青春なんて要らないのに

紐下 育

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April

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んっ…

見知らぬ天井と、ふかふかのベッド。
そうだ、先生の家で寝ちゃったんだ…

「起きたかな?おはよう」
声のした方に目をやると、パジャマ姿の先生がいた。
ノーセットの先生、かっこいいなぁ…

「ゆうは朝ごはん何がいい~?」

ん。ん…?
なんで先生俺のことゆう呼びしてるの…?家族にしか呼ばれたことないからむずむずする。
ぼやぁぁっとした頭で考える。そういえば、昨日の夜そんな話してたような…?

「ゆう~?あれ、まだ寝ぼけてるかな?」

先生が俺の方に近づいてくる。
はっとして、慌てて答えた。

「なんでも大丈夫です」

俺の顔を覗き込むくらいの距離まで来た先生が、にこっと笑う。

「そっかぁ、あ、そうだ。ハンバーガーとかどう?買ってくるよ?」

えええ、憧れてたやつ!俺の実家の近くにはあんまりファストフード店がなかったから、こういう食事は新鮮でうれしい。

「それにします!」
「よかった、じゃあ買ってくるね」

俺が食い気味に返事をしたことに先生は驚いたみたいだ。でもよかった。

…ここで俺は問題に気付いた。これ、先生をパシリにしてるってことになるよな…?

「あ、先生、俺も行きます」

慌てて付け加えたけど、先生はそれを遮ってこう言った。

「いや、僕が行くよ。こんなこと言ったら格好悪いけど、こんなかわいい君を一人で外に出したくないんだ。僕からのわがままだと思って、いい子でお留守番してて?」

んんんん…いろいろ気になるけど、返す言葉が見つからない。

俺があたふたしているうちに、先生は買いに出かけてしまった。帰ってきたらいっぱいお礼言おう、と考えて、もう一度ベッドに横になった。
どのくらい時間が経ったのかはわからない。ふと俺の中に疑問が浮かんだ。

…先生、どこで寝たんだろう。玄関にあった靴の数からして、たぶん先生は一人暮らしだ。たぶん。人と一緒に住んでる家に知らない学生連れて帰らないだろうとも思うし。普通に考えてそうだよな。
ってことはベッドも一つしかないはずだ。このでっかいふかふかのベッドしか。
でも俺はそのベッドに寝てた…ん?先生はどっか別のところで寝たのか?
こんなでっかいベッド、占領してたの申し訳なさすぎる。…もしかして、先生俺の隣で寝てた?
距離感近い先生だから、あり得る気もする。ベッドに寝たまま少し横にずれて、シーツに顔をうずめてみる。先生の匂いがする。ベッドの、柔軟剤の匂いじゃない。先生の匂い。一昨日も寝てたなら普通に匂いがついてても不思議じゃないと思うけど、一人で寝るのならこんな端っこに寝たりしないはずだ。もしかして、先生と同じベッドで寝たのか…?

「あれ、なに可愛いことしてるの?」
え…?先生の声が聞こえた気がする。まさか。

「シーツに顔うずめちゃって、どうした?寂しくなっちゃった?」

顔が真っ赤になってる気がする。耳も熱い。

「ゆう~?」

羞恥心でフリーズしている俺に、先生は声をかけ続ける。

「こっち向いてよ~」
「ゆう~?」
「ねえねえ」

恥ずかしい。穴があったら入りたい。

「えいっ」

いきなり、ぐいっと体が持ち上がった。

「ふふ、顔真っ赤だよ?恥ずかしくなっちゃった?」

恥ずかしいってわかってるなら、あえて顔見なくてもいいじゃないか。イケメンの前で紅潮した一般人の寝起き顔晒すのだって恥ずかしいんだから。

「ご飯、ありがとうございます」

ご飯買ってきてもらったお礼がまだだったと思って、慌ててお礼を言った。恥ずかしさを紛らわせたかったというのも、実はちょっとある。でも絶対変なタイミングだった。

「何してたかはあとで聞くとして。朝ごはん、冷めないうちに食べようか。」

あとででも聞かないでほしい。記憶から抹消してほしいくらいだ。
朝ごはんの時は、先生は特に何も言ってこなかった。ちょっと安心。ハンバーガーに食らいつくのに必死だったから、お互い余裕もなかったんだ。

俺より先に食べ終わった先生が、ごちそうさま、とつぶやいた。こういう律儀なところ、本当に好きだな。

「先生のこういう律儀なところ、すごい好きです。」

あれ、口に出てた…?

「ほんと?無意識だったけど、ゆうにそんなこと言われたらこれから意識しちゃうな。ありがとう。」

「今日、一緒にどこか出かける?それともお家でまったりする?」

俺も食べ終わったところで、先生が聞いてきた。
人ごみそんなに好きじゃないし、五日間大学に通い詰めたから疲れてるのもある。先生の家が大学からどのくらい離れてるのかもわからないけど、もし学生に見つかったら驚かれるだろうし。

「お家でまったりさせてもらってもいいですか?」
「わかった。じゃあ、今日は僕の家を案内しつつ、二人でゆっくりしようか。」

お泊まり二日目の予定が決まった。


…俺、明日どうするんだろう。今日の夜も先生の家に泊まらせてもらうのかな?
月曜日の大学に持っていく教科書とか準備しなくちゃだから、一度家に帰らなくちゃいけないんだけど…。

この後、先生がソファーで寝てたことを知って土下座したいほど申し訳なくなったのはまた別の話。
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