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第十五章:結婚式
立場
伊吹と伊織はすぐに打ち解けた。
「あまり時間がないが、これだけは伝えておく。
俺は咲弥を愛していた。本当は正妃にしたかったが、咲弥にはその資格がなくてな」
伊織と咲弥は小さい頃から共に育った。咲弥の母親である心乃春が伊織の執事の一人だったからだ。
伊織は咲弥にだけ、自分が転生者である事と前世の記憶を持っている事を打ち明けた。
幼かった咲弥は伊織の話す前世世界に夢中になって聞いた。そして、伊織が前世での生活を話す表情が、寂し気である事に気付いていた。
「で、お前がお腹に出来てしばらくして、男だって分かった。
俺と咲弥は迷った。お腹の子が男である事を理由に、妃としての順位を繰り上げるよう手配するか、それとも外で普通の暮らしをさせるか」
大日本皇国の男性皇族という立場を使い、咲弥を伊織の正妃にする事も出来なくはなかった。
が、咲弥がそれを望んでいない事に伊織は気付いていた。
「咲弥にお腹の子を皇宮の外で育ててくれと頼んだ。咲弥は例え俺が反対したとしても、そうするつもりだったと言ってくれた。良い女だったよ、本当に。
診察をした侍医と心乃春達に頼み込み、咲弥のお腹の子は女の子であるという事にした。
そして咲弥の体調が悪いという事で、療養目的として田舎の山奥へ移したんだ」
それと時を同じくして、伊織と別の女性との間の子が男の子であると判明し、咲弥の件を有耶無耶にする事が出来たのだ。
「お母様を愛していながらよく他の女を抱けたな」
「お前も結婚式の前夜に十人気絶させたろ? しかも全員処女。
これが若さか……、ってな!」
「「はっはっはっはっはっ!!」」
二人が言い合うが、その表情は楽し気だ。全く同じ状況下に置かれた男と話すのは、二人とも初めてなのだ。
男女比一対一の世界から転生した男同士という事が優先され、親子であるという認識が薄れている。共に暮らしてこなかったというのも大きな原因の一つである。
「で、親父殿。大事な話がある」
「咲弥はお母様で俺は親父殿か? お父様と呼べ、お父様と」
「では、お父様。俺の兄上は今どういうお立場で?」
伊吹にとって今一番聞きたい事。自分は将来的に、やんごとなき立場に祀り上げられてしまうのだろうかという事が気になって仕方がない。
今上皇王陛下の御年は六十歳。これはこの国に住むものなら大抵の人間が知っている基礎知識だ。
そして伊吹の目の前に座っている父親、伊織は皇太子であると先ほど聞かされた。
今上陛下がご健在であるとはいえ、いずれは天へと御戻りになる。その際、皇太子である伊織が皇王の位を受け継ぐ。
では、その時の立太子となるのは? 自分の兄が継ぐのか、それとも。
「息子よ、お前に兄はいない」
「……え?」
「双子の妹もいない」
「いや、それは良く知ってるけど……」
先ほど同時期に男の子がどうのこうの、という話を聞いた後なので、伊吹はさらに問いただそうとすると、部屋の外から声が掛かり、襖が開けられた。
「殿下方、失礼致します」
「……おばあ様!?」
そこには、廊下で三つ指を突いている侍女の姿があった。
「お久しぶりですね、伊吹様。お元気そうで何よりです」
心乃春にそっくりな侍女が、そう言って伊吹へ笑みを向ける。すすすっと広間へ入り、襖を閉めると、再び口を開く。
「立派な結婚の儀でした。我が孫ながら、晴れ晴れした気分でしたよ」
伊吹は驚いた表情を止め、不機嫌そうな声色でその侍女へと問い掛ける。
「おばあ様は僕に対して敬語を使いませんでしたし、様なんて付けずに話してくれました。
失礼ですが貴女はどちら様でしょうか?」
