隠し称号『追放されし者』が欲しい勇者はパーティーみんなに引き留められる(なおそんな称号はない)

なつのさんち

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07:第一王女と次期侯爵

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「よく戻られました、勇者シオンご一行。この度はどのような目的で帰還されたのです?」

 王城の応接室。王族と比較的近しい間柄の者との面会の際に使われる部屋で、リヴェルとシオンが対面に配された一人掛けのソファーに。その他三人はその後ろにある椅子に腰掛けている。

(自分が呼び付けておいてよく言うぜ)

 セーナは王侯貴族の上辺だけの会話に慣れないままだ。レリックは薄らと笑みを浮かべて無言を貫いている。ウィザリーはいつも通り無口無表情だが、視線はじっとリヴェルを見つめている。

「ご機嫌麗しゅう、レヴェル殿下。今回は少し事情がございまして……。
 一つ、殿下に我が願いを聞いて頂きたいのですが」

「まぁ! 勇者シオンからのお願い事ですの? 私に聞き届ける事が出来る内容かしら……」

 シオンは侯爵家令息として、レヴェルは王女として。それぞれ物心付く前からしっかりと礼儀作法を叩き込まれている。例えわがままなお姫様だとて、時と場合は弁えているのだ。

「はい、実は……」

 シオンは勇者として、ドラゴン程度一人で倒せなければならないのだとリヴェル相手に力説する。しかし今の自分では倒す事は出来ても、一人でそれを成すには至らなかった事を説明する。
 そこで、もっと強くなる方法を。もしくはドラゴンの弱点や戦い方に関する情報を得たい事を告げる。

「そうですの、ドラゴンを。
 もしかすると、宝物庫内の書庫に何かお役に立てる書物があるかもしれませんわね」

「本当ですか! 殿下、もしよろしければ私を宝物庫へ連れて行って下さいませんか?」

「私の一存では決めかねますゆえ、少しお時間を下さいませ。陛下に確認致しましょう」

 リヴェルが合図をし、控えていた侍女が応接室から出て行った。

(ったく、白々しい会話だ事。でもシオン、なかなか様になってるじゃねぇか。さっすがお貴族様だぜ)

 セーナが一人ニヨニヨと鼻の下を伸ばしている間に、侍女が応接室へ戻って来てリヴェルに耳打ちをする。

「そうですの、許可が」

 もちろん許可自体は前もって父親である国王から得ている。こういった演出さえも王族としての務めの一つなのだ。このような面倒事もそつなくこなす事が出来るという点も、リヴェルがわがままなお姫様のままでいさせてもらえる理由の一つだ。

「勇者シオン、陛下から許可が得られました。ですが、宝物庫へ入る事が出来るのはシオンのみとさせて頂きますわ」

 このような会話を経て、シオンはリヴェルの案内で宝物庫へ入る事になった。


 侍女の案内で宝物庫へ向かうシオン。レリックとセーナ、そしてウィザリーは応接室に残された。
 王城の廊下を二人が歩くと、皆が端により一様に頭を下げる。老人、青年、壮年、様々な年代の者達は上質な衣服を纏った貴族ばかり。
 第一王女はもちろんの事、当代勇者の称号は並の貴族位よりも尊い。レオーネ王国内のみではあるが、子爵に準ずる地位を与えられている。

「着きました。鍵を開けます」

 先導していた侍女が宝物庫入口の鍵を開けると、宝物庫を警備していた兵士が重い石扉を開けた。

「では参りましょうか」

 リヴェルが左手を出すと、シオンが右手でそっと触れた。形式上付き添いという事になっている為、エスコートを求めたのだ。
 宝物庫の中は吹き抜けで上下階層に分れている。色とりどりの芸術品や宝石が飾られ、そしてシオンが求める書物も納められている。言わば美術館と図書館を合わせたような場所だ。

「石扉が閉まりました」

 侍女がそう告げると、リヴェルが左手をグイッと引いてシオンを抱き寄せる。

「あぁシオン様! お会いしとうございましたわ!!」

「僕もだよ、リヴェル」

 宝物庫にはシオンとリヴェル、そして侍女の三人しかいない。親しい人間と親しげに話すのも、王族としては時と場合を選ぶものだ。

「もう旅などお止めになって王都にいてくださいまし! 私はシオン様がご無事かどうか不安で眠れぬ夜を過ごしておりますわ……」

「そうなの? ごめんね、リヴェルが心配にならないくらい僕が強かったらいいんだけど」

 シオンはポンポンとリヴェルの頭を優しく撫でる。

(いえそうじゃない、そうじゃないのです……)

 シオンは貴族としてのコミュニケーションは取れるのだが、相手の真意を見抜く力には欠けていた。いわゆる天然である。
 王女と次期侯爵であるが、二人は幼馴染み。自らの立場と役割を理解するよりも前に得ていた心を許せる相手なのだ。

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