上 下
14 / 23

第14話:聖女様?いいえ違います

しおりを挟む
行く先々で魔物と遭遇し倒していくリリーナ。

十体を超えたあたりから、アレクシオは数えることも考えることもやめた。

マルロは相変わらず何も言わずについていくだけ。

そんな三人の噂が広まるのに時間は掛からなかった。


「あの!もしかして、貴女様は聖女様でしょうか!?」


山道で魔物に襲われていた行商人を助けたら、彼は聖女リリーナの噂を知っていたらしい。

膝をつき祈りを捧げる行商人に、リリーナは首を横に振る。


「いいえ、私は聖女様ではございません。ただの拳闘士であり猟師です」


ね、と同意を求められたアレクシオとマルロは頷く。


「は、はい。リリー様は聖女様ではございませんよ、ええ」

(嘘下手くそか。まあ仕方ないわよね、神殿で働いてた人が不誠実だったら困るか)


真面目なアレクシオは嘘が下手だ、挙動不審になっている。

戸惑う行商人に別れを告げ、リリーナ達はそそくさとその場を後にした。


「次の街でまた情報を探しましょう」


魔物の出現情報を求めて西へ東へ旅を続けている一行。

マルロには気になっている事があった。


「…リリー様、一つ伺ってもよろしいでしょうか」

「何でしょう?」

「浄化の力についてです。以前、神殿に押し寄せた人々の治療をなさいましたよね…それ以降はお使いになっていないようですが、弱った力は戻らないのでしょうか」


力の強さで選ばれたのに、一度使い過ぎただけで失ってしまったのだろうか。

マルロはずっと気になっていたのだ。


「んー、どうなんでしょうね」


リリーナは首を傾げ、両手を見つめる。


「手から炎がどーんと出るわけでもないので、今の力がどれくらいかと聞かれても分からないのです。疲れは取れましたけれど、試してまた寝込むのは嫌なので。」


聖女ならば身を粉にして人々を救う!と言いそうなものだが、リリーナにそんな意識はない。

あの時は認定直後でよく分からず、救いを求める人々の願いにただ応じたけれど。

おかげで三日間も高熱が出て寝込んだため、あんなのはもう御免だと思っていた。


「失望しますか?聖女なら死んでも人の役に立て。そう思いますか」


リリーナの問いに、マルロは首振る。


「いいえ…貴女を生贄にするつもりはありません。聖女だからといって、己を押し殺す事が正しいとは思わない」


使い潰すような扱いをすべきではない、そう続けるマルロにリリーナは微笑んだ。


「ありがとうございます。私は私らしくありたいので、聖女らしくなくても自分なりの方法で人助けをしたいと思います」


アレクシオは複雑そうな顔をしていたが、口を挟む事はなかった。
しおりを挟む

処理中です...