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X+2回目のループ
ごめんね……
しおりを挟む「あ~……、だからこっちがオリジナルだって事な、分かった分かった」
記代子から説明を受けて、赤い顔のまま渡が頷く。時恵達が裸眼のままではパッと見で分かりにくいからと、記代子が眼鏡を手渡して掛けさせている。
時恵は細いリムの眼鏡。記代子の隣で床に座っている。時恵はノンリムの眼鏡。渡と共にベッドに腰掛けている。眼鏡を掛けていない裸眼状態だと、どちらがオリジナルでどちらかクローンか、わざわざスカートを捲らないと判断出来ない。
いや、オリジナル! というデコの文字を見れば一目瞭然なのだけれど。
「ちょっとふざけただけなのに」
「どこまで思考した記憶が残ってるか試しただけなのに」
「「ねー」」
「渡君、早くクローンの方連れて帰ってくんないかな!!?」
ノンリムの時恵の肩を押して、記代子が渡の方へと近付ける。時恵はわざとバランスを崩した振りをして渡に抱き着く。
「うぉい!?」
そんな初心な反応を見せる渡を見て、細リムの時恵がニヤニヤと笑った。
「渡、もしかしてまだなんだ。へぇ~、清い事で」
「あらやだ、じゃあ私がちゃんと教えてあげなくっちゃ」
「でも毎回初めてに戻るから優しくしてあげてね」
「そういう生々しい話は止めて!! ってかホントもう連れて帰って!!!」
記代子がキィキィと声を上げてツッコんでいる。そして時恵達がケラケラと笑い、渡は顔が赤いまま。冗談を言いながらも、みなで記憶のコピーが成功した事を喜び合っていたのだった。
「渡からしたら帰るになるでしょうけど、私には馴染みがないからね。行くって感覚よね。ま、何とかなるでしょうけど」
渡と時恵達がそれぞれの世界の細かな情報を共有する為に少しの間話し合っていた。窓から見える空はいつの間にか、若干赤みが差して来ていた。
情報共有の結果、こちらの世界にとって有益なものはなかった。しかし、渡は仲間の存在が必要であるという認識を持った。2人だけでは精神的に参りやすいからだ。
数え切れないほどのループ経験のある時恵を連れ帰るとはいえ、時恵の思考だけではまた何度も同じ時間を繰り返すだけ。世界の危機、隕石の出現を止める為の突破口を突き止める為には、仲間が多い方が良い。
帰ったら透や心音に声を掛ける予定になった。夢子が同じ学校にいるかどうか分からないが、いつ終わるか分からない戦いにはムードメーカーが必要だ。
そして向こうの世界の記代子との接し方についても話し合った。
向こうの世界の記代子が原因で時恵は記憶を失ってしまった。そして渡は恋人としての時恵を失ってしまった。
渡の口から詳細は語られていないが、記代子が今現在はどこかで世界の終わりを待っているのかも知れないし、そうでないかも知れない。時恵が渡の世界へと渡航して時間を巻き戻す事によって、その行いそのものがなかった事になる。
そしてまだ何も知らない記代子が超能力に目覚め、学校へと登校して来るのだ。
記代子がやった事は渡の中では消えないし、なくならない。しかし、次に会う記代子はその記代子とは別人なのだ。同じ顔、同じ背格好、同じ昨日までの記憶。でも、時恵の記憶を書き換えてはいない記代子。
そう言われてすんなりと受け入れられるほど、渡は器用ではない。しかし、隣に時恵がいるので何とかなるだろう。
「私に秘密の言葉を伝えればすんなり仲間になりそうだけど」
「それで仲間に出来るとは限らないわね」
と記代子は提案したが、同じ世界の同じ人物に対して有効なのは確認出来ているが、あくまで本人の口から出た情報でないと意味がない。
「何で?」
「だって、向こうの記代がおっぱい体操してるかどうか分かんないもん」
「何で言うの!? 何で言っちゃうの!!?」
渡に知られた恥ずかしさと、暴露した事に対する怒りで記代子が細リムの時恵に掴み掛かる。時恵は記代子を受け止めて顔を胸元へと押し付けるという嫌がらせをしている。
そんなやり取りを目を細めながら見つめていたノンリムの時恵。しばらくしてベッドから立ち上がった。
「さてと、じゃあそろそろ行きましょうか。こっちの世界の渡が来る前に私と渡だけでも場所を変えないと」
時恵が渡へ手を差し伸べ、渡がその手を取って立ち上がる。
「そう言えばそうだった。この部屋も自分の部屋とそんなに雰囲気変わらないからついつい寛いじまった」
