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フィデリーテの秘術

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 戦の始末を終えて、屋敷へ向けてさぁ帰ろうという時にフィデリーテが妙な事を言い出した。
 自分の装飾品を全て取り外してほしいと。
 どういう意図でそのような事を言うのか詳しく聞くと、どうやらフィデリーテは自分よりも格上の魔法使いであるカーニャに並ぶ為に装飾品をゴチャゴチャと着けているのだそうだ。
 元々は顔もスタイルも良いカーニャに相応しい自分であろうと集め始めたアクセサリーだが、どうやら自分が気に入り思い入れもあるアクセサリーを身に着けている事で、魔法の発動がより大きなものになる事を発見したのだとか。

 この世界の魔法は詠唱や依り代や対価など必要なく、自分の意思のみで発動させる事が可能だ。
 その分、魔法と聞いて想像するような火や水や光を操ったり、瞬時に別の場所へ転移したりという分かりやすいものはあまりない。
 自分の感情に魔力を乗せる、そしてそれを上手く制御する事で、魔法を放出する事が可能。

 感情を上乗せする事で魔力を上げる。
 自分の気に入ったアクセサリーを身に着ける事で、より感情を昂ぶらせる事が出来ると気付いたのだとフィデリーテが説明してくれた。
 ヴェーニィであるカーニャが、フィデリーテの魔法に驚いていたのはこれが原因だろう。
 その秘術を全て俺に打ち明けた上で、自分の拠り所であるアクセサリーを外して見せる事で俺への忠誠心を示したいのだろう。
 俺はカーニャに命じ、全て取り外させて保管させておく事にした。
 負かした相手の身に着けていた物などいらない。
 本当に俺に刃向かわないか確信が持てた後で、本人に返そう。


「そう言えば、ご主人様。
 質問させて頂いてよろしいでしょうか」

 帰り道、五千人の兵と共に帰還している最中。
 皆は野営、俺と姉上は小さな集落にある建物で宿泊する。
 それ専用という訳ではなく、普段は集会所として使用されている建物で、維持管理用にちゃんと費用を支払っている。

「何だ、いちいち確認せずとも気になる事があるなら聞け」

 質問して良いですか。
 良いよ。
 このやり取りが面倒だ。
 本来であればカーニャの方が正解なのだろうが、この寝室には俺とポーシェとカーニャしかいない。
 寝る前くらい気を抜きたいじゃないか。

「ご主人様は私の傷を一瞬で治して下さいました。
 あれは、一体何なのですか?」

 おっと、そんな事してたな。
 しちゃったな。『痛いの痛いの飛んでいけ~♪』ってやっちゃったな。
 戦場の空気にあてられちゃってやっちゃったわ。
 気になるのは分かるが、これこれこうでこうだからこう、と説明出来るものではないのだが……。
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