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“ピンポーン”
しおりを挟むインターホンから目を離すと、iPhoneからフォロワーの叫び声が聞こえて来た。
「え、何? めっちゃ怖いんだが」
『怖いなんてもんじゃないよ、ヤバイって!』
インターホンの対応に追われている間、フォロワーは録音内容を聞きっぱなしだった。そのタイミングで何か異変があったという事か。
『少し戻してみて、とりあえず二分くらい!』
言われた通り二分ほど巻き戻す。相変わらず大きないびきが聞こえる。
“ピンポーン”
いや、部屋間違えてますよ。
≪フリーランスでー、自宅で仕事しててー、例え働く時間が自由に決められてもー、疲れちゃうのは仕方ないよねー≫
あれ? ミユキに仕事の話した事あったっけ?
≪年収一千万も稼ぐのはー、大変なんだよねー?≫
ミユキに話したかどうか覚えていないが、寝落ち通話相手に限らず仕事の話をするのは珍しい事じゃない。
けれど、年収の話を自分からしたとは思えないが……。
≪がー ぐごご がー ぴゅすぴー≫
ミユキに話し掛けられている俺は、変わらずいびきをかいてぐっすりと眠っている。
≪ねー、中田史郎さん≫
名前を呼ばれた瞬間、あれだけうるさく響いていたいびきがピタっと止まる。
そして、俺の心臓がビクンと大きく反応する。
「何で、名前……?」
『やっぱ本名教えてないよね? Amazonで物を送った事は?』
「いや、ない……」
イタズラ感覚でフォロワーにカラーコーンを送った時に、住所と共にバレた経緯がある。でも、ミユキとはそんなやり取りはしていない。
何故ミユキが俺の本名を知っている……?
≪アナタの名前は?≫
≪……なかたしろう≫
≪私の名前は?≫
≪……ミユキ≫
「会話してる!?」
『黙って! この後だから!!』
≪じゃあー≫
一瞬の間が空いて。
≪ワタシの名前は?≫
……!?
『これシロさんの声だよね?』
「俺の声だけど、喋ってるのは俺じゃない……」
会話を覚えている訳ではないが、音声の聞こえ方からして向こうから発せられた声である事は分かる。
≪……なかた、しろう≫
≪良く出来ましたー。十秒かー、ようやくすんなり受け入れてくれるようになったねー≫
声は俺のものだけど、喋り方はミユキの口調。息をするととても冷たい空気を吸い込んだような痛みを感じる。
『これって催眠術的な何かなんじゃない? ようやくすんなりとか言っているって事は、今回が初めてじゃないって事でしょ?』
“ピンポーン”
チャイムの音が頭に鋭く響く。
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