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恋はさざ波に似て②
なんだ……先約がいるんだぁ
しおりを挟む「あ~あ、酒が足りないぞっと。
でも、もうココの売店閉まったか
らさ、コンビニで買って来てよ。
あ、コンビニと言ってもウチの近くのコンビニね。
学校の隣のね。頑張って行って、買ってきて。ハンサムさん」
ウチの近くの、学校の隣にあるコンビニといえば、ここ三ツ星旅館から車で2時間以上はかかることを百も承知で。
「はい、喜んで!
では、行って来ますね。
布団を敷いて待っていて下さい、僕の新妻よ」
ハンサムと言われたのがそれほどまでに嬉しかったのか、
千鶴はスキップをしながら襖まで飛んで行った。
……恐らくは、本気で地元のコンビニまで向かう気なのだろう。
南条セイヤや、隣の部屋で死にかけている(多分)総大くんなんかには目もくれず、
あっさりと部屋を出たのだから。
きっと、天にでも昇る心境なのだろう。花も飛ばしていたし。
その証拠に廊下から、いつか聞いたことのある『澪と僕のラララ』という歌が木霊してきた。
まあ、良かったよ。
機嫌も直ったみたいだし、
首も治ったみたいだし。
ああ、嵐が過ぎ去った。
出来ればこのまま戻って来て欲しく無いんだけど……それは無理な願いだろう。
ボケーッと、
阿呆の子供みたく天井に張り付いた照明を見つめた。
「どのくらいで
帰って来るかしらね」
今のが独り言だったのか、はたまた脳みその中で湧き上がった声なのか、それを確かめる前に私は青冷める。
恐らくは前者?
だって、今の台詞を誰かさんに
聞かれていたみたいだったから。
「ふぅ~ん」
「……!」
気の抜けたテノールの声が耳に突き刺さりギクリと体を揺らせば、傍らに南条セイヤの企んだ顔があった。
「なんだ……先約がいるんだぁ」
「ち、ちが……」
うおー!!何で口をモゴつかせているのだ私は!
今の感じだったら100パーセント照れ隠しじゃんかよ!
「かっわいいね、
まだ1ヶ月ってトコかな?」
「……まぁ、確かに会ってからそれくらい経つケド。
決してアナタが想像してるような間柄じゃないですから」
「あら~そんなコト言っちゃう?」
「?だったら何ですか」
「若い男女が旅館に2人だよ?
あのハンサムなダーリンの怒り狂った顔が目に浮かぶよねぇ」
その計算だと、傍でスヤスヤ眠っているレミさんと、隣室で腐敗臭撒き散らしている総大くんの存在は丸々無視なんですね、分かります。
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