部屋の中を見回し、渡が感慨深そうにそう呟く。釣られてノンリムの時恵も部屋を見回して、向こうに着いたら部屋に呼びなさいよと妖しく笑う。そしてまた顔を赤くする渡。
「うぉっほん!! ……とにかく、時恵、記代子ちゃん、ありがとう。こんなに上手く行くとは思ってなかった。これで俺達の世界も何とかなりそうだ」
「そうね、何とかなるまで繰り返すしかないわよね。私達も何とかやってみるよ」
細リムの時恵と渡が握手をする。至って普通の握手。そこには特別な感情など乗っておらず、友情ライクなシェイクハンド。
2人が手を離した後、渡は記代子にも握手を求めた。
「向こうの記代子ちゃんの事はともかく、君には本当に助けてもらっただけだからな。俺からお返しが出来なくて申し訳ないよ」
記代子は渡の手に応えながら、ふるふると横に首を振った。
「ううん、私もこっちの渡君には負い目があるから……。私達が言うのも何だけど、これでチャラって事にしとこ? その方がこれからも続く繰り返しが少しは楽になるかも知れないと思うんだ」
「ま、そんな難しく考えるのは止めよう。俺は助けられて、記代子ちゃんは助けてくれた。それだけだ」
記代子は頷いて、そっと渡の手を離した。離したと同時にリムレスの時恵に抱き締められた。
「記代、私を支えてね? 本当に頼りにしてるんだから。あの私からは言えないかも知れないけど、記代の存在は絶対に助けになる。
記代がいたからこそ、世界が救えたんだって時が、きっと来るから。お願いね?」
耳元でそう囁く時恵。リムレスの時恵は間違いなく記代子とのやり取り全てを把握している。その時恵が言うのだから、間違いなくそう思っているのであろう。
記代子はリムレスの時恵に大きく頷いて、時恵を優しく抱き締め返す。僅かな時間ではあったが、記代子は時恵に対して単なる友情以上のモノを抱えるようになっていた。記代子はそう自覚した。
「大丈夫、私はもう時恵を裏切らない。悲しむような事をしないから」
「うん、信じてるからね」
そのように心を通わす記代子ともう1人の自分を、時恵はただただ眺めているだけだった。
「もう会えないと思うけど、元気でな。
陳腐な事しか言えないけど……、お互い頑張ろう」
「大丈夫、伝わってる」
渡の苦い顔に笑顔で答える細リムの時恵。渡とノンリムの時恵は渡の部屋の扉を開けて、廊下へと踏み出した。
「記代……、ごめんね」
えっ? と記代子が問い掛ける間もなく扉は閉じられて、2人の足音が遠ざかって行く。
(ごめんねって……、何だろう)
そう思って、笑顔のままの時恵を見る。記代子の視線に気付き、苦笑いに変わる時恵の表情。
「知らないわよ、私だってあの時恵と心が繋がってる訳じゃないんだから。何に対するごめんねなのか、私では答えられないよ」
そう言って、時恵は渡のベッドにダイブした。ゴロンと上を見上げる額には「オリジナル!」の文字がある。寝返る際にチラリと見えたスカートの中も白。もちろん眼鏡も細いリムのままだ。入れ替わるタイミングなどなかった。
(ごめんね……、ごめんね……?)
いくら考えても記代子には分からない。謝られるような事など、まだされていないのだから。
「そろそろ渡が帰って来るかも知れないんだけど、今回も2人だけで戻るつもりだから」
「え? あ、うん」
「はぁ……、お休み回のつもりが結構大変だったね。次はホントにお休みにするから。
記代はどうする? またうちに来る?」
記代子がすぐに答えられないでいると、玄関が開いた音が聞こえて来た。どうやら渡が帰って来たようだ。見慣れない靴があるのに気付いて声を上げる。
「帰ってんの? お客さん?」
渡は家族が来客を連れて帰って来ていると思ったようだ。
「よし、とりあえず戻ろっか。私のケータイ番号は覚えた?」
「それは大丈夫、覚えた」
「そう。記代が戻ったタイミングでは私は二度寝してると思うから、朝になったら連絡する」
そう言って、仰向けのまま時恵は記代に向けて両手を広げて見せた。
(手を握るだけでいいんじゃないのかしら)
と思いつつも、記代子は時恵に合わせるように抱き着く。そして2人を眩い光が……。
「え、誰!? え、何この状況!!?」
包む前に渡の部屋の扉が開けられ、自分のベッドで女の子2人が抱き合っている光景を目にして驚いている。
時恵がその反応を楽しんだ後、今度こそ2人が眩い光に包まれて、世界の時間が巻き戻った。
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