みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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最終部 シンデレラボーイはこの『最強』を打ち砕く義務がある!

第5話 ハミチンクリエイティブ凹

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「それじゃ失礼しまぁ~す」



 ガララッ! と職員室のドアを閉めながら、「んん~っ!」とゆっくりと背伸びをする。

 途端にポキポキッ! と心地よい音が身体を駆け抜ける。



「まったく、マジで書き直しさせられるとは……。結局、放課後までかかっちゃったよ」



 廊下を見渡せば、みな鞄片手に帰宅する者や、部活動に精を出す者などで溢れかえっていた。

 のだが、何故かみんな俺を視界に納めた瞬間、ギョッ!? と2度見するなり、頬を染めて明後日の方向に目線を彷徨さまよわせたりしていて、早足でその場を去ろうとしていく。

 どうしたんだろう、みんな?

 そんなに急ぎの用事でもあるのだろうか?

 なんて思っていると、冷たい風が肌を撫でて、俺の剥き出しの2代目Jソウルブラザーズがブルリッ! と震えだす。



「うぅ~っ!? やっぱ廊下は寒いなぁ。さっさと教室戻って、生徒会室でだんを取ろうっと」
「――いや、その前に服着ろし」



 おや? この声は?
 俺はプリティキューティーな声音に導かれるように首を捻ると、そこには俺の制服を胸の前で抱きかかえた愛しのプチデビル後輩、大和田信菜ちゃんが立っていた。

 何故かあきれた目で。



「まさかナチュラルに全裸で職員室から出てくるとは思わなかったし……」
「おぉっ、大和田ちゃん! こんな所で奇遇じゃん! 職員室に何か用?」
「用があるのはシロパイの方。いいから、まずは服を着ろ!」



 そう言って、その猫のようなアーモンド形の目を明後日の方へ向けながら、「んっ!」と田舎のクソガキのように胸の前で抱きかかえていた俺の制服を差し出してくる、元ぶりっこJK。

 時折チラチラと俺の胸板あたりに視線を向けては、ポッ! と頬を染めていたが、俺が見ていることに気がつくと、慌てて視線を逸らす。

 そんな可愛い彼女を全裸のまま抱きしめてやろうかと、本気で思案していると、



「――むっ!?」
「? どったのシロパイ? 急にそんな真面目な顔して?」
「いや、何故か校舎の中に鷹野が入ってきたような気配を感じて……気のせいか?」
「シロパイが何か変なレーダーを搭載してる……」



 若干ドン引きしている我が後輩を尻目に、いそいそとパンツに足を通しながら、彼女に「静かに!」とジェスチャーを送る。

 そのまま、2人して耳を澄ませると、校舎内の喧騒けんそうと共に、よく響く2人の男子生徒の声音が廊下に木霊してきた。



『急げノブ! 間に合わなくなっても知らんぞぉぉぉぉぉぉ!?』
『落ち着いてください、タカさん。どうしたんです? そんなに急いで森高なんか来て?』
『ワシにも分からん……でも感じるんや。今、喧嘩狼が全裸で居るということを! はよ駆けつけて、1分1秒でも長く、喧嘩狼のグラマラスボディを目に焼きつけな!』
『タカさんが何か変なレーダーを搭載している件について……』


「「……」」



 俺と大和田ちゃんは、揃って2人顔を見合わせる。

 大和田ちゃんは何とも渋い顔を浮かべていた。

 きっと俺も同じ顔をしているコトだろう。



『むっ? 臭いが濃くなった……コッチや!』
『待ってくださいよ、タカさん』



 我が心の兄上、大和田おおわだ信愛のぶちか兄たまの辟易した声が聞こえたかと思った、次の瞬間。

 曲がり角から真剣そのものといった様子の我らがハードゲイにして、天下に名だたる不良高校の頭、鷹野翼が弾丸のごときスピードで姿を現した。

 かと思えば、パンツ1枚の俺の姿を目視するなり、その目を大きく見開いて、



 ――ブホォッ!?



 と、血管がブチ切れたような勢いで、鼻から血を吹いて崩れ落ちた。



「ハァ、ハァ……速いですよタカさん。もう少しスピードを落として……てぇっ!? どどど、どうしたんですか!? わたくしが目を離した隙に、一体何があったんですか!?」



 数秒遅れて曲がり角から兄上が姿を現すが、お尻をプリプリ♪ と小刻みに動かしながら鮮血に染まる鷹野を目撃するなり、血相を変えて声を張り上げた。

 が、すぐさま半裸の俺の姿を視界に納めると、あからさまに『ホッ』とした溜め息をこぼした。



「また大神様ですか……。まったく、いい加減にしてください。さすがにそろそろ、タカさんの肉体がちませんよ?」
「えっ? その叱責しっせきは理不尽過ぎない?」



 俺、何もしてないよ?



