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穏やかな日常へ
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「今から話すことは、ちょっと信じられないかもしれない。だから、覚悟してくれ」
「覚悟って、どういうことだ?」
ルティアルは、顔を上げたリィーンに安堵して話を続けた。
「あの後、サラルナ山脈一帯を徹底的に調べた。なのに、リィーンが迷い込んだと思われる村がない。痕跡も見つからない」
「えっ?!」
衝撃の内容に、リィーンは茫然とするしかない。
「申し訳ないと思ったけれど、鍛冶師や研ぎ師の長老達にもリィーンの細剣を見てもらった・・・それで、信じられないことが分かった」
「信じられないこと?」
話し難いような様子のルティアルに、リィーンは首を傾げた。
「リィーンの細剣は、今から100年前に作製されたものだ」
「どういうことだ?!」
理解できない、というリィーンの言葉は途中で途切れた。
「その細剣の根元に製作者の名と剣の銘があった。かなり薄れていたから、判別が大変だったけど。それをガイダ様に調べてもらって分かった。製作者は100年前に実在した名工だ。左目が不自由だったから「片目のロウ」と呼ばれていた」
ルティアルの説明を聞いて、リィーンは思い出した。
「左目・・・眼帯をしていた」
思い出した老人の顔は穏やかに笑っていた。その傍らで大きな身体と緑色の瞳が印象的なダームも笑っていた。
「その名工は弟子を1人しかとっていない。名は」
「ダームだ。緑色の瞳が綺麗な、子熊みたいな男だった」
ルティアルは驚いたが表情を変えずに、話を続けた。
「ここからは推測だ。リィーンは100年前の村に迷い込んだ。そこで、彼らと出会い、細剣を貰った。どうして、そんなことが起きたのか分からないけれど」
ルティアルは、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「彼らは自分達の作った細剣を託す者を待っていた。そして、100年という時を超えてリィーンを見つけた」
ルティアルは席を立つと、椅子の背後に隠してあったものを手にした。
「過去は変えられない。けれど、彼らの願いは時を超えて叶えられた。それを、ただ、受け止めればいい」
ルティアルからリィーンの両手に渡されたのは2本の細剣だ。
それは、時を超えてきた分だけ、重くなったような気がする。
リィーンは再び俯いて、細剣を抱きしめた。
ルティアルは、細剣を抱きしめて涙を流すリィーンを、無言で見つめていた。
「本当に、信じられないな」
ランドはサティアスと酒を酌み交わした。だが、2人の表情は固いものがあった。
「100年という年月を超えた思いか」
サティアスの言葉に、妙な響きを感じたランドは視線を向けた。
「同感、できるのか?」
「・・・まあ、それなりに」
苦笑を浮かべて杯を空にするサティアスを見て、ランドは肩を竦めた。
「あんたに、リィーンを預けるのが少し、不安になってきた」
「なぜだ?」
「食っちまいそうだから」
「・・・正直だな」
「嘘を言ってもしょうがないだろう」
ランドは杯をテーブルに置くと、サティアスに問いかけた。
「気になっていることを、聞いてもいいか。答えたくないなら、それでいい」
「なんだ?」
「リィーンを、どう思っている?」
サティアスの手が止まった。ランドの問いかけに、考えているようだった。
「難しい、な・・・どう言えばいいのか」
「惚れているのか?」
ランドの更なる問いかけに、サティアスは苦笑していた。
「そうかもしれない。だが、今はそれを告げるつもりはない・・・俺にも、覚悟がいるからな」
どんな覚悟だ、とランドは突っ込むことはしなかった。
「まあ、がんばれよ」
大事な妹を無二の友人に嫁がせる兄のような気分を味わいながら、ランドは苦笑を浮かべて杯を重ねた。
ランドがちょっと感傷的になった翌日。
早速、大きな爆弾が投下された。
「リィーン!!何をしている!!」
と、ルティアルが怒鳴った時、紅獅子の隊員は息を切らして、座り込んでいた。
そして、リィーンは軽く息を整えながら、立っている状態だった。
「何って、ウォーミング・アップ」
あっさりと言い切るリィーンに、座り込んだ隊員達はさらに肩の力を落とすしかない。
「一体、どうして、こうなった?」
ルティアルの質問に、答えられたのはリィーンだけだった。
「だから・・・」
