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忘れていた刻印 そして悪徳商人を、ぶん殴れ!!
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戦闘意欲をなくした男達をまとめて縛り上げ、水城はやっと落ち着いた。
「水城・・・なんで、気づかないんだ?」
「何のことだ?」
ゼロは困惑の表情を隠せず、子供たちも驚いたまま水城を見つめている。
「神様たち、苦笑いしているよ。自分たちがそばにいても気づくことはないだろうって」
子供たちですら見えている、それほど強い力を宿した神様がすぐそばにいるにもかかわらず、水城は見えていないという。そして、がっちり鎧に身を固め、勇ましい神様たちは、ゼロが見てもわかるぐらい困惑していた。
「ケガ、してるよ」
女性が見つけたのは、水城の右腕の怪我だった。
「切られたのか?」
「不可抗力だな・・・洗って、さっき見つけた薬草で処置をすればすぐに良くなる」
「診せてもらってもいいかな?一応、医術の心得はある」
ゼロの申し出に水城は一瞬躊躇ったが、
「自分じゃあできないな・・・頼むか」
袖をまくり、右腕を見せた時だった。
「なっ・・・これ?!」
ゼロが絶句したのは、水城の上腕に刻まれた紋様を見たからだった。
「そういえば、言われていたな・・・あまり人に見せるなって」
長袖だから見えなかったのだが、上腕にくっきりと刻まれた紋様は複雑なアラベスクのように見える。
「これ、刻印だよね・・・これほど複雑なのは、見たことない」
「それは良いから、手当てをしてくれないか?」
水城の注意を受けて、ゼロは手際よく処置を済ませた。
「思っていたよりも深い傷だったから、ちょっと気を付けて。しばらくは動かさないほうがいいけど・・・」
「そういうわけにはいかないだろうな」
ため息を漏らした後、水城は袖を下ろし、考え込んだ。
「ところで、刻印って一体、何だ?」
水城の一言に、ゼロは大きなため息を漏らし、
「そこから説明するの?!」と、叫んでいた。
刻印とは、簡単に言ってしまえば神様の加護を受けていることの証、ということになる。
「ただし、水城の場合は問題がある!」
ゼロは険しい表情で話を続けた。
「水城の話だと、背中と胸元にあるっていうことだけど、腕の刻印だけでも相当厄介なんだよ」
「ものすごく、きれいな刻印だね~」
ゼロの手当てを手伝っていた女性はニコニコしながら2人の話に参加してきた。
「刻印は神様によって、それぞれ違う。腕の刻印は戦四神将のもので・・・多分、左腕にもあるよ」
ゼロは自分で確認しろ、と水城を促し、水城もそれに応じた。左袖を上げると、腕にはしっかり右側と同じ刻印が刻まれていた。
「・・・いつのまに?」
その刻印を授けたであろう神様達は何をしているのかというと、
「子供たちの面倒を見てくれているの・・・優しいね」
自分の姿が見えている子供たちの遊び相手になっていたり、眠ってしまった子供たちを護衛したりと、見れる者が見れば、絶句するであろうほのぼのとした光景が繰り広げられている。
「まあ、子供たちは良いとして・・・こっちをどうするか、だな」
水城が視線を向けた先には縛り上げられた男達が悲鳴を上げていた。
「人買いなら、まだ許せたが・・・誘拐なら手加減なしで良いよな?」
怪我をしていない左手で剣を持ち、切っ先を男達に向ける。
「弱い者いじめはしたくないが、この場合は容赦なしでいいのか?」
水城の物騒な発言に、男達は顔面蒼白となり、中には失神する者までいた。
