転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界に彩りを

なつのさんち

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第一章:土下座女と男装の麗人(男)

黒塗りのバン、護衛を二人添えて

 さぁさぁと促し、ママさんは二人を喫茶店の裏口へと案内する。
 従業員が使うであろう勝手戸を守るかのように、両側に黒服サングラス姿のお姉さんが二人、待機していた。
 片耳にインカムまで仕込まれているのを見て、伊吹はSPみたいなものかなと思った。

「悪いようにはしないよ。
 だから、突っ走りがちなうちの姪の事もよろしく頼むよ」

「分かりました、コーヒーご馳走様でした」

 何やら話が通じ合っている様子のママさんと伊吹を見て、何ナニどういう事何が起こっているのと騒々しい藍子。
 そんな藍子の腕を取って歩き出す黒服のお姉さんその一。

「何するんですか!?
 って、小杉さん。あれ? そちらは栗田さん。何でこんなところに?」

「ささっ、お嬢様。車までご案内致します。
 ご希望であれば昔のようにお姫様抱っこでお連れしますが?」

「ちょちょちょちょっと!
 歩く、歩きますから!!」

 周囲の状況を確認しながら歩き出す栗田に付き添われ、伊吹も喫茶店を後にする。
 ちらりと振り返ると、ママさんはまだ裏口に立っており、こちらを見送っているのが見えた。

 路地を出てすぐ、ハザードランプを点滅させている黒塗りのバンのスライドドアが自動で開かれる。
 立ち止まらずに乗り込む四人。

「追跡者見られず、車を出して」

 物々しい雰囲気を醸し出す車内ではあるが、藍子はバンの運転手も昔馴染みである若村だった事で緊張感のカケラもなくお姉さん達に話し掛けている。

 対して伊吹の表情は固く、何やら思い込んでいるように見て取れる。小杉は自分達が与えているであろう威圧感を少しでも和らげるべく話し掛ける。

「ご安心下さい、必ず無事にお嬢様の事務所へお連れ致しますので」

「ん? あぁ、別に不安に思っている訳じゃないですよ。
 ただ、藍子さんと同じくらい、僕も楽観的に考え過ぎていたかなと反省していたんです」

 男が一人、街をうろつく。
 この世界の現代では考えられない事。何が起こってもおかしくない。
 危機感がなさ過ぎる。ママさんから言外に注意を受けた事を理解した伊吹は、世話を焼いてくれたママさんや駆けつけてくれた黒服のお姉さん達に対して申し訳ない気持ちを抱えていた。

 そんな伊吹に対して、小杉は肯定する事も否定する事も出来ずにいると、ちょうど目的地である藍子の事務所が入っているビルの前へと到着した。
 すでにビルの周りは私服姿で巡回警備しているお姉さん達で固められていると教えられる。

 これは大ごとになってしまったな、とさらに肝を冷やす伊吹。
 バンのスライドドアが開けられ、車から降りると立ち止まらないよう指示されそのままビルへと入る。
 それほど大きなビルではなく、エレベーターの階数表示は一階から六階まで。
 一階はエントランスと管理人室のみ。エレベーター前で待機していた警備員の恰好をしたお姉さん(藍子曰く佐井さん)がボタンを押して、エレベーターの扉が開く。
 藍子が六階のボタンを押して、ゆっくりと扉が閉まりエレベーターが上へと動き出した。

「何か宮坂みやさか警備保障の最大防衛力って感じね。自分が宮坂家当主になった気分だよ。
 でも何でこんなに仰々しい感じになってるの?」

 現在の宮坂家当主は藍子の実の父親であり、ママさんの旦那さんでもある。
 つまり、藍子は無意識に現在の状況を正確に把握していた事となる。

 護衛として控えている二人は無表情で無反応を貫いている。
 伊吹はここで打ち明けておくか、と藍子へ向き直る。

「藍子さん、お手をお借りしても?」

 藍子はどうぞ、と右手を差し出す。
 伊吹は左手でタートルネックをずり下げ、藍子の右手を自らの喉仏を触れさせる。

「喫茶店のママさんには見抜かれてしまいましたが、藍子さんもこれでお分かり頂けるでしょうか?」

 伊吹が喋る度に突き出した喉仏が振動しながら上下に動く。喉元に手のひら全体で触れていた藍子の手がビクリと跳ね、胸元へと引っ込められる。
 間が悪くエレベーターは六階へ到着し、扉がゆっくりと開いた。

「お、お、おっ、おふごっ!!!?」

 藍子の上げようとした絶叫は、そうなると予測していた小杉の手によって押し潰されたのだった。
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