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第十四章:結婚式に向けて
仕えるに相応しい主
姿勢良く立っている空音の制服姿を眺め、伊吹は穏やかに答える。
「彼女達以上の侍女はいないよ。
雇い主を探しているなら他を当たってくれるかな」
「ですが、私の方がより若く、これから長くお楽しみ頂けると自負しております」
空音は何とか伊吹と会話を続けようと食い下がる。
「侍女に主を楽しませる職務があるとは知らなかったな」
「もちろん普段のお仕事はしっかりとこなしますわ。
その上で、主にお楽しみ頂けるように務めるとお約束致しますわ」
空音の母親を含め、会場内の女性達は伊吹と空音のやり取りを見守るかのように、静まり返っている。
伊吹はその空気を感じつつ、空音の着ている制服を見ながら尋ねる。
「その制服は国立侍女育成専門学校のものなのかな?
僕は見た事ないから判別がつかないんだけど」
伊吹は振り返って美哉と橘香に目で問い掛けると、二人は少し迷った後に首を横に振ってみせた。
「違うみたいだね」
「あのっ、えっと……、私が伊吹様のおそばに控えられるなら、侍女服ではなくもっと煌びやかなドレスを着て会場の華になりますわ!
あんな小豆みたいな地味な色ではなく、皆の目を引き伊吹様の自尊心を満たすような……」
伊吹が右手をわずかに上げた事で、空音は黙ってしまう。制服のスカートを握り締め、ぶるぶると震えている。
「美哉、橘香。だから言ったじゃないか、こういう場では侍女服姿ではなくドレスを着てほしいって。
空音さんが指摘してくれて助かったよ。侍女服姿の方が動きやすいから業務に支障が出ないって言うんだ。色も汚れが目立たないから僕に迷惑を掛けないだろうって。
でも、やっぱり侍女だと言えども僕の婚約者なんだから、それなりに着飾るべきだよね?
ほら、空音さんからも言ってやってくれない?」
空音は予想していなかった伊吹の言葉に、腰を抜かしてその場にへたり込んでしまう。
そんな空音の姿を見て、伊吹が立ち上がって歩み寄り、肩を支えてやる。
「嫌な役目をさせてしまってごめんね」
「えっ……?」
伊吹から予想していなかった言葉を掛けられ、空音は口を開けて呆然としてしまった。
伊吹はこの立食交流会の誘いを受けた際、福乃から実際の社交の場では嫌味や妬みなどを直接男性へは向けず、その妻や侍女や執事に向ける事が多いと聞かされていた。
伊吹に対して突っかかって来る空音に対し、母親すら何を言わず、好きにさせているのがおかしいと思った伊吹は、もしかしてこれは自分の為に用意された予行演習的なものなのではと気付いたので、何とか収めるべく即興で空音をいなして見せたのだ。
「あの、私、あの侍女さんが婚約者さんだとは知らず、大変失礼な事を……」
「だから良いって。ほら、立てる?」
伊吹は空音を立ち上がらせ、支えてテーブルの椅子までエスコートする。空音を座らせ、伊吹もその隣へと座る。
空音は先日、大会議室へ集められた後に態度が悪いという理由っで追い出された秘書候補の内の一人の妹である。
態度が悪い以外に他家へと内通していたなどの余罪がなかった為、本人が重要ポストから外されるだけで済んだ。
しかし、一度傷付いた名誉はなかなか回復させる事が出来ない。空音の母親は宮坂家中での名誉回復の為、福乃から与えられた嫌な役割を娘へ任せたのだ。
空音本人の性格と演技力の低さから伊吹に見抜かれてしまったが、伊吹とお近付きになるという目標は無事達成された。
「僕の為だからって頼まれたんでしょ?
良く頑張ってくれたね」
伊吹は空音の頭を撫でてやる。
そして立ち上がり、伊吹の様子を窺っている女性達に向けて口を開く。
「皆さんも、今日はわざわざお集り頂きましてありがとうございます。
僕の社交デビューの為の練習、といったところでしょうか?
僕は女性達が支えている社会の事を、あまりよく知りません。僕に対して何か助言を下さったり、苦言を呈して下さったりする人は、貴重な存在です。
僕はそんな人とのお付き合いを大切にしたいと思っています。裸の王様になるのはごめんなのでね。
ですので、皆さん。これからもよろしくお付き合い願います」
伊吹がそう言って頭を下げると、その場にした女性達が一斉に跪いてみせる。
「えっと、さすがにそこまではやり過ぎでは?」
「伊吹様にそこまで言われて感じ入らない女なんていないよ。
伊吹様は仕えるに相応しい主と認められたのさ」
いつも通りの口調に戻った福乃が女性達の気持ちを代弁する。
伊吹は、貴女達が仕えるのは宮坂家当主なのでは? と言いかけて止めた。口に出すとややこしい事になりそうだと思ったからだ。
そんな伊吹の心中を知ってか知らずか、福乃がニヤリと笑って問いかける。
「で、その娘に対するご褒美はどうするんだい?」
「え?」
気付くと、伊吹の右腕が空音に取られていた。決して離さないと抱え込まれている。
「さすがに十七歳の少女に手を出すのはちょっと……」
「前世の常識は捨てるべきですわ。ここはこういう世界ですの。何も気兼ねする必要なんてございませんのよ?」
今こそが決戦の時であると、空音がぐいぐいと伊吹を責め立てる。
制服に隠されたふくよかな膨らみをこれでもかと押し付けてアピールする。
「伊吹様、ご案内致します」
「どうぞ、伊吹様」
伊吹は美哉と橘香に背中を押され、用意された別室へと通されるのだった。
「彼女達以上の侍女はいないよ。
雇い主を探しているなら他を当たってくれるかな」
「ですが、私の方がより若く、これから長くお楽しみ頂けると自負しております」
空音は何とか伊吹と会話を続けようと食い下がる。
「侍女に主を楽しませる職務があるとは知らなかったな」
「もちろん普段のお仕事はしっかりとこなしますわ。
その上で、主にお楽しみ頂けるように務めるとお約束致しますわ」
空音の母親を含め、会場内の女性達は伊吹と空音のやり取りを見守るかのように、静まり返っている。
伊吹はその空気を感じつつ、空音の着ている制服を見ながら尋ねる。
「その制服は国立侍女育成専門学校のものなのかな?