「指から詰めるか、耳から削ぐか・・・どっちが良い?」
淡々と聞く水城に、男達は命乞いを懸命にしていた。
「・・・そうだな・・・お前たちの雇い主は、だれだ?」
ゼロは水城の質問を聞いて、なんとな~く、嫌な予感がした。
「あのさぁ・・まさか、本当に、やるのか?」
「いい加減、うっとおしいからな」
ゼロは、どうしたものかとため息交じりに考えてみるが、水城を止めることは不可能、と分かってるから
「頼むから、加減はしてくれよ~」
と泣きつくしかなかった。
男達から情報をすべて聞き出した水城は、しばらく考えていた。
「ゼロを欲しがっている奴と子供たちの誘拐犯が同じか・・・かなり、厄介なことになりそうだな」
ぶん殴ることには変わりはないが、その過程が面倒になっていた。
しかも、相手は表向きは商人としてかなり大手の店を経営しているらしい。当然、警備の者たちも多く、腕自慢の者たちもいるらしい。ゼロに言わせれば、
「水城以上の猛者を見つけるなんて・・・かなり困難だよ」
「無理、だと思う」
いつの間にかゼロの近くに女性は腰を下ろして、ため息を漏らしていた。
「まあ、深く考えるのはやめるか。正面から堂々と名乗っていけばいい。幸いにも餌はあるからな」
ゼロを見ながら、水城は微笑んでいた。
「まぁ、それは覚悟しているけれど・・・子供たちはどうするんだ?」
「そこなんだが、何かいい方法はないか?」
さすがに神様達に、決着がつくまで助けて!と言えるわけもなく、どうしたものかと悩んでいたら。
「神様の神殿に連れて行けばいいって、言っているよ」
「はぁ?!」
ニコニコと笑いながら、子供たちと一緒にいた女性が提案した。
「この近くにあるのか?」
「あるよ~~あとね、さっきやっつけた男達も、まとめて面倒見るって」
保育園と刑務所は一緒にしてもいいのか?と水城は考えたが、神様達の提案を1つだけ受け入れることにした。
神様達に子供を任せて、男達は縛り上げて、荷馬車に積み込んだ。声を出せないようにすることも忘れていない。そして、荷馬車を走らせていた途中だった。
「どうして、彼女が、ここにいる?」
水城は女性に気付いて、ゼロに聞いてみた。
「それ、今、聞くの?」
「聞くしかないだろう。引き返すことも無理だぞ」
荷馬車は街の近くまで来ているため、引き返すのは時間の無駄になる。水城の困惑した表情とは別に、女性は満面の笑顔を浮かべている。
「餌は多いほうがいいよ~」
「そういうエサじゃないぞ!」
水城に怒られ、一瞬びっくりした女性だったが、すぐにニコニコと笑って
「心配してくれるの?」
と、聞いてきた。
ゼロはため息を漏らして、水城に提案した。
「ここまで来たら、仕方がない。彼女はおれが何とかするよ」
「・・・そうするしかない、か・・・」
それでも、水城は不安を隠せなかった。
街は賑やかだった。
水城達はフード付きのマントでうまく姿を隠し、荷馬車を進めていた。
「この店か・・・要塞、と言ってもいいな」
水城が馬車を横付けしたのは、街中でも大きな建物で、周囲を高い塀で囲んでいた。
「凄いところだね」
「まあ、外からの攻撃には耐えられるだろう」
水城は口元に笑みを浮かべ、小声で呟いた。
「では、内側からでは、どうかな?」
水城は荷馬車をもう一度動かした。行く先は、もちろん、店の中である。
「おい、これは一体?!」
見張りの男達は荷馬車に積まれた男達の状態と、操縦していた水城に驚いていた。
「道に落ちていたから、回収してきた。そっちのものだろう?」
間違ってはいないが、正解でもない。
