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少女の恋
殺したいと思う事
しおりを挟む溶けて無くなりかけた飴の粒を舌の上で泳がせながら、少女は何とか皐月を落ち着かせようと考えた。
「おばさんの息子は、名前、なんていうの?」
自分の息子の話ならば不快に思わないだろうかと淡い期待をした少女は、慎重に尋ねた。
「私の息子?
息子はね、紫伸っていうのよ。
とっても優しくて大人しい子」
少女の期待は裏切られなかった。
自分の息子の名前を口にした途端、憑き物が取れたように皐月は穏やかになった。
「今度お嬢ちゃんに会わせてあげるわね。
きっと、いえ、絶対に気に入るはずだから」
「うん。絶対そうだと思う」
「絶対、絶対よ。
私の息子こそ、本当は誰よりも優秀で可愛くて世界一なのよ、ああ」
可愛くて世界一なのよ、の辺りで胸を撫で下ろしたのも束の間、再び少女は気を揉むことになった。
皐月はナイフの柄を握り締めると、何かを思い出したのかワナワナ震え始める。
「ああ、ああ、紫伸、ごめんね。
お母さん、絶対、約束……守ってあげるからね」
ポタポタと皐月の大粒の涙はシーツに落ちていった。
「何を、約束したの?」
少女の小さな喉がゴクリと上下した。
「あの子、紫伸と約束したの……いつか私が、愛人の子を殺すって」
「……どうして?」
「本気よ殺すわ、いえ絶対に。
私の息子が絶対に可愛いと同じくらい絶対に殺すの」
「自分の子供じゃないからって、だからって殺しちゃうの?」
「あの子は……愛人の子は、私の息子を恨んでいる。
尋常じゃないの。あの子は、悪魔よ……!
愛人の子という身分に目を瞑って、一般家庭よりも恵まれた環境で何不自由なく育ててあげたというのに私の紫伸をいじめるの!」
「ひねくれているだけだよ。きっと」
「食事に毒を盛ったり、焼却炉に閉じ込めて火を放とうとしたり、あんなに殺人まがいのことをしてくれて、ひねくれているだけでは済まないわ!
きっと、いえ絶対に私が仕返しするの!待っててね、紫伸」
「……違う、ひねくれているだけだよ。私には分かるよ」
「どうして!」
「だって、私だって、妹を殺したいと思うことがあるよ?
たまに思う。
……おばさんは私も殺す?」
自分と瓜二つの幼い瞳は真剣そのものだった。
皐月は毒気が抜かれたように両肩を落とす。
「バカね、殺さないわ」
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