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恋の忘れ形見③
隣で眠る物体
しおりを挟む「‥‥んっ。」
瞼の隙間から光が差し込む。
朦朧とする意識の中、今しがた見た映像の残像を追うかのように目をこすった。
「ん?あれ、夢‥‥か。」
またか。
身に覚えの全く無い、夢の続き。
そして昨日同様、病院の夢。
人間は、見たことの無い人の夢を見ることは無いらしい。
夢の中に出てくる人間は必ず知人であったり、テレビの人であったり、とにかく脳内にインプットされていない人間は、夢に登場しないはずなのだ。
なら、今見た女の人は‥‥誰?
そう思いながら、石のようにガチガチになった体を少し動かしてみた。
どうやら短時間に熟睡してしまったようだ。
まだ眠っていたいと、脳が呼びかけている。
ぶっちゃけ、まだ半分夢の中だ。
‥‥ん?
腕に何かが当たる‥‥。
抱き枕かな?
そう思って自分の真横にある大きな物体に、手探りで触れてみた。
完全に寝惚けながら、目をつぶったままモソモソと動く私。
そうこうしている内に血の巡りが良くなったのか、だんだんと意識がはっきりしてきた。
そして気付くのだった。
普段、抱き枕なんか抱いて寝ていないことに。
7割方覚醒すると、更に気付くのだった。
隣の物体に、体温があることに。
半分目を開くと、ぼんやりとその物体の姿を視界に収める。
サラサラとした艶やかな黒い髪が鼻をくすぐる。
ああ、人間だ。
とマヌケに思えば、目の前の人物に覚醒早々見とれる。
シャープな輪郭がまるで滑らかな陶器のようで、思わず手で触れてみた。
ツルツルと肌触りが心地良い。
スッとした高い鼻から、微かに寝息が漏れている。
少しツリ上がった瞼は完全に閉ざされて、長いまつ毛が目立っていた。
ん‥‥?
誰かが私の横で寝ている?
昨晩はしゃぎ過ぎて風邪を悪化させた妹では無い、誰かが私のベッドで?
ていうか、男‥‥?
ていうか‥‥。
「ぎゃあああー!!!!」
長い長い夢の世界から、一瞬にして地獄に突き落とされた。
バッチリ覚醒した脳が、一気に恐怖の信号でいっぱいになったのだ。
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