一晩、ぐっすりと眠ったら気分も良くなった。そこで、ちょっと身体を慣らそうと皇宮を散歩することにした。
そして、通りがかったところは、紅獅子の隊員が汗を流す訓練所だった。
「面白そうだな」
最悪なことに、リィーンは腰に細剣を下げていた。訓練に汗を流す隊員達は、ちょっとやそっとじゃあ崩れない、じゃない倒れない者とくれば、
「参加しても、いいか?」
ギョッとなったのは、紅獅子の隊員達だ。
腕に覚えのある者達だが、先日のリィーンの凄まじさを目の当たりにしたばかりだ。
「あの、怪我の方はよろしいのですか?」
恐る恐る聞いてみれば、
「それを、確かめたい」
と、右手に細剣を抜いて構えていた。
闘争心に火をつけて、煽って、燃焼させちゃいましたと、声を掛けた者を恨むが、今更どうしようもない。
正直なことを言えば、100人以上の盗賊を相手に超絶技巧の剣術を発揮したリィーンと剣を交えることができるのだ。
「手加減なしで、いいですか?」
「当然だ・・・さあ、始めようか」
売られた喧嘩はその場で即行、お買い上げ。それが紅獅子部隊のお約束。
その場にいた隊員達は、嬉々としてリィーンと模擬戦を始めたのだ。
「リィーン・・・この後、起きる地獄を考えたかぁ?」
と、ルティアルが嘆くと同時に、その場にいた全員が感じたのは強烈な殺気だ。
「てめえら、何をしている?」
でたぁ!! と、叫んで逃げ出したい。
凄みと威圧を1000%上乗せしたサティアスの登場で、周囲は一気にブリザード。
「見ての通り、ウォーミング・アップだ。これからが、本番」
と言って、リィーンが細剣を向けた相手は、サティアスだった。
「相手、してくれないか?」
僅かに目を細め、リィーンを見つめるサティアスは長剣に手を掛けようとはしなかった。
「模擬刀で、やるのなら・・・」
サティアスは腰に下げていた長剣を外してルティアルに預けた。そして、座り込んでいた隊員から模擬刀を受け取ると
「始めるか?」
「・・・OK」
不意に始まったタイマンに、周囲で座り込んでいた隊員達は慌てて場を開けるが、すぐにへたり込んだ。
「どうして、こうなる?!」
ルティアルは頭を抱えながら、呟いた。
「医者の手配。あとは、ランドさんと親父に報告・・・」
それと、と呟くと、
「いつまで、へたり込んでいる」
周囲で動けなくなっていた隊員達に声を掛けた。
「息を整えろ。あの2人に攻撃を仕掛ける。全員、構えろ!」
嘘だろう!という暇もなかった。ルティアルは篭手を確認し、不敵な笑みを浮かべ、
「おれも、参加だ!」
乱戦の最中に飛び込んでいく。
この後、紅獅子の隊員達は想像を絶する訓練に叩きこまれ、悲鳴を上げることになった。
「お前ら、馬鹿か?」
ランドは呆れながら紅獅子の隊員とルティアルに声を掛けた。
「あはっ」
爽快、と言いたそうなルティアルだったが、へたり込んでいる隊員は苦笑するしかない。
「あの2人に喧嘩を売って、まあ、無事でいたもんだ」
ランドは離れた場所で息を整えているリィーンとサティアスを見ながら呟いた。
「だよね~」
「だよね~じゃねえだろう。こういう面白いことは皆でやるもんだ。お前らだけで楽しむのは、ズルいだろう」
「・・・・・・」
隊員達はその場で突っ伏し、ルティアルは笑いをこらえるのに必死になった。
「今度は、銀狼とやり合おうか?」
「銀狼・・・部隊の名前、決まったのか」
ルティアルの一言に、ランドは頷いた。
「銀狼部隊。初代隊長は俺だが、副長はリィーンだ。いずれは、あいつが隊長になる」
「そうか・・・」
ルティアルの表情が僅かに曇った。
「どうした?」
「うん・・・やっぱり、笑ってほしいよ。あんな泣き顔、二度と見たくない」
声を殺して、俯いて泣き続けたリィーンの姿をルティアルは忘れられない、と思った。
「それについては、大丈夫だと思うぞ」
「えっ?!」
ランドの言葉にルティアルは驚き、周囲の隊員も首を捻った。
「黒竜がいるから、な」
ランドの言葉に、全員の目が点になった。
「それって・・・」
全員の視線がサティアスに向けられる。
リィーンの傍から離れることなく、話を聞いているサティアスの姿がある。
それを見て、数人の隊員が、がっくりと肩を落とした。
「ライバルが、強力すぎる・・・」
「勝ち目、まったくのナッシング・・・」
「憧れていたのに~」
どうやら、一部の隊員は無謀にもリィーンにアタックを仕掛けるつもりだったらしい。
「お前ら、その度胸は褒めてやるぞ」
「リィーンの理想の男、第一条件は自分よりも強いこと、だぞ」
以前、一緒に旅をしたことのあるルティアルはそのことを聞いていた。
