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X+3回目のループ

操り男

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「なるほどねぇ。気味は悪いけど、イタコさんの超能力が現状を打開する鍵になるかも知れないんだねぇ」

 宙からのシグナルを見た後の感想が出尽くした後、次の映画を観るでなくイタコさんについての話となった。心音ここね時恵ときえからイタコさんの事を聞いている間、終始苦笑いを浮かべていた。

「巨大転移装置? で自爆テロを起こした人の考えも理解出来ないけど、超能力集団を作り上げるって考えもちょっと分からないよね」

 記代子きよこの疑問に時恵が答える。

「超能力者を集めるでしょ? 超能力を使ってお金儲けするでしょ? 超能力を使って人を意のままに操るでしょ? 世界征服出来るでしょ?」

「それ、それなの! イタコさんは超能力者がどこにいるか分かる超能力なんでしょ? じゃあさ、人を意のままに操る超能力者がイタコさんに従うのは何で?」

 心音が時恵から話を聞いていて疑問に思ったのは、イタコさんの隣にいた男が使った超能力者が、何故イタコさんの言う事を聞いているのかという点だ。
とおるはその男に両手で顔を掴まれて、超能力によって無理やりイタコさんの仲間にさせられてしまった。その結果、透を残して時恵、わたる、記代子、心音、夢子ゆめこの5人で次のループに逃げたのだ。

「えっと、もしかしたら逆なんじゃない? その男こそが黒幕で、イタコさんもその男の超能力のせいで操られてるとか」

(って言っても、こんな予想は時恵もとっくに思い当たってるんでしょうけど)

 記代子のイタコさん操られてる説。今の自分が思い付いたならば、かつて時恵と共にループを繰り返した記代子も思い付いていただろう。そして、その考えは時恵に話しているはず。

「その予想を元に、じゃあイタコさんが操られる前にこちらの仲間に引き入れに行こうって行動した事があるんだけど、何度繰り返してもイタコさんの隣には必ずあの男がいるの。
 多分、イタコさんと操り男は恋人とか会社の部下とか、かなり近しい間柄みたいで」

 時恵達、仲間全員が目覚める時間、ループ開始起点に戻ってすぐに集合し、イタコさんの会社へと向かう。しかし、イタコさんの会社に辿り着く時間にはイタコさんはすでに操られていると思われる状態になってしまっているという事だ。

「それって、最短で何時に到着出来るの?」

 心音の問いに、時恵は右手を頬に当てて思い出しながら答える。

「そうね、最後に起きる心音の家の前に車で待機するでしょ。乗り込むのが6時半くらい。そこからイタコさんの会社まで車を飛ばして1時間ちょっとだから、朝8時が最短かな。
いつもその時点でイタコさんは操られてると思うよ」

「それってさぁ、ボクの目覚めを待たずにイタコさんのところへ向かった事はなかったの?」

 時恵がループ起点時間は午前0時を過ぎた頃。記代子も2時には目が覚める。今いる2人ならば、もっと早くからイタコさんの会社へ向かう事が可能だ。

「渡から危ないから2人だけで行くなって止められてたのよ。渡が目覚めるのが6時前くらいだからそんなに変わらないんだよね」

 恋人である夢子の目の前で奪われた透。愛だとか友情だとか、想いの強さで悪意ある超能力を跳ね返せるという都合良くはならない。
 渡は恋人として、時恵に無理をしないよう釘を打っていたのだ。

(でも、その渡君はいないんだよね……)

 またもや自分がしでかしてしまった事を思い出す記代子。そして、思わず心で思った事を気にして心音の目を見た。

(言わないで、お願い!)

 しかし心音は、記代子の心の声に反して口を開いた。

「でも今、その渡君はいない、と。
どうだろう。現状を打開する為にさ、夜中にイタコさんの会社の近くまで行ってみるってのは。操り男とイタコさんがさ、1日でそれなりの数の超能力者を集めてるんだとしたら、ある程度早い時間から行動してるはずだよ?
少なくとも何時までにイタコさんのところに辿り着く事が出来れば、何とか出来るかも知れないっていう確認だけでもしておくのはどうかな」

 記代子が考えたその先まで含めて提案した心音。

「まぁ、ボクには手伝える事がないってのが難点なんだけどね。ついて行く事すら出来ないし。それに、何かあった時はボクを置いて次のループに逃げるだろうから、今のボクの記憶はなくなっちゃうしね」

 超能力者を手に入れ、そして好きな相手である時恵に想いを伝える事が出来た心音。今の状況を失う事になるかも知れない提案を、あえてした訳とは。

(心音ちゃんはそれでいいの?)

 記代子はそう思わずにいられなかった。

「だってさ、時恵ちゃんはずっとずっとずぅ~っと、苦しんで来た訳でしょ? そんなの、何とかしてあげたいって思うじゃん。自分では何も出来なくても、ボクの提案が何かのきっかけになるんなら本望だよ。
自分の今の記憶なんて、時恵ちゃんの明日の為なら何てことないよ」

 それに、確実にこの記憶がなくなるって決まった訳じゃないし、ね? そう言って、時恵に笑い掛ける心音。時恵はその笑顔を眺め、複雑な想いが込み上げる。

(あんたがそんなコだって知ってるから心を聞かせたくなかった。私が苦しんでるって知ったら自分が犠牲になってもいいって言うって知ってた。でも私はもうすでに今の心音を失いたくないって思っちゃってるの。心音の想いには答えられないけど心音にいなくなってほしくないって思っちゃってるの! だからそんな事言わないで……)

「ふふっ。だから好きなんだよ、時恵ちゃん」

 暗い顔で心音を見つめる時恵。笑顔のままの心音。見つめ合う2人を前にし、記代子は何も言えないでいた。
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