青春なんて要らないのに

January

134

三時間の手伝いが終わった。
こんなにのどかな場所に三時間もいるなんて久しぶりで、疲れたけどリフレッシュできた感じがする。広瀬も一緒にやるのかと思ってたけど、藤原さんに「お前は課題やっとけ」って言われてお家の方に戻って行っちゃった。そりゃそうか。
広瀬は好きなタイミングで手伝えるだろうし、俺みたいに手取り足取り教えてもらわなくても大丈夫だもんね。毎日、こんなに自然に近い場所にいられるの、いいなぁ。

「学校での北斗はどうだ？家の北斗とはまた違うかな？」
俺が作業に慣れてくると、ちょっと余裕が出てきて、藤原さんと会話したりもできるようになった。
「そうですね…あんまり、変わらないです。そういう裏表のなさが、彼の魅力だと思いますし。」
「そうかい。あいつにも永瀬君みたいな素晴らしい友達ができていたのかと思うと、少し安心だよ。」
「広瀬君はいつも友達に囲まれてて、俺の方がお世話になってるんです。大学で初めてできた友達が広瀬君なので。」
「そうなのかっ？」
収穫の手を止めて、藤原さんが大げさに驚いてみせる。
「はい。俺は結構人見知りというか、友達作り苦手で…。広瀬君きっかけで友達の輪が広がったんです。本当に、感謝してます。」
「こりゃたまげたなぁ。あいつがそんなことするなんてな。」
「え？」
「基本的にあいつは人見知りなんだよ。明るく振舞ってるように見えて、実は友達付き合いで悩んだりもしててな。そもそも内部進学したのだって、せっかくできた友達と離れるのも、新しい友達を作るのも嫌だからって理由でさ。俺としては、もっとちゃんとした理由で進路選択してほしかったなって思いもあるんだけどな。エスカレーター式だからそりゃあ、友達はいるだろうけど。ずっと同じ高校出身の子たちと一緒にいて、友達の輪を広げたりできないんじゃないかって、俺もあいつの母さんも心配してたんだよ。」
「ええ！？」
「そうかぁ…。よっぽど、永瀬君と友達になりたかったんだな。」

農園から見える広い空を眺めて、藤原さんがしみじみとつぶやく。

「いやいや、そんな。人見知り克服しようとして、広瀬君が頑張ったんだと思います。」
「いまだに、北斗の口から永瀬君以外の新しい友達の話をされることはないよ。きっと永瀬君は、あいつにとって特別な友達なんだな。」

なんか、胸の少し下のあたりがぐわっと熱くなった。恥ずかしいやら嬉しいやらで。
その時、広瀬が窓から顔を出した。

「おーい、二人してさぼらないでくださーい」
一人だけ課題をやらされたことが不満なのか、ちょっと拗ねてる永瀬。
この話は内緒な、って藤原さんがお茶目に笑う。
「はいっ」
俺も小声で答えた。

「北斗は課題終わったのかー？」
「わかんないとこあるからあとで永瀬に聞くー！」
「まったく。」
二階の窓とその横にある農園とで叫びながら会話する二人が、本当に祖父と孫って感じでほほえましかった。