「このことで、そっちの主と話がしたい。身に覚えがないというなら、仕方がない。このまま、別の商人のところに行くが・・・こいつをつれて」
水城の視線はゼロに向けられていた。
ゼロを見た男達は慌てて、
「ちょっと待て。今、連絡する」
「遅い。このまま、出ていく」
荷馬車ごと出て行こうとする水城に男達はさらに慌て、ゼロとなぜかついてきた女性も一緒に中へと案内した。
「うそみたい・・・本当に入れた」
「悪いけど、ここからはおとなしく、静かにしていてくれ・・・えっと?」
「クリスタで良いよ」
ニコニコと笑う女性はクリスタと名乗った。
「分かった。クリスタさん、水城が本気になっているから・・・騒ぎが始まったら、静かにってええっ!」
ゼロが気付いた時、周囲の男達は全員、意識をなくしていた。
「水城・・・何をしたの?」
「ちょっと、眠ってもらった」
ゼロがよそ見をしている間に、水城は何をしてくれたんだ!と、叫びたいところを強引に抑え込み、ゼロは意識をなくしている男達をまとめて縛り上げた。
「さて、こいつらの雇い主は・・・奥か」
荷馬車を止めて、馬を荷馬車から放すとしつけられているのか、馬たちは自分で馬小屋へと逃げ出していた。
「行くぜ」
堂々と正面から乗り込んでいく水城に、ゼロは苦笑していた。
「あそこまで堂々とされると、怪しいやつとは思えない」
「カッコいいよね~」
この時は、まだ、のんびりしていられた。だが、建物の中に入った途端、水城は待っていましたとばかりに動き出した。
「邪魔をするな。良いな?」
入って早々、水城を詰問しようとした男は、静かな恫喝を受けて頷き、通路を開けた。
「なんだろう・・・水城の傍に、おっかないのがいるみたい」
「うん・・・いるの・・・激怒している女神様・・・」
クリスタの言葉に、ゼロは慌てて水城の周囲を見てみた。
水城を守るように、というよりも一緒になって殴り込みに行こうとしているおっかない女神様の姿がゼロにも見えた。
「あれ・・・カリーナティシモ様?」
数多い神々の中でも母と子供を守護する女神として崇められている女神様だが、同時に子供や母親を害するととんでもなく恐ろしい存在となる。害した者を徹底的に追い詰め、改心するまでとことん、あらゆる災厄を招くのだ。そんな女神さまを味方に引き連れていくのだから。気配に敏感な者はその場で武器を放棄し、土下座どころか、五体投地をして謝罪していた。
「うわぁ・・・すごいわ・・・」
武器を回収し、男達に絶対にそこから動かないように諭しながら、ゼロとクリスタは水城の後を追いかけた。
「水城って、神様ホイホイ?」
「っていうよりも、神様達が面白がって、水城を見に来ているみたい」
「やっぱり、神様吸引機じゃないかぁ~」
ゼロは小声で呟き、クリスタは目の前で起きている現象に、ただ、ただ、感動していた。
出会う人間のほとんどが恐怖の悲鳴を上げ、謝罪を口にして五体投地をしていく。
「何が起きているんだ?」
水城は呆れながら、なんとなく、自分の傍に何かがいることを感じていた。
子供たちを助けた時も、周囲にとてつもない力を感じたが、それ以上の強さを感じる。
「・・・助けてくれる、のか?」
小声で呟くと、柔らかな風が流れた。そして、春の日差しのような気配を感じた。
「さしあたり、激怒した母親のようだな・・・いいぜ。一緒に殴りに行こう」
水城の声掛けは、独り言のようなものだった。
だが、その気配は嬉しそうに傍に寄り添い、離れなかった。
そして、その瞬間は唐突に訪れた。
水城が無造作に蹴り破った扉の奥に、その人物はいた。
「貴様、誰の許可を得てここに・・・?!」
ドゴッ!! ガゴッ! ブァキッ!!
