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恋の後始末
虫の知らせ
しおりを挟む「凪と、喧嘩したりさ」
「姉妹喧嘩は悪いことではないでしょう?」
切りすぎた前髪で柔和な笑みを浮かべる加奈子は、天使そのものだった。
「いやいや、姉妹だからこそ手加減できないし、追い詰めるまで容赦なく傷つけ合ったりするからねぇ。他人より憎たらしい時だってあるし、この間なんかも」
やっとの思いで千鶴の顔を振り払って絞り出した自分の言葉に対し、何か違和感を感じた。
何かを忘れているような、そんな感覚が喉で詰まっている気がして、私はカルボナーラをフォークで一巻きして口の中に詰め込み、それを流そうとした。
「この間……なんかも、喧嘩してそのままで、それっきり音沙汰なくて」
「学校でも会わないの?」
「いや……全然。幼児教育学科と廊下ですれ違う時間もなかったし……」
「じゃあ、もうどれくらい音沙汰ないの?」
「え……。2日……いや、5日、いや」
懐かしく嫌な予感がした。こんな感覚は何年ぶりだろうか。
幻影のようにチラつく千鶴の真っ黒な瞳と白いシャツの襟を頭の片隅に追いやり、私はその嫌な予感の出処を必死に探った。
「大丈夫?凪ちゃんと何かあったの?」
「いや、いつも通りの喧嘩だったはずなんだけどね、なんだか、いつもと違う気がするの……」
パサついた卵と麺が食道を通過していく感触とともに、その予感は思い当たる体験を蘇らせ、如実に現実味を帯びてきた。
「何が理由だったのかはもう忘れたんだけど、中3の冬に喧嘩してね。その日も、いつもと変わらない些細な喧嘩のはずだった。でも、その数ヶ月後に私達は別々の高校に進学しちゃって、私と凪は3年もの間離れて暮らしていたの。まさか、あんな些細なことで3年間も音沙汰がなくなるなんて……」
「そうだったの?初めて聞いたなぁ。別の高校に通っていたなんて。凪ちゃんとそんなに長い間音沙汰がなくて、澪ちゃんは平気だったの?」
「実は高校時代、凪は母方の叔母の家で暮らしていて、私は実家にいたのね。
だから、母さんから叔母さん伝いにしょっちゅう凪の情報は耳に入っていたの。そのお陰で、今どこで何をしているか心配にはならなかったんだけどね。でも今は一緒に暮らしていて、そんな心配どころか鬱陶しいだけで……凪……」
フォークが皿の外に飛び出して、金属の鋭い音が耳に刺さった。
それと同時に私は立ち上がっていた。
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