一瞬勘違いしたとはいえ、自分の祖母が生きているはずがないと伊吹は思い直し、心乃春を騙る偽物へ冷たい視線を送った。
「あまり時間がないが、これだけは伝えておく。
俺は咲弥を愛していた。本当は正妃にしたかったが、咲弥にはその資格がなくてな」
伊織と咲弥は小さい頃から共に育った。咲弥の母親である心乃春が伊織の執事の一人だったからだ。
伊織は咲弥にだけ、自分が転生者である事と前世の記憶を持っている事を打ち明けた。
幼かった咲弥は伊織の話す前世世界に夢中になって聞いた。そして、伊織が前世での生活を話す表情が、寂し気である事に気付いていた。
「で、お前がお腹に出来てしばらくして、男だって分かった。
俺と咲弥は迷った。お腹の子が男である事を理由に、妃としての順位を繰り上げるよう手配するか、それとも外で普通の暮らしをさせるか」
大日本皇国の男性皇族という立場を使い、咲弥を伊織の正妃にする事も出来なくはなかった。
が、咲弥がそれを望んでいない事に伊織は気付いていた。
「咲弥にお腹の子を皇宮の外で育ててくれと頼んだ。咲弥は例え俺が反対したとしても、そうするつもりだったと言ってくれた。良い女だったよ、本当に。
診察をした侍医と心乃春達に頼み込み、咲弥のお腹の子は女の子であるという事にした。
そして咲弥の体調が悪いという事で、療養目的として田舎の山奥へ移したんだ」
それと時を同じくして、伊織と別の女性との間の子が男の子であると判明し、咲弥の件を有耶無耶にする事が出来たのだ。
「お母様を愛していながらよく他の女を抱けたな」
「お前も結婚式の前夜に十人気絶させたろ? しかも全員処女。
これが若さか……、ってな!」
「「はっはっはっはっはっ!!」」
二人が言い合うが、その表情は楽し気だ。全く同じ状況下に置かれた男と話すのは、二人とも初めてなのだ。
男女比一対一の世界から転生した男同士という事が優先され、親子であるという認識が薄れている。共に暮らしてこなかったというのも大きな原因の一つである。
「で、親父殿。大事な話がある」
「咲弥はお母様で俺は親父殿か? お父様と呼べ、お父様と」
「では、お父様。俺の兄上は今どういうお立場で?」
伊吹にとって今一番聞きたい事。自分は将来的に、やんごとなき立場に祀り上げられてしまうのだろうかという事が気になって仕方がない。
今上皇王陛下の御年は六十歳。これはこの国に住むものなら大抵の人間が知っている基礎知識だ。
そして伊吹の目の前に座っている父親、伊織は皇太子であると先ほど聞かされた。
今上陛下がご健在であるとはいえ、いずれは天へと御戻りになる。その際、皇太子である伊織が皇王の位を受け継ぐ。
では、その時の立太子となるのは? 自分の兄が継ぐのか、それとも。
「息子よ、お前に兄はいない」
「……え?」
「双子の妹もいない」
「いや、それは良く知ってるけど……」
先ほど同時期に男の子がどうのこうの、という話を聞いた後なので、伊吹はさらに問いただそうとすると、部屋の外から声が掛かり、襖が開けられた。
「殿下方、失礼致します」
「……おばあ様!?」
そこには、廊下で三つ指を突いている侍女の姿があった。
「お久しぶりですね、伊吹様。お元気そうで何よりです」
心乃春にそっくりな侍女が、そう言って伊吹へ笑みを向ける。すすすっと広間へ入り、襖を閉めると、再び口を開く。
「立派な結婚の儀でした。我が孫ながら、晴れ晴れした気分でしたよ」
伊吹は驚いた表情を止め、不機嫌そうな声色でその侍女へと問い掛ける。
「おばあ様は僕に対して敬語を使いませんでしたし、様なんて付けずに話してくれました。
失礼ですが貴女はどちら様でしょうか?」
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