2 / 53
魔狼
しおりを挟む
風のない生暖かい空気に数頭の魔物の気配が漂っている。面倒だから迂回しようか、とレイルの頭に考えがよぎったが、同じ方向から人の声が聞こえてきて、一瞬の躊躇いの後そちらに足を向けた。手に馴染んだ剣を抜くのは走り出すのと同時だった。耳元にビュンと風を感じる。
間もなく誰かが魔狼に襲われているのが見えた。二頭、三頭。と数えながら唸り声を上げて魔狼に切り掛かる。倒れている人に喰いつこうとしている一際大きな一頭を横薙ぎに斬り倒す。二頭目は、と次の魔狼に目をやるともう一頭と共に尻尾を巻いて退散していくところだった。
********
黒髪はこの辺りでは珍しい、ということをキリトは街道に出てから思い出した。時折道ゆく人の視線をちらちらと感じるのである。ロベルトと暮らしていた時は近くの集落との交流さえほとんど絶っていたため気にしていなかった。
居心地の悪さを感じて街道に沿って行くのを止め、森の中を通ることにしたのだが、それが悪かった。森に入って半日も歩かないうちに、気づいたら魔狼に囲まれていたのだった。
「ひ...誰か...誰か助けて」
逃げようと後ずさるが魔狼に飛びかかられて地面に這いつくばる。魔狼の荒い息遣いがすぐ直近に迫り、生臭い息が顔にかかる。
もうだめだと息を詰めたその時、唸り声と共にヒュンと風が鳴ったと思ったら魔狼が鈍い音を立てて倒れた。一瞬の出来事だった。
「連れは?はぐれたのか?」
キリトがバクバクする心臓を宥めながらどうにか身を起こすと、そう声を掛けられた。
顔を上げると長剣についた血を一振りして鞘に納める男と目が合った。
「怪我はないようだな、俺の名前はレイル」
鍛え上げた腕を差し出して軽々とキリトを助け起こしてくれた。
レイルと名乗った男は見上げる程の長身に軽量の革鎧をつけている。茶色い髪が夕暮れ時の陽を受けて輝いていた。
「僕はキリト。あの、助けてくれてありがとう。連れはいないんだ。一人で旅してる。」
それを聞くとレイルは眉を顰めた。緑色の目がわずかに濃い色に変わる。
「その軽装でか?どこまで行く?」
聞かれたキリトがイズノールまでだと答えると、レイルは目を見開いた。
「奇遇だな。俺もだ。」
レイルは傭兵を生業にしていて26歳だと言った。イズノールで人と会う約束があって向かう途中、近道をしようと森を歩いていたところ、キリトの助けを呼ぶ声が聞こえたのだという。
「イズノールまで俺を雇わないか。と言っても金は要らない。ちょうど護衛する相手を探していたんだ。」
と言うとレイルは白い歯を見せて微笑んだ。そうやって笑うと王子様みたいだ、とまだ収まりきらない動悸に胸を押さえながらキリトは思ったのだった。
間もなく誰かが魔狼に襲われているのが見えた。二頭、三頭。と数えながら唸り声を上げて魔狼に切り掛かる。倒れている人に喰いつこうとしている一際大きな一頭を横薙ぎに斬り倒す。二頭目は、と次の魔狼に目をやるともう一頭と共に尻尾を巻いて退散していくところだった。
********
黒髪はこの辺りでは珍しい、ということをキリトは街道に出てから思い出した。時折道ゆく人の視線をちらちらと感じるのである。ロベルトと暮らしていた時は近くの集落との交流さえほとんど絶っていたため気にしていなかった。
居心地の悪さを感じて街道に沿って行くのを止め、森の中を通ることにしたのだが、それが悪かった。森に入って半日も歩かないうちに、気づいたら魔狼に囲まれていたのだった。
「ひ...誰か...誰か助けて」
逃げようと後ずさるが魔狼に飛びかかられて地面に這いつくばる。魔狼の荒い息遣いがすぐ直近に迫り、生臭い息が顔にかかる。
もうだめだと息を詰めたその時、唸り声と共にヒュンと風が鳴ったと思ったら魔狼が鈍い音を立てて倒れた。一瞬の出来事だった。
「連れは?はぐれたのか?」
キリトがバクバクする心臓を宥めながらどうにか身を起こすと、そう声を掛けられた。
顔を上げると長剣についた血を一振りして鞘に納める男と目が合った。
「怪我はないようだな、俺の名前はレイル」
鍛え上げた腕を差し出して軽々とキリトを助け起こしてくれた。
レイルと名乗った男は見上げる程の長身に軽量の革鎧をつけている。茶色い髪が夕暮れ時の陽を受けて輝いていた。
「僕はキリト。あの、助けてくれてありがとう。連れはいないんだ。一人で旅してる。」
それを聞くとレイルは眉を顰めた。緑色の目がわずかに濃い色に変わる。
「その軽装でか?どこまで行く?」
聞かれたキリトがイズノールまでだと答えると、レイルは目を見開いた。
「奇遇だな。俺もだ。」
レイルは傭兵を生業にしていて26歳だと言った。イズノールで人と会う約束があって向かう途中、近道をしようと森を歩いていたところ、キリトの助けを呼ぶ声が聞こえたのだという。
「イズノールまで俺を雇わないか。と言っても金は要らない。ちょうど護衛する相手を探していたんだ。」
と言うとレイルは白い歯を見せて微笑んだ。そうやって笑うと王子様みたいだ、とまだ収まりきらない動悸に胸を押さえながらキリトは思ったのだった。
60
あなたにおすすめの小説
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
青い薔薇と金色の牡丹【BL】
水月 花音
BL
ある日、異世界で目覚めた主人公。
通じる言葉、使える魔法…
なぜ自分はここに来たのか。訳がわからないまま、時間は過ぎていく。
最後に待ち受ける結末とは…
王子様系攻め×綺麗系受け
撫子の華が咲く
茉莉花 香乃
BL
時は平安、とあるお屋敷で高貴な姫様に仕えていた。姫様は身分は高くとも生活は苦しかった
ある日、しばらく援助もしてくれなかった姫様の父君が屋敷に来いと言う。嫌がった姫様の代わりに父君の屋敷に行くことになってしまった……
他サイトにも公開しています
【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!
