本当は何だったのか、忘れちゃった。
こんなのって、馬鹿みたいだよね?」
何で千鶴なんかに、こんな話を振ってるんだろう。
何でこんな変態に真剣な話を?
すると千鶴は相変わらず笑みを浮かべたまま、穏やかにこう言った。
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