ランドとルティアルの言葉で、紅獅子の隊員達は絶対、リィーンには手を出せない、と痛感することになった。
「覚悟って、どういうことだ?」
ルティアルは、顔を上げたリィーンに安堵して話を続けた。
「あの後、サラルナ山脈一帯を徹底的に調べた。なのに、リィーンが迷い込んだと思われる村がない。痕跡も見つからない」
「えっ?!」
衝撃の内容に、リィーンは茫然とするしかない。
「申し訳ないと思ったけれど、鍛冶師や研ぎ師の長老達にもリィーンの細剣を見てもらった・・・それで、信じられないことが分かった」
「信じられないこと?」
話し難いような様子のルティアルに、リィーンは首を傾げた。
「リィーンの細剣は、今から100年前に作製されたものだ」
「どういうことだ?!」
理解できない、というリィーンの言葉は途中で途切れた。
「その細剣の根元に製作者の名と剣の銘があった。かなり薄れていたから、判別が大変だったけど。それをガイダ様に調べてもらって分かった。製作者は100年前に実在した名工だ。左目が不自由だったから「片目のロウ」と呼ばれていた」
ルティアルの説明を聞いて、リィーンは思い出した。
「左目・・・眼帯をしていた」
思い出した老人の顔は穏やかに笑っていた。その傍らで大きな身体と緑色の瞳が印象的なダームも笑っていた。
「その名工は弟子を1人しかとっていない。名は」
「ダームだ。緑色の瞳が綺麗な、子熊みたいな男だった」
ルティアルは驚いたが表情を変えずに、話を続けた。
「ここからは推測だ。リィーンは100年前の村に迷い込んだ。そこで、彼らと出会い、細剣を貰った。どうして、そんなことが起きたのか分からないけれど」
ルティアルは、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「彼らは自分達の作った細剣を託す者を待っていた。そして、100年という時を超えてリィーンを見つけた」
ルティアルは席を立つと、椅子の背後に隠してあったものを手にした。
「過去は変えられない。けれど、彼らの願いは時を超えて叶えられた。それを、ただ、受け止めればいい」
ルティアルからリィーンの両手に渡されたのは2本の細剣だ。
それは、時を超えてきた分だけ、重くなったような気がする。
リィーンは再び俯いて、細剣を抱きしめた。
ルティアルは、細剣を抱きしめて涙を流すリィーンを、無言で見つめていた。
「本当に、信じられないな」
ランドはサティアスと酒を酌み交わした。だが、2人の表情は固いものがあった。
「100年という年月を超えた思いか」
サティアスの言葉に、妙な響きを感じたランドは視線を向けた。
「同感、できるのか?」
「・・・まあ、それなりに」
苦笑を浮かべて杯を空にするサティアスを見て、ランドは肩を竦めた。
「あんたに、リィーンを預けるのが少し、不安になってきた」
「なぜだ?」
「食っちまいそうだから」
「・・・正直だな」
「嘘を言ってもしょうがないだろう」
ランドは杯をテーブルに置くと、サティアスに問いかけた。
「気になっていることを、聞いてもいいか。答えたくないなら、それでいい」
「なんだ?」
「リィーンを、どう思っている?」
サティアスの手が止まった。ランドの問いかけに、考えているようだった。
「難しい、な・・・どう言えばいいのか」
「惚れているのか?」
ランドの更なる問いかけに、サティアスは苦笑していた。
「そうかもしれない。だが、今はそれを告げるつもりはない・・・俺にも、覚悟がいるからな」
どんな覚悟だ、とランドは突っ込むことはしなかった。
「まあ、がんばれよ」
大事な妹を無二の友人に嫁がせる兄のような気分を味わいながら、ランドは苦笑を浮かべて杯を重ねた。
ランドがちょっと感傷的になった翌日。
早速、大きな爆弾が投下された。
「リィーン!!何をしている!!」
と、ルティアルが怒鳴った時、紅獅子の隊員は息を切らして、座り込んでいた。
そして、リィーンは軽く息を整えながら、立っている状態だった。
「何って、ウォーミング・アップ」
あっさりと言い切るリィーンに、座り込んだ隊員達はさらに肩の力を落とすしかない。
「一体、どうして、こうなった?」
ルティアルの質問に、答えられたのはリィーンだけだった。
「だから・・・」
一晩、ぐっすりと眠ったら気分も良くなった。そこで、ちょっと身体を慣らそうと皇宮を散歩することにした。
そして、通りがかったところは、紅獅子の隊員が汗を流す訓練所だった。
「面白そうだな」