擬音の連続音が聞こえ、気付くと、白目をむいた男達が倒れていた。
「うわっ・・・瞬殺かよ」
「見えなかった」
水城は武器を持っていた男達を確認すると同時に動き、一撃必殺で倒していた。
「・・・お前が、主犯だな」
「なんの話だ?」
「地下とこの家の隠し部屋にあるものは、全部非合法のものだ」
水城の指摘に、男は口をパクパクとさせているが言葉にならなかった。
「水城・・・なんで、気づかないんだ?」
「何のことだ?」
ゼロは困惑の表情を隠せず、子供たちも驚いたまま水城を見つめている。
「神様たち、苦笑いしているよ。自分たちがそばにいても気づくことはないだろうって」
子供たちですら見えている、それほど強い力を宿した神様がすぐそばにいるにもかかわらず、水城は見えていないという。そして、がっちり鎧に身を固め、勇ましい神様たちは、ゼロが見てもわかるぐらい困惑していた。
「ケガ、してるよ」
女性が見つけたのは、水城の右腕の怪我だった。
「切られたのか?」
「不可抗力だな・・・洗って、さっき見つけた薬草で処置をすればすぐに良くなる」
「診せてもらってもいいかな?一応、医術の心得はある」
ゼロの申し出に水城は一瞬躊躇ったが、
「自分じゃあできないな・・・頼むか」
袖をまくり、右腕を見せた時だった。
「なっ・・・これ?!」
ゼロが絶句したのは、水城の上腕に刻まれた紋様を見たからだった。
「そういえば、言われていたな・・・あまり人に見せるなって」
長袖だから見えなかったのだが、上腕にくっきりと刻まれた紋様は複雑なアラベスクのように見える。
「これ、刻印だよね・・・これほど複雑なのは、見たことない」
「それは良いから、手当てをしてくれないか?」
水城の注意を受けて、ゼロは手際よく処置を済ませた。
「思っていたよりも深い傷だったから、ちょっと気を付けて。しばらくは動かさないほうがいいけど・・・」
「そういうわけにはいかないだろうな」
ため息を漏らした後、水城は袖を下ろし、考え込んだ。
「ところで、刻印って一体、何だ?」
水城の一言に、ゼロは大きなため息を漏らし、
「そこから説明するの?!」と、叫んでいた。
刻印とは、簡単に言ってしまえば神様の加護を受けていることの証、ということになる。
「ただし、水城の場合は問題がある!」
ゼロは険しい表情で話を続けた。
「水城の話だと、背中と胸元にあるっていうことだけど、腕の刻印だけでも相当厄介なんだよ」
「ものすごく、きれいな刻印だね~」
ゼロの手当てを手伝っていた女性はニコニコしながら2人の話に参加してきた。
「刻印は神様によって、それぞれ違う。腕の刻印は戦四神将のもので・・・多分、左腕にもあるよ」
ゼロは自分で確認しろ、と水城を促し、水城もそれに応じた。左袖を上げると、腕にはしっかり右側と同じ刻印が刻まれていた。
「・・・いつのまに?」
その刻印を授けたであろう神様達は何をしているのかというと、
「子供たちの面倒を見てくれているの・・・優しいね」
自分の姿が見えている子供たちの遊び相手になっていたり、眠ってしまった子供たちを護衛したりと、見れる者が見れば、絶句するであろうほのぼのとした光景が繰り広げられている。
「まあ、子供たちは良いとして・・・こっちをどうするか、だな」
水城が視線を向けた先には縛り上げられた男達が悲鳴を上げていた。
「人買いなら、まだ許せたが・・・誘拐なら手加減なしで良いよな?」
怪我をしていない左手で剣を持ち、切っ先を男達に向ける。
「弱い者いじめはしたくないが、この場合は容赦なしでいいのか?」
水城の物騒な発言に、男達は顔面蒼白となり、中には失神する者までいた。
「指から詰めるか、耳から削ぐか・・・どっちが良い?」
淡々と聞く水城に、男達は命乞いを懸命にしていた。
「・・・そうだな・・・お前たちの雇い主は、だれだ?」
