その女、自由人

自由奔放

彼女には、結婚予定の恋人がいた。

数年付き合う中で喧嘩することもあったが、大きな問題もなく順調だった…あの日までは。


「私、アヤ。貴方は？」

「俺はマコト」


居酒屋で知り合った、一人の男。

アヤは彼と意気投合し、そのまま関係を持ってしまう。


「このままして大丈夫？」

「うん、いっぱいして…！」


一夜の過ち、それっきり。

そうなるはずだったのだが、しばらくしてアヤは体の異変に気づく。


「え…うそ、まじ？」


そう、酒の勢いで遊んだだけのつもりが妊娠してしまったのだ。

恋人の子ではなく、マコトの子供を。


「やっばー…どーしよ」


アヤは考えを巡らせる。


（結婚するためには産むわけにいかない…でも、堕したら次はないかも）


三十代後半になっていたアヤは、子供を望んでいた。

年齢的に、この子を降ろすと次は望めないかもしれない。

子供が欲しい気持ちと、恋人との結婚で迷いながらアヤは男たちとの話し合いの場を設けることに。


「俺はアヤと別れるつもりはない。子供は諦めよう」


恋人のタクマはそう言ってアヤの手を握る。

しかし、


「…責任は俺がとります」


マコトも引かない姿勢を見せたのだ。


「俺がアヤさんを幸せにします。タクマさんには慰謝料もお支払いします」

「俺は別れないぞ！！」


男二人は互いに引かず、話し合いは難航した。

アヤもタクマへの思いと子供のことで決めきれず、日にちだけが過ぎていく。


（どーしよ…今まで遊んでも平気だったのに）


実はアヤの浮気は初めてのことではない。

タクマにはバレていなかったが、何度も酒の席で頭と体が緩くなっていたのだ。

時には、犬耳と尻尾を装着しての動物プレイ。

酒は彼女の気持ちを盛り上げて、複数プレイに励んだこともある。


「いいねぇ、こういうの好きなんだ？」

「気持ちいいの、好きぃ」

「ノリが良い女はいいねぇ」


恋人に知られることなく、楽しい時間を過ごしただけ。

これからも上手くやっていけると思っていた。


「生活には困らせない。俺に責任を取らせて欲しい」


幸か不幸か、マコトはとても誠実で。

いっそのこと知らんぷりして逃げるような遊び人であったなら、アヤも子供を諦めて予定通りタクマと結婚しただろう。

収入面でもマコトのほうが安定しているらしく、出産を選ぶならマコトと結婚するほうが安心できそうだ。

納得できないのはタクマ。

アヤの酒癖を知らず、結婚するつもりで過ごしてきた彼にとっては寝耳に水な出来事。

別れたくないという気持ちが強く、話し合いは数時間に及んだ。


「…アヤは、どうしたいんだ」


結局のところ、決定権はアヤにある。

産むのか産まないのか、どちらと結婚するのか。

アヤの出した結論は…


「ごめんね…タクマ。今までありがとう」


子供を諦めきれず、マコトを選んだのだ。

泣くほど別れを嫌がっていたタクマだったが、アヤの心が決まってしまった以上どうすることもできず。

マコトが慰謝料を払うことで話はまとまった。


「ありがとうマコト、これからよろしくね！」

「ああ…これからは酒禁止な」


いつまた同じことを繰り返すかわからない。

アヤに禁酒令が出たのは当然だろう。

幸せな未来を思い描いていたタクマを傷つけ、裏切った代償というには安すぎるくらいだ。

不満げに頷くアヤの姿に、反省の色は見られない。

果たしてこの二人、幸せな家庭を築けるのだろうか？

生まれてくる子供の運命を、誰も知らない。