僕は見た事ないから判別がつかないんだけど」
伊吹は振り返って美哉と橘香に目で問い掛けると、二人は少し迷った後に首を横に振ってみせた。
「違うみたいだね」
「あのっ、えっと……、私が伊吹様のおそばに控えられるなら、侍女服ではなくもっと煌びやかなドレスを着て会場の華になりますわ!
あんな小豆みたいな地味な色ではなく、皆の目を引き伊吹様の自尊心を満たすような……」
伊吹が右手をわずかに上げた事で、空音は黙ってしまう。制服のスカートを握り締め、ぶるぶると震えている。
「美哉、橘香。だから言ったじゃないか、こういう場では侍女服姿ではなくドレスを着てほしいって。
空音さんが指摘してくれて助かったよ。侍女服姿の方が動きやすいから業務に支障が出ないって言うんだ。色も汚れが目立たないから僕に迷惑を掛けないだろうって。
でも、やっぱり侍女だと言えども僕の婚約者なんだから、それなりに着飾るべきだよね?
ほら、空音さんからも言ってやってくれない?」
空音は予想していなかった伊吹の言葉に、腰を抜かしてその場にへたり込んでしまう。
そんな空音の姿を見て、伊吹が立ち上がって歩み寄り、肩を支えてやる。
「嫌な役目をさせてしまってごめんね」
「えっ……?」
伊吹から予想していなかった言葉を掛けられ、空音は口を開けて呆然としてしまった。
伊吹はこの立食交流会の誘いを受けた際、福乃から実際の社交の場では嫌味や妬みなどを直接男性へは向けず、その妻や侍女や執事に向ける事が多いと聞かされていた。
伊吹に対して突っかかって来る空音に対し、母親すら何を言わず、好きにさせているのがおかしいと思った伊吹は、もしかしてこれは自分の為に用意された予行演習的なものなのではと気付いたので、何とか収めるべく即興で空音をいなして見せたのだ。
「あの、私、あの侍女さんが婚約者さんだとは知らず、大変失礼な事を……」
「だから良いって。ほら、立てる?」
伊吹は空音を立ち上がらせ、支えてテーブルの椅子までエスコートする。空音を座らせ、伊吹もその隣へと座る。
空音は先日、大会議室へ集められた後に態度が悪いという理由っで追い出された秘書候補の内の一人の妹である。
態度が悪い以外に他家へと内通していたなどの余罪がなかった為、本人が重要ポストから外されるだけで済んだ。
しかし、一度傷付いた名誉はなかなか回復させる事が出来ない。空音の母親は宮坂家中での名誉回復の為、福乃から与えられた嫌な役割を娘へ任せたのだ。
空音本人の性格と演技力の低さから伊吹に見抜かれてしまったが、伊吹とお近付きになるという目標は無事達成された。
「僕の為だからって頼まれたんでしょ?
良く頑張ってくれたね」
伊吹は空音の頭を撫でてやる。
そして立ち上がり、伊吹の様子を窺っている女性達に向けて口を開く。
「皆さんも、今日はわざわざお集り頂きましてありがとうございます。
僕の社交デビューの為の練習、といったところでしょうか?
僕は女性達が支えている社会の事を、あまりよく知りません。僕に対して何か助言を下さったり、苦言を呈して下さったりする人は、貴重な存在です。
僕はそんな人とのお付き合いを大切にしたいと思っています。裸の王様になるのはごめんなのでね。
ですので、皆さん。これからもよろしくお付き合い願います」
伊吹がそう言って頭を下げると、その場にした女性達が一斉に跪いてみせる。
「えっと、さすがにそこまではやり過ぎでは?」
「伊吹様にそこまで言われて感じ入らない女なんていないよ。
伊吹様は仕えるに相応しい主と認められたのさ」
いつも通りの口調に戻った福乃が女性達の気持ちを代弁する。
伊吹は、貴女達が仕えるのは宮坂家当主なのでは? と言いかけて止めた。口に出すとややこしい事になりそうだと思ったからだ。
そんな伊吹の心中を知ってか知らずか、福乃がニヤリと笑って問いかける。
「で、その娘に対するご褒美はどうするんだい?」
「え?」
気付くと、伊吹の右腕が空音に取られていた。決して離さないと抱え込まれている。
「さすがに十七歳の少女に手を出すのはちょっと……」
「前世の常識は捨てるべきですわ。ここはこういう世界ですの。何も気兼ねする必要なんてございませんのよ?」
今こそが決戦の時であると、空音がぐいぐいと伊吹を責め立てる。
制服に隠されたふくよかな膨らみをこれでもかと押し付けてアピールする。
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