ゼロは水城の質問を聞いて、なんとな~く、嫌な予感がした。
「あのさぁ・・まさか、本当に、やるのか?」
「いい加減、うっとおしいからな」
ゼロは、どうしたものかとため息交じりに考えてみるが、水城を止めることは不可能、と分かってるから
「頼むから、加減はしてくれよ~」
と泣きつくしかなかった。
男達から情報をすべて聞き出した水城は、しばらく考えていた。
「ゼロを欲しがっている奴と子供たちの誘拐犯が同じか・・・かなり、厄介なことになりそうだな」
ぶん殴ることには変わりはないが、その過程が面倒になっていた。
しかも、相手は表向きは商人としてかなり大手の店を経営しているらしい。当然、警備の者たちも多く、腕自慢の者たちもいるらしい。ゼロに言わせれば、
「水城以上の猛者を見つけるなんて・・・かなり困難だよ」
「無理、だと思う」
いつの間にかゼロの近くに女性は腰を下ろして、ため息を漏らしていた。
「まあ、深く考えるのはやめるか。正面から堂々と名乗っていけばいい。幸いにも餌はあるからな」
ゼロを見ながら、水城は微笑んでいた。
「まぁ、それは覚悟しているけれど・・・子供たちはどうするんだ?」
「そこなんだが、何かいい方法はないか?」
さすがに神様達に、決着がつくまで助けて!と言えるわけもなく、どうしたものかと悩んでいたら。
「神様の神殿に連れて行けばいいって、言っているよ」
「はぁ?!」
ニコニコと笑いながら、子供たちと一緒にいた女性が提案した。
「この近くにあるのか?」
「あるよ~~あとね、さっきやっつけた男達も、まとめて面倒見るって」
保育園と刑務所は一緒にしてもいいのか?と水城は考えたが、神様達の提案を1つだけ受け入れることにした。
神様達に子供を任せて、男達は縛り上げて、荷馬車に積み込んだ。声を出せないようにすることも忘れていない。そして、荷馬車を走らせていた途中だった。
「どうして、彼女が、ここにいる?」
水城は女性に気付いて、ゼロに聞いてみた。
「それ、今、聞くの?」
「聞くしかないだろう。引き返すことも無理だぞ」
荷馬車は街の近くまで来ているため、引き返すのは時間の無駄になる。水城の困惑した表情とは別に、女性は満面の笑顔を浮かべている。
「餌は多いほうがいいよ~」
「そういうエサじゃないぞ!」
水城に怒られ、一瞬びっくりした女性だったが、すぐにニコニコと笑って
「心配してくれるの?」
と、聞いてきた。
ゼロはため息を漏らして、水城に提案した。
「ここまで来たら、仕方がない。彼女はおれが何とかするよ」
「・・・そうするしかない、か・・・」
それでも、水城は不安を隠せなかった。
街は賑やかだった。
水城達はフード付きのマントでうまく姿を隠し、荷馬車を進めていた。
「この店か・・・要塞、と言ってもいいな」
水城が馬車を横付けしたのは、街中でも大きな建物で、周囲を高い塀で囲んでいた。
「凄いところだね」
「まあ、外からの攻撃には耐えられるだろう」
水城は口元に笑みを浮かべ、小声で呟いた。
「では、内側からでは、どうかな?」
水城は荷馬車をもう一度動かした。行く先は、もちろん、店の中である。
「おい、これは一体?!」
見張りの男達は荷馬車に積まれた男達の状態と、操縦していた水城に驚いていた。
「道に落ちていたから、回収してきた。そっちのものだろう?」
間違ってはいないが、正解でもない。
「このことで、そっちの主と話がしたい。身に覚えがないというなら、仕方がない。このまま、別の商人のところに行くが・・・こいつをつれて」
水城の視線はゼロに向けられていた。
ゼロを見た男達は慌てて、
「ちょっと待て。今、連絡する」
「遅い。このまま、出ていく」
荷馬車ごと出て行こうとする水城に男達はさらに慌て、ゼロとなぜかついてきた女性も一緒に中へと案内した。
