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December
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「あ、」
さっきの女の子。学食に入ろうとしているところで目が合った。
大学の学食はこの建物しかないし、彼女がここにいたところで不思議ではない。でも、さっき会ったばかりっていうのもあって、なんて声を掛けたらいいかわからない。
おう、とか、よ、とか、そういう軽いノリは俺にも彼女にも合わない気がする。だからといってこんにちはって言うのは違う。さっき話してるし。
「またね」?今目が合ったのに別れの挨拶するのも冷たいよな。
「学食食べるの」?そりゃそうだろ、学食に向かってるんだから。
頭に浮かんだ言葉は次から次へと消去されていって、結局、ただの会釈にとどまった。
向こうはそんな俺をみてちょっと笑って、広瀬と同じところへと消えて行った。
その方向をじっと見つめていると、広瀬が戻ってきた。
「今誰かと喋ってなかった?え、誰?」
おまたせ、とかただいま、とか言う前に興奮気味で詰め寄ってくる広瀬に、思わず苦笑する。
「見てたんかい。でも別に喋ってはない。会釈しただけ。」
「え、なにそれ!目だけで相手のことわかっちゃう系のコミュニケーション?」
何を言っているんだろうか。手におにぎりを持って飛び跳ねるもんだから、この空間だけ偏差値がどんどん下がっていく。
「やめろ。おにぎり冷めるぞ。」
「だって!あの永瀬がだよ!?相手女子っぽかったし!」
「だからなんだよ、別にそういう関係じゃないからな。」
これ以上広瀬を興奮させると学食の列の方に丸聞こえになりそう。
そう思った俺は、広瀬の手を取ってそれとなく歩きだした。
「いつも食べてるとこってどこ?」
「こっち!」
広瀬らしからぬ、暗い木の茂った方へと歩いていく。
「ぶっちゃけさ」
誰もいないのを見計らって、広瀬が小声で切り出す。
「ん?」
「永瀬は恋愛とか興味ないの?」
「…は?」
「そんな驚く?別に普通の会話だろ」
「いや…まぁ、そうなんだけど」
恋愛、興味がないと言ったら嘘になる。
そう言おうとして、その恋愛は先生のみを対象にしていることに気づいてしまった。
先生以外とずっと一緒にいるなんて、こんなにも心動かされて苦しくなるなんて、そんなの面倒でしかない。
「広瀬は?興味ないの?」
「めちゃくちゃあるよ、当たり前だろ」
「彼女いないの?」
「いない。こないだ別れた。」
「えっ、今までいたの?」
「うん。」
「えぇ…知らなかったんだけど。」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてない。」
「なんか、みんな平等って感じがヤなんだって。」
「どういうこと?」
「彼女なのに、特別扱いされてない感じがするって。」
「あー」
心当たりは、ある。
授業中、みんなの方を向いてしゃべる先生に悲しくなったり、他の学生と喋ってるのを見て苦しくなったり。
みんなに人気の広瀬は、恋人にしたら苦しくなるよな。
「でもさ、あんまりべたべたされるのも嫌だろ?恋愛って理不尽だよな」
「まぁ、確かにな。」
広瀬の話が、全部俺に突き刺さってくる。
特別扱いされたら嬉しい。でも、学校でも平気であだ名呼びされたり、えこひいきされたりしても嬉しくない。
自分のわがままさに、勝手に打ちひしがれる。
「その感じ、永瀬も恋してるな?」
「は?」
完全に自分事みたいに聞いてたもん、と笑う広瀬がいろんな意味で同い年とは思えなくて、俺は思わず下を向いた。
さっきの女の子。学食に入ろうとしているところで目が合った。
大学の学食はこの建物しかないし、彼女がここにいたところで不思議ではない。でも、さっき会ったばかりっていうのもあって、なんて声を掛けたらいいかわからない。
おう、とか、よ、とか、そういう軽いノリは俺にも彼女にも合わない気がする。だからといってこんにちはって言うのは違う。さっき話してるし。
「またね」?今目が合ったのに別れの挨拶するのも冷たいよな。
「学食食べるの」?そりゃそうだろ、学食に向かってるんだから。
頭に浮かんだ言葉は次から次へと消去されていって、結局、ただの会釈にとどまった。
向こうはそんな俺をみてちょっと笑って、広瀬と同じところへと消えて行った。
その方向をじっと見つめていると、広瀬が戻ってきた。
「今誰かと喋ってなかった?え、誰?」
おまたせ、とかただいま、とか言う前に興奮気味で詰め寄ってくる広瀬に、思わず苦笑する。
「見てたんかい。でも別に喋ってはない。会釈しただけ。」
「え、なにそれ!目だけで相手のことわかっちゃう系のコミュニケーション?」
何を言っているんだろうか。手におにぎりを持って飛び跳ねるもんだから、この空間だけ偏差値がどんどん下がっていく。
「やめろ。おにぎり冷めるぞ。」
「だって!あの永瀬がだよ!?相手女子っぽかったし!」
「だからなんだよ、別にそういう関係じゃないからな。」
これ以上広瀬を興奮させると学食の列の方に丸聞こえになりそう。
そう思った俺は、広瀬の手を取ってそれとなく歩きだした。
「いつも食べてるとこってどこ?」
「こっち!」
広瀬らしからぬ、暗い木の茂った方へと歩いていく。
「ぶっちゃけさ」
誰もいないのを見計らって、広瀬が小声で切り出す。
「ん?」
「永瀬は恋愛とか興味ないの?」
「…は?」
「そんな驚く?別に普通の会話だろ」
「いや…まぁ、そうなんだけど」
恋愛、興味がないと言ったら嘘になる。
そう言おうとして、その恋愛は先生のみを対象にしていることに気づいてしまった。
先生以外とずっと一緒にいるなんて、こんなにも心動かされて苦しくなるなんて、そんなの面倒でしかない。
「広瀬は?興味ないの?」
「めちゃくちゃあるよ、当たり前だろ」
「彼女いないの?」
「いない。こないだ別れた。」
「えっ、今までいたの?」
「うん。」
「えぇ…知らなかったんだけど。」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてない。」
「なんか、みんな平等って感じがヤなんだって。」
「どういうこと?」
「彼女なのに、特別扱いされてない感じがするって。」
「あー」
心当たりは、ある。
授業中、みんなの方を向いてしゃべる先生に悲しくなったり、他の学生と喋ってるのを見て苦しくなったり。
みんなに人気の広瀬は、恋人にしたら苦しくなるよな。
「でもさ、あんまりべたべたされるのも嫌だろ?恋愛って理不尽だよな」
「まぁ、確かにな。」
広瀬の話が、全部俺に突き刺さってくる。
特別扱いされたら嬉しい。でも、学校でも平気であだ名呼びされたり、えこひいきされたりしても嬉しくない。
自分のわがままさに、勝手に打ちひしがれる。
「その感じ、永瀬も恋してるな?」
「は?」
完全に自分事みたいに聞いてたもん、と笑う広瀬がいろんな意味で同い年とは思えなくて、俺は思わず下を向いた。
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