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03 最後の鷲王 4
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その話を持ちかけてきたのは見知らぬ貴族様だった。
貴族様は奴隷の身分である少年には見合わないほどの報酬を約束してくれた。
貴族様の要求は一つ。「箱」を神殿から持ち出すこと。
父母は報酬の約束に大喜びしていた。少年には報酬はそれほど魅力的なものには思えなかったけれど。
だけど、「箱」を持ち出すことで彼が救われるなら。
神殿の奥の間。木製の大扉に手をかける。途中何度も衛兵に見つかりそうになったが、なんとかここまでは来られた。
記憶を頼りに祭壇の奥を目指す。そろそろと歩みを進めると、石の壁に突き当たった。今は闇に隠されているその壁には王のみに見ることの許された神々の姿があるはずだ。
壁を伝い、さらに奥まった場所へ体を滑り込ませる。
塗りつぶしたような暗闇の中、少年は「箱」に手をかけた。
真夜中。自室の窓から窓枠を伝い、アクィラ九世は中庭へと降り立った。中庭には人影はなく、時折、裏庭の木の上に巣をつくったトカゲ鳥の、遠い鳴き声だけが響いている。
幸いにも星々は明るく、灯りには困らなかった。王は姿勢を落として中庭を走り抜けた。
城門の近くに寄るのはかなり手間取ってしまった。なにしろ、灯りの傍に常に衛兵が立っているのだ。
迷った末に王は堂々と歩いていくことにした。衛兵には声をかけられたが「散歩だ」と言い張り押し通った。
着いてこようとする衛兵をなんとか追い払い、アクィラ九世は厩舎へと辿りついた。
「じっとしていろよ。私が、お前の、主なんだぞ」
一番小さな騎竜に鞍をのせ、首筋をさすって落ち着かせる。騎竜は夜中に起こされたのが気にくわないのか声を立てて小さく唸り、何度も足を踏みならした。
「頼む、静かにしてくれ、これっきりにするから」
根気強く落ち着かせ、手綱を解く。先王たちの記憶を思い出しながら鐙に足をかけ、騎竜の背へとよじ登った。
「王、何をしておられるのですか」
厩舎の入口から声をかけられたのはその時だった。
「イグリ……」
「衛兵が困っていましたよ。貴方が夜の散歩に出ていると」
イグリは小さな騎竜の傍に寄ると、数度頭を撫でて名前を呼んだ。隙あらば足を踏みならし暴れようとしていた騎竜は、たったそれだけで落ち着きを取り戻した。
アクィラ九世はむっとしながら答えた。
「なに、逃げてみようと思ってな」
「逃げる? 何からですか」
「全てからさ」
「すぐに追手がかかりますよ」
「無駄だと分かっていても一度くらい試させてくれてもいいじゃないか」
「……」
イグリは無言で王を見た。王も無言でイグリを見返した。イグリは王の背に手を添えた。
「その乗り方では危ない。もっと前に体重をかけて……そうです」
イグリの言う通りにすると体は安定した。二本脚の騎竜もすっと背を伸ばし、出発の時を今か今かと待ちわびているようであった。
「お気をつけて」
「……ふん」
王は鼻を鳴らすと、手綱を操り、騎竜の首を城門へと向けた。
貴族様は奴隷の身分である少年には見合わないほどの報酬を約束してくれた。
貴族様の要求は一つ。「箱」を神殿から持ち出すこと。
父母は報酬の約束に大喜びしていた。少年には報酬はそれほど魅力的なものには思えなかったけれど。
だけど、「箱」を持ち出すことで彼が救われるなら。
神殿の奥の間。木製の大扉に手をかける。途中何度も衛兵に見つかりそうになったが、なんとかここまでは来られた。
記憶を頼りに祭壇の奥を目指す。そろそろと歩みを進めると、石の壁に突き当たった。今は闇に隠されているその壁には王のみに見ることの許された神々の姿があるはずだ。
壁を伝い、さらに奥まった場所へ体を滑り込ませる。
塗りつぶしたような暗闇の中、少年は「箱」に手をかけた。
真夜中。自室の窓から窓枠を伝い、アクィラ九世は中庭へと降り立った。中庭には人影はなく、時折、裏庭の木の上に巣をつくったトカゲ鳥の、遠い鳴き声だけが響いている。
幸いにも星々は明るく、灯りには困らなかった。王は姿勢を落として中庭を走り抜けた。
城門の近くに寄るのはかなり手間取ってしまった。なにしろ、灯りの傍に常に衛兵が立っているのだ。
迷った末に王は堂々と歩いていくことにした。衛兵には声をかけられたが「散歩だ」と言い張り押し通った。
着いてこようとする衛兵をなんとか追い払い、アクィラ九世は厩舎へと辿りついた。
「じっとしていろよ。私が、お前の、主なんだぞ」
一番小さな騎竜に鞍をのせ、首筋をさすって落ち着かせる。騎竜は夜中に起こされたのが気にくわないのか声を立てて小さく唸り、何度も足を踏みならした。
「頼む、静かにしてくれ、これっきりにするから」
根気強く落ち着かせ、手綱を解く。先王たちの記憶を思い出しながら鐙に足をかけ、騎竜の背へとよじ登った。
「王、何をしておられるのですか」
厩舎の入口から声をかけられたのはその時だった。
「イグリ……」
「衛兵が困っていましたよ。貴方が夜の散歩に出ていると」
イグリは小さな騎竜の傍に寄ると、数度頭を撫でて名前を呼んだ。隙あらば足を踏みならし暴れようとしていた騎竜は、たったそれだけで落ち着きを取り戻した。
アクィラ九世はむっとしながら答えた。
「なに、逃げてみようと思ってな」
「逃げる? 何からですか」
「全てからさ」
「すぐに追手がかかりますよ」
「無駄だと分かっていても一度くらい試させてくれてもいいじゃないか」
「……」
イグリは無言で王を見た。王も無言でイグリを見返した。イグリは王の背に手を添えた。
「その乗り方では危ない。もっと前に体重をかけて……そうです」
イグリの言う通りにすると体は安定した。二本脚の騎竜もすっと背を伸ばし、出発の時を今か今かと待ちわびているようであった。
「お気をつけて」
「……ふん」
王は鼻を鳴らすと、手綱を操り、騎竜の首を城門へと向けた。
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