「というか、なんで兄者たちはココに居るわけ? 不法侵入?」
「それはタカさんが『むっ? 森実高校の方から、香ばしいお尻の匂いが……っ!?』と言って、勝手に……。そんなことよりも大神様、どうしてパンツ1枚の姿なんですか? 目のやり場とタカさんが興奮のあまり死んでしまうので、早く服を着て……」



 ください、と続くハズだった兄上の言葉が、そこで不自然にストップする。

 どったべ? と首を傾げる俺を無視して、兄上は俺の真横でたたずんでいる実の妹に視線を向けていた。



「? どうしたの、お兄ちゃん?」と、若干まだ頬が朱い大和田ちゃんが、キョトン? とした顔を浮かべる。

 そんな妹の姿を目視した瞬間、兄様はキラキラと見る者すべてを幸せにするような笑みを浮かべて、ゆっくりと俺の顔面へと手を伸ばし、



「――おい、テメェ喧嘩狼? もしかしてウチの妹に手ぇ出したんじゃねぇだろうなぁ? あぁん!?」
「おっとぉ? お兄様がいきなりブチ切れモードに突入したぞぉ?」



 どうやら俺の姿を見て、妹に手を出したと邪推したらしい兄上。

 心外だ! 

 俺が女の子に手を出すときは、もっと夜景が綺麗なホテルを予約して、ロマンティックが止まらない状況に追い込んでだな!

 なんて考えてると、お兄たまの拳がゆっくりと振りかぶられ……って、アカン!?



「タンマタンマタマキン兄さん! 誤解、誤解だから! まずは俺の話を聞いて!?」
「それが最後の言葉で本当にいいんだな!?」

「嫌ぁぁぁぁぁっ!? 犯されるぅぅぅぅぅっ!? エロマンガの生意気なメスガキよろしく、体に分からさせられるぅぅぅぅぅっ!?」

「ハァ……。なんでウチの周りは、こうも騒がしいんだろ? ほんと違うから、お兄ちゃん。ウチは何もされてないから」



 そう言って大和田ちゃんは、至極面倒臭そうに実兄に今までの経緯を説明してくれた。

 もちろん例の幼児化チョコのくだりはボカしながらだけど。

 そんな大和田兄妹を尻目に、意識を取り戻した鷹野が「喧嘩狼っ!」と嬉しそうな声をあげながら、手に持っていた紙袋を俺に差し出してきた。



「ナニコレ?」

「話はノブリンから聞いたで! 何でもバレンタインデーに1つもチョコを貰ったことが無いらしいやないかい! そんな喧嘩狼にワシからのプレゼントや! 真心こめて作った、ワシ特製の手作りチョコレートを受け取ってくれぃっ!」

「何が悲しくて男からチョコを貰わにゃならんのだ……。そういうのはモジモジした奥手な女の子から貰うからこそロマンが溢れて――ってぇ、ちょっと待て鷹野? この紙袋の中に入っている薬品の瓶は一体なんだ?」

「あぁっ!? しもうた、ついうっかり!?」



 渡された紙袋の中には綺麗にラッピングされた箱と……見るからにヤバげなデザインの箱は1つ。

 俺はその空になったヤバげなデザインの箱を取り出し、



「鷹野おまえ!? この『ご唱和ください、箱の名を! ウルトラ精力剤! ~僕のアソコがレ●キングバースト~』っていう、明らかにまっとうじゃないドラッグをチョコにぶっこんだだろう!?」

「ちゃ、チャウチャウっ! ワシがぶっこんだのは真心や!」
「いやどう考えても、ぶっこんだのは真心じゃなくて悪意だろうが!?」



 チッ! と、あからさまに舌打ちをしてみせると、鷹野は一周回って開き直ったのか、胸を張ってこんな業の深いことを言い出した。



「なぁに、溢れ出る性欲に負けて1度でもケツの快楽を味わってしまえば、コッチのもんぜよ! ふふふっ♪ 薬の力で喧嘩狼をワシ無しではいられない身体にしてやるわい!」

「悪魔か、おまえは!? 人を地獄に誘うにしてもアグレッシブ過ぎるわ! ……おい、待て! コッチくんな! にじり寄ってくんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



 いつも通りの騒がしい日常。

 永遠に続くと思われたバカバカしい日々。

 でも、このときの俺はまだ何も知らなかったのだ。

 この世に永遠なんて無いことに。



 ……もうすでに『どうしようもない』程にまで膨れ上がった悪意が、俺の足下まで迫っていることに。



 そんなコトに気づきもしないで、今日もまた俺は、鷹野のゲイ・ボルグから、お尻の穴を守るため、校舎の中を全力疾走するのであった。
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