天白
BL
【あらすじ】バース性診断にてΩと判明した青年・田井中圭介は将来を悲観し、生きる意味を見出せずにいた。そんな圭介を憐れに思った曾祖父の陸郎が彼と家族を引き離すように命じ、圭介は父から紹介されたαの男・里中宗佑の下へ預けられることになる。
顔も見知らぬ男の下へ行くことをしぶしぶ承諾した圭介だったが、陸郎の危篤に何かが目覚めてしまったのか、前世の記憶が甦った。
「田井中圭介。十八歳。Ω。それから現当主である田井中陸郎の母であり、今日まで田井中家で語り継がれてきただろう、不幸で不憫でかわいそ~なΩこと田井中恵の生まれ変わりだ。改めてよろしくな!」
これは肝っ玉母ちゃん(♂)だった前世の記憶を持ちつつも獣人が苦手なΩの青年と、紳士で一途なスパダリ獣人αが小さなキセキを起こすまでのお話。
※オメガバースもの。拙作「生まれ変わりΩはキセキを起こす」のリメイク作品です。登場人物の設定、文体、内容等が大きく変わっております。アルファポリス版としてお楽しみください。
【完結】好きじゃないけど、付き合ってみる?
海野雫
BL
大学3年の直人(なおと)は、恋愛経験ゼロ。人付き合いは苦手ではないが、誰かを「好きになる」感情がよくわからない。付き合ってる友人たちを見ても、自分には縁のない話だと思っていた。
ある日、部活の後輩である健(けん)が「一緒にルームシェアしませんか?」と持ちかけてくる。引っ越しを考えていた直人は、悪くない条件にOKを出し、ふたりの同居生活が始まる。
快適すぎる日々。健は料理も掃除もできて、適度に距離を保ってくれる最高のルームメイト。
しかしある夜、健がポツリと呟く。
「……元カレ、まだ忘れられないんです」
「ねえ先輩。付き合ってみませんか?――“好きじゃなくてもいいから”」
からかわれていると思いながらも、冗談めかして了承してしまう直人。
それが、まさかの擬似恋人生活の始まりだった。
恋人ごっこなのに手をつないだり、映画を観に行ったり、肩を貸したり。
最初はただの遊びだったのに、直人はだんだん健が笑うと嬉しくて、泣くと苦しいと感じるようになっていく。
一方、健は「直人に本気になってはいけない」と自分に言い聞かせていたが、直人の優しさや真面目さに、次第に惹かれ始める。
擬似恋人から始まった関係は、本物の「好き」に変わるのか?
本気になったとき、ふたりはどう答えを出すのか――。
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
神様は僕に笑ってくれない
一片澪
BL
――高宮 恭一は手料理が食べられない。
それは、幸せだった頃の記憶と直結するからだ。
過去のトラウマから地元を切り捨て、一人で暮らしていた恭一はある日体調を崩し道端でしゃがみ込んだ所を喫茶店のオーナー李壱に助けられる。
その事をきっかけに二人は知り合い、李壱の持つ独特の空気感に恭一はゆっくりと自覚無く惹かれ優しく癒されていく。
初期愛情度は見せていないだけで攻め→→→(←?)受けです。
※元外資系エリート現喫茶店オーナーの口調だけオネェ攻め×過去のトラウマから手料理が食べられなくなったちょっと卑屈な受けの恋から愛になるお話。
※最初だけシリアスぶっていますが必ずハッピーエンドになります。
※基本的に穏やかな流れでゆっくりと進む平和なお話です。
おれより先に死んでください
星寝むぎ
BL
あらすじ:
恋人にフラれた美容師の恭生は、久しぶりに祖父の夢を見た。祖母が亡くなって見送った日の記憶だ。
『恭生、俺はばあさんが先に死んでよかったよ』
なぜそんな恐ろしいことを言ったのだろう……傷心と苦い記憶で沈む恭生に、年下の幼なじみ・大学生の朝陽がとある提案をする。
恋人(仮)になってみないか、と。
朝陽は自分を嫌っているはずなのになぜ? 恭生は訝しむが、自分と恋人(仮)になれば祖父の言葉の真意が理解できると朝陽は言う。戸惑いつつも、朝陽を弟のように可愛がってきた恭生はその提案に乗ることにする――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる