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26:旅の終わり
しおりを挟む「お前はスキルを持っている」
テーヴァスはシオンを執務室へ招き、真実を告げる事にした。
「……どういう事でしょうか」
侯爵家当主である父親の執務室に呼び出されたシオンは、この会話が公式的なものであると捉えて貴族子女に相応しい態度で背筋をピンと伸ばしてソファーに掛けている。
「実は、お前がスキルを所持していると分かったのは、お前が勇者として旅に出た後なのだ。レリックから報告を受けてな」
レリックとたびたび会って話を聞いている事を、テーヴァスはシオンに伝えていなかった。勇者として旅立ったからには、表立っては一人の冒険者として接してやるべきだと思ったからだ。
シオンはレリックとテーヴァスが繋がっていた事を知り、その表情を曇らせた。
「そうだったのですか。
……それで、僕のスキルって何なの? 全く自覚がないんだけど」
「あぁ、お前のスキルはパーティーメンバーに働きかけるものだ。私のスキルのように自分や仲間を転移させたり、お前のお爺様のように無限に魔法を使えるような派手なものではないんだよ」
先代勇者テーヴァスのスキルは転移。一度行った事のある場所へテレポートする事が出来るスキル。
先々代勇者セネリスは魔力を用いずに魔法を繰り出す事の出来るスキル。
どちらも自身に働きかけるスキルだが、シオンのスキルはそうではない。
「お前のスキルは、パーティーメンバーの能力を大幅に向上させるというものだ。
レリックとセーナとウィザリーはお前と旅をするようになって、自分の能力が上昇している事に気付いた。ただでさえ強かった三人だが、お前と一緒にいればさらに力を発揮出来るようになったそうだ」
「仲間の強くするスキル……」
自分では感じる事の出来ない力だからか、納得出来ない表情のシオン。
「お前に伝えなかった理由だが、その力を悪用する者の事を恐れた為だ。お前が仲間であると認識するだけで、その者の力が大幅に上昇する。
お前を騙して近付いて、お前に仲間だと認識されるだけで能力が向上するのだ。危険な力だと思わないか?」
「……それでスーは精霊様を具現化出来るようになったという事か」
「その通りだ」
シオンは今朝の一件があった為に、テーヴァスがスキルの話を打ち明けたのだと気付いたようだ。
「あれ? でも、となるとリヴェルの言っていた事って……」
シオンはリヴェルの話していた“追放されし者”について考える。あの話は一体何だったのだろうか、と。
「殿下がどうかしたのか?」
「リヴェルが……、スキルが手に入る条件があるって言ってたんだ」
“追放されし者”の事はボカしつつ、テーヴァスにリヴェルとの会話を説明する。
「初代勇者エストは一人で魔王を倒した訳ではないぞ? ちゃんと旅の仲間がいた。
例え“追放されし者”なんていう称号があったとして、その称号があったら何になると言うのだ?
お前は勇者に選ばれてから、特別強くなったと感じたか?」
「そう言われればそうだね」
シオンはすでに勇者という称号を得ている。称号とは言わば、立場を明確にする為のものであり、父親であれば侯爵、リヴェルであれば第一王女と言ったように、その人の身分などを称する呼び方のようなものだ。
それがあるからといって、急に強くなったり魔法が使えるようになったりなどしないのだ。
シオンは当たり前の事に気付かなかった、という少し恥ずかし気な表情でテーヴァスを見る。
「それでだ、シオン。お前の旅はもう終わりだ」
「えぇ!? 何で急にそうなるの? 僕はもっと強くならないとダメなんだよ!?」
「お前はアルジャンを倒し、一人でウォータードラゴンを倒す一歩手前まで追い詰める事が出来る実力がある。
魔物を倒しに出掛けなくとも、この王都周辺で出来る事があるはずだ」
「でも……」
「良いか、シオン。お前はまだ十歳だ。歴代勇者に比べて任命するのが少し早いくらいだったが、お前はその期待に沿って実力を上げて戻って来た。
これからは剣だけでなく内面を鍛えなくてはならない。ただでさえお前のスキルは扱いが難しい。妹の力を強化するだけならいいが、敵だとは知らず魔族の力を強化してしまうような事にならんとも限らん」
テーヴァスの説明を受けて、シオンはその表情をこわばらせる。
「そういう事だ。お前にはまた家庭教師を付ける。悪意を見抜く訓練や情に流されず正しい判断が出来るよう様々な勉強をしてもらう」
「あの、三人とはもうお別れになるの?」
「いや、あの三人はあくまで勇者パーティーとしてこの屋敷に滞在させる。そしてお前はあの三人だけが仲間であると思い込む訓練をするように」
むやみに仲間を増やしてしまうと、シオンのスキルで能力を強化される人間が増えてしまうからだ。
「分かった。これも勇者としての務めという事だね。
でもちょっと待って、お父様の転移スキルを強化出来れば、魔王城まで転移する事が出来るんじゃない?」
「……いや、不必要に魔族を刺激するような事はしてはならん。魔王さえ倒せばいいというものではないのだ。
あちらも国があり、私達と同じように民が暮らしている。あくまで私達は、魔族が攻めて来たら追い返せるよう準備をしておくだけだ。
そのあたりの説明も、時間を掛けてじっくりとしていこう」
「そうなんだね、分かったよ」
こうしてシオンの旅は終わったのだった。
シオンの噂を聞いて魔王が自ら訪ねて来る事になるのだが、それはまた別のお話し。
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