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お坊ちゃまの就寝事情

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 俺が就寝と起床をポーシェに魔法で管理されているのは、両親の言いつけがあるからだ。
 小さい頃、俺がまだ両親の寝室で寝ていた時の事だ。
 よく寝言を言っていたらしい。
 よく分からない言葉、日本語の寝言を。

 両親からすれば、俺は当時まだ物心も付いていないような月齢の赤ん坊だった。
 しかし中身は享年十九歳の日本人男性。
 寝言を言うのであれば、それは日本語だろう。
 その日本語の寝言を聞いて、竜の囁きだと思ったそうだ。
 私達の子供がこの世界のどこかにいると言われている竜を呼び寄せようとしている、そう感じたらしい。
 しかし俺が起きている時はそんな声を発しない。
 ならば、深く眠らせれば竜を呼ばないのではないか、という結論に達したようだ。
 そして俺は未だに魔法を掛けて眠りを深いものにさせている、という事なのだ。

 正直に言おう、何だその突飛な発想は!
 いや、しかしそれも仕方がないのかもしれない。
 霊的な存在や超常的な現象について、地球の科学ですら解明出来ていない事が山ほどあったのだ。
 この世界において科学は発展しておらず、ましてや魔法が存在する世界だ。
 俺の日本語がどんな捉え方をされたとて不思議ではない。

 あらー、前世の言葉で寝言言っているわ、可愛いー。

 よりも、

 これはもしや竜を呼んでいるのではないか!!?

 と思うのが自然だったのだろう。
 多分。知らんが。

 まぁ、このような事情で俺の睡眠はポーシェの魔法で管理されている訳だ。
 今さらこの方式止めて、というほど不自由していないのでこのままにしている。
 問題が出るとすれば、俺が結婚ないし恋人が出来た時にも同じようにポーシェに寝かし付けてもらうのか、という点だ。
 まぁその時はベッドを共にする相手に包み隠さず事情を説明して、その相手に魔法で寝かしてもらえば良いと思っている。
 もちろん前世の話じゃなく竜の囁きの方を説明して。

「あの……、ご主人様」

 縛られたままもぞもぞと身体をねじるカーニャ。
 顔を赤らめ、涙目で俺を見上げて来る。
 止めろ、そんな顔で俺を見るな!

「どうしました?」

「大変申し上げにくいのですが、その……」

 カーニャが小さな声でご不浄へ行きたいと告げる。
 何だ、トイレか。
 行きたいならはっきりとそう言えばいいのに。

「ポーシェ、拘束を解いてやれ」

「しかし、万が一逃走されてしまっては面倒です。
 縛ったままさせた方が安全では」

「いいから」

「本当に解いてよろしいのですね?」

「早く解いてやれ!」

 全くもう、ポーシェは本当に何を考えているのか分からん!!
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