最悪なことに、リィーンは腰に細剣を下げていた。訓練に汗を流す隊員達は、ちょっとやそっとじゃあ崩れない、じゃない倒れない者とくれば、
「参加しても、いいか?」
ギョッとなったのは、紅獅子の隊員達だ。
腕に覚えのある者達だが、先日のリィーンの凄まじさを目の当たりにしたばかりだ。
「あの、怪我の方はよろしいのですか?」
恐る恐る聞いてみれば、
「それを、確かめたい」
と、右手に細剣を抜いて構えていた。
闘争心に火をつけて、煽って、燃焼させちゃいましたと、声を掛けた者を恨むが、今更どうしようもない。
正直なことを言えば、100人以上の盗賊を相手に超絶技巧の剣術を発揮したリィーンと剣を交えることができるのだ。
「手加減なしで、いいですか?」
「当然だ・・・さあ、始めようか」
売られた喧嘩はその場で即行、お買い上げ。それが紅獅子部隊のお約束。
その場にいた隊員達は、嬉々としてリィーンと模擬戦を始めたのだ。
「リィーン・・・この後、起きる地獄を考えたかぁ?」
と、ルティアルが嘆くと同時に、その場にいた全員が感じたのは強烈な殺気だ。
「てめえら、何をしている?」
でたぁ!! と、叫んで逃げ出したい。
凄みと威圧を1000%上乗せしたサティアスの登場で、周囲は一気にブリザード。
「見ての通り、ウォーミング・アップだ。これからが、本番」
と言って、リィーンが細剣を向けた相手は、サティアスだった。
「相手、してくれないか?」
僅かに目を細め、リィーンを見つめるサティアスは長剣に手を掛けようとはしなかった。
「模擬刀で、やるのなら・・・」
サティアスは腰に下げていた長剣を外してルティアルに預けた。そして、座り込んでいた隊員から模擬刀を受け取ると
「始めるか?」
「・・・OK」
不意に始まったタイマンに、周囲で座り込んでいた隊員達は慌てて場を開けるが、すぐにへたり込んだ。
「どうして、こうなる?!」
ルティアルは頭を抱えながら、呟いた。
「医者の手配。あとは、ランドさんと親父に報告・・・」
それと、と呟くと、
「いつまで、へたり込んでいる」
周囲で動けなくなっていた隊員達に声を掛けた。
「息を整えろ。あの2人に攻撃を仕掛ける。全員、構えろ!」
嘘だろう!という暇もなかった。ルティアルは篭手を確認し、不敵な笑みを浮かべ、
「おれも、参加だ!」
乱戦の最中に飛び込んでいく。
この後、紅獅子の隊員達は想像を絶する訓練に叩きこまれ、悲鳴を上げることになった。
「お前ら、馬鹿か?」
ランドは呆れながら紅獅子の隊員とルティアルに声を掛けた。
「あはっ」
爽快、と言いたそうなルティアルだったが、へたり込んでいる隊員は苦笑するしかない。
「あの2人に喧嘩を売って、まあ、無事でいたもんだ」
ランドは離れた場所で息を整えているリィーンとサティアスを見ながら呟いた。
「だよね~」
「だよね~じゃねえだろう。こういう面白いことは皆でやるもんだ。お前らだけで楽しむのは、ズルいだろう」
「・・・・・・」
隊員達はその場で突っ伏し、ルティアルは笑いをこらえるのに必死になった。
「今度は、銀狼とやり合おうか?」
「銀狼・・・部隊の名前、決まったのか」
ルティアルの一言に、ランドは頷いた。
「銀狼部隊。初代隊長は俺だが、副長はリィーンだ。いずれは、あいつが隊長になる」
「そうか・・・」
ルティアルの表情が僅かに曇った。
「どうした?」
「うん・・・やっぱり、笑ってほしいよ。あんな泣き顔、二度と見たくない」
声を殺して、俯いて泣き続けたリィーンの姿をルティアルは忘れられない、と思った。
「それについては、大丈夫だと思うぞ」
「えっ?!」
ランドの言葉にルティアルは驚き、周囲の隊員も首を捻った。
「黒竜がいるから、な」
ランドの言葉に、全員の目が点になった。
「それって・・・」
全員の視線がサティアスに向けられる。
リィーンの傍から離れることなく、話を聞いているサティアスの姿がある。
それを見て、数人の隊員が、がっくりと肩を落とした。
「ライバルが、強力すぎる・・・」
「勝ち目、まったくのナッシング・・・」
「憧れていたのに~」
どうやら、一部の隊員は無謀にもリィーンにアタックを仕掛けるつもりだったらしい。
「お前ら、その度胸は褒めてやるぞ」
「リィーンの理想の男、第一条件は自分よりも強いこと、だぞ」
以前、一緒に旅をしたことのあるルティアルはそのことを聞いていた。
ランドとルティアルの言葉で、紅獅子の隊員達は絶対、リィーンには手を出せない、と痛感することになった。
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