「うそみたい・・・本当に入れた」
「悪いけど、ここからはおとなしく、静かにしていてくれ・・・えっと?」
「クリスタで良いよ」
ニコニコと笑う女性はクリスタと名乗った。
「分かった。クリスタさん、水城が本気になっているから・・・騒ぎが始まったら、静かにってええっ!」
ゼロが気付いた時、周囲の男達は全員、意識をなくしていた。
「水城・・・何をしたの?」
「ちょっと、眠ってもらった」
ゼロがよそ見をしている間に、水城は何をしてくれたんだ!と、叫びたいところを強引に抑え込み、ゼロは意識をなくしている男達をまとめて縛り上げた。
「さて、こいつらの雇い主は・・・奥か」
荷馬車を止めて、馬を荷馬車から放すとしつけられているのか、馬たちは自分で馬小屋へと逃げ出していた。
「行くぜ」
堂々と正面から乗り込んでいく水城に、ゼロは苦笑していた。
「あそこまで堂々とされると、怪しいやつとは思えない」
「カッコいいよね~」
この時は、まだ、のんびりしていられた。だが、建物の中に入った途端、水城は待っていましたとばかりに動き出した。
「邪魔をするな。良いな?」
入って早々、水城を詰問しようとした男は、静かな恫喝を受けて頷き、通路を開けた。
「なんだろう・・・水城の傍に、おっかないのがいるみたい」
「うん・・・いるの・・・激怒している女神様・・・」
クリスタの言葉に、ゼロは慌てて水城の周囲を見てみた。
水城を守るように、というよりも一緒になって殴り込みに行こうとしているおっかない女神様の姿がゼロにも見えた。
「あれ・・・カリーナティシモ様?」
数多い神々の中でも母と子供を守護する女神として崇められている女神様だが、同時に子供や母親を害するととんでもなく恐ろしい存在となる。害した者を徹底的に追い詰め、改心するまでとことん、あらゆる災厄を招くのだ。そんな女神さまを味方に引き連れていくのだから。気配に敏感な者はその場で武器を放棄し、土下座どころか、五体投地をして謝罪していた。
「うわぁ・・・すごいわ・・・」
武器を回収し、男達に絶対にそこから動かないように諭しながら、ゼロとクリスタは水城の後を追いかけた。
「水城って、神様ホイホイ?」
「っていうよりも、神様達が面白がって、水城を見に来ているみたい」
「やっぱり、神様吸引機じゃないかぁ~」
ゼロは小声で呟き、クリスタは目の前で起きている現象に、ただ、ただ、感動していた。
出会う人間のほとんどが恐怖の悲鳴を上げ、謝罪を口にして五体投地をしていく。
「何が起きているんだ?」
水城は呆れながら、なんとなく、自分の傍に何かがいることを感じていた。
子供たちを助けた時も、周囲にとてつもない力を感じたが、それ以上の強さを感じる。
「・・・助けてくれる、のか?」
小声で呟くと、柔らかな風が流れた。そして、春の日差しのような気配を感じた。
「さしあたり、激怒した母親のようだな・・・いいぜ。一緒に殴りに行こう」
水城の声掛けは、独り言のようなものだった。
だが、その気配は嬉しそうに傍に寄り添い、離れなかった。
そして、その瞬間は唐突に訪れた。
水城が無造作に蹴り破った扉の奥に、その人物はいた。
「貴様、誰の許可を得てここに・・・?!」
ドゴッ!! ガゴッ! ブァキッ!!
擬音の連続音が聞こえ、気付くと、白目をむいた男達が倒れていた。
「うわっ・・・瞬殺かよ」
「見えなかった」
水城は武器を持っていた男達を確認すると同時に動き、一撃必殺で倒していた。
「・・・お前が、主犯だな」
「なんの話だ?」
「地下とこの家の隠し部屋にあるものは、全部非合法のものだ」
水城の指摘に、男は口をパクパクとさせているが